ドラゴニカ

トドロキ

Dragonnica

プロローグ

 下校時刻を知らせる校内放送が流れる。俺はほかの部員と一緒に部室を片付け帰り支度を始めた。といっても広げた本や漫画や辞書類を棚に戻すだけのことだけど。

「カイ、今日吉牛よってかない?」

 声をかけてきたのは同じ2年の長谷部だった。

「あー、今日はパス。おれ散歩当番なんだ」

「あ、わんちゃん? かいがいしいねえ」

 俺は動物が好きなだけなのだが、飼い犬を積極的に世話する男子高校生は珍しいらしい。よく、優しいとか面倒見がいいとかいう評価を受ける。じゃあ、と手を振って部屋を出た。


 この時間まで部活に励んでいるのは運動部ぐらいで、教室棟は静まり返っている。昇降口を出ると、山あいの空から眩しいほどの西日が差していて、俺は目を細めた。チャリに乗って漕ぎ出すと、東に向かう俺の目の前に黒い影が伸びた。

 県道沿いにはコンビニも新興住宅も点在する地域だが、そこを外れると田んぼと民家が混ざった田舎だ。人影はないが、鳥や野良猫のにぎやかな会話が聞こえてくる。

 俺の家はチャリで15分ごろの距離だ。これくらいの場所に距離的にも偏差値的にもちょうどいい高校があるのはありがたい。


 家に着き、門を開けて庭に入った。ちょうど庭で遊んでいたらしいヒロが俺に駆け寄ってくる。

「おかえり! 兄ちゃん!」

「ただいまー」

 ヒロは年が離れているので俺のことをとても慕っている。嬉しそうにぴょんぴょんはねた。

「ちょっと待ってて」

 まず家の鍵を開けて荷物を玄関に置いてから準備をし、再び鍵をかける。


「今日は兄ちゃんが散歩の日なんだね」

「そう」


 俺はハーネスをつけてリードを持った。


「行くぞ」

「はーい!」


 リードをつけたヒロは、嬉しそうにしっぽを振った。

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