Ex2 少女から見た友2

 私の名前はディーネに決まった。

 とても、良い。

 あの・・名前に比べると雲泥の差だ。

 可愛らしい名に、少し気分が軽くなる。


 このお湯につかる行為も、予想外に楽しい。

 水を掛けられるのは、少なくともまだ馴れない。


 ユウに掛けられるのは不快に感じなかったのが、不思議だった。

 そのユウは、サクラの髪の毛に、良い香りのするどろりとしたものを馴染ませている。


 サクラの上半身は、ユウにもたれかかるように後ろへ倒れていた。

 ユウはサクラの身体を二の腕で支え、髪の手入れをしている。


 手が動かしづらいのか、友の顔には苦笑いが浮かんでいたが、その顔は、優しさに満ちていた。

 心地よいのか、サクラから鼻歌が聞こえ始める。


 見ていて、気分が暖かくなる。

 とても、仲の良い兄妹のようだ。


 しかし仲睦まじいのは良いことだが、このように共に風呂に入るものなのだろうか。

 よくわからない。

 もしかしたら、通常の行為なのかもしれないが、私にその知識はない。

 常識なのか、非常識なのか判別がつかない。


 更に不思議なことがある。

 サクラはユウのことを『おにいちゃん』と呼んでいた。

 言葉通り、兄を示すのだと思うが、歳が離れていないように見える。


 双子なのかも。

 そう思うが、引っかかった。

 似ていない。

 二人とも整った顔をしている。


 しかし、あまりにもかけ離れていた。

 同じなのは髪色くらいなもので、目鼻、顔の輪郭など、似ていない。


 眺めていると、その違いが気になりだしていく。

 聞いても良い話題なのだろうか。

 悩んだ挙句、横に視線を向けた。


「んー? どうしたの、ディーネ?」


 傍らのルフィーが、浴槽の縁にもたれかかっている。


「……二人は、双子、なんですか?」


 思わず聞いてしまった。

 ルフィーは答えずに、私から視線をユウに移した。ルフィーに倣ってユウを見る。


「似てないでしょー?」


 私に向けてユウが笑っていた。

 ユウの言葉に続くようにサクラも笑い出す。


「そういえば、前に調べたことあるけど、男女で一卵性双生児って殆どいないんだってさ」


「へえ。そうなんだ。おう、トリートメント流すぞー」


「ばっちこーい。でさー、犬の赤ちゃんっていっぱい生まれるでしょ?」


「そうだな」


「なんと、犬の場合って双子とかそういう呼び方しないんだって」


「まじか。六つ子とか呼ぶのかと思ってた」


 ユウとサクラは雑談を始めた。

 結局明解は得られなかったけど、話しぶりから見ると、二人は双子のようだ。


 双子だから、距離感が近く見えるのだろう。

 そうに違いない。

 私はそう思い、納得する。

 考えている間に、サクラの髪の手入れが終わったようだ。


「ねえねえ、ルフィー? ルフィーはおにいちゃんに洗って貰わないの?」


「あたし、精霊だよ? 身体汚れないから、必要ないわよ」


「え、そうなの?」


「そうよー。髪も傷まないし。垢もでないし、臭くもならないのよ。じゃあ、あがる?」


 サクラとルフィーが会話する横で、ユウが大きな溜息を吐いた。


「俺は湯船で温まってからあがるわー」


 ユウはそう言うと、タオルで股間を隠しながら浴槽に近付く。

 ルフィーはユウを見上げながらにやにやし始めた。


「はっはっは。思春期ボーイ、なかなか大変そうじゃないか」


「……なんだよ」


「やっぱり、あたしみたいな身体に興味津々のようね」


「違う」


「タオルを取ってみたまえ」


「いやだ」


「もしかしたら、手を離してもタオルが落ちないかも?」


「やかましい」


 ルフィーは時折、身体をくねらせてポーズを取っている。

 それをユウはじっくり見て、そして顔を逸らした。


「ほらー、ルフィーも上がるよー。ディーネちゃんもそろそろ上がろうー?」


「はいよー」


 サクラが呼んでいる。

 従おうと私は湯船から立ち上がる。

 浴室から出ようと、扉に向けて歩き始めた。

 そして背後からで、ルフィーがお湯から出る音が聞こえた。

 目の前ではサクラが大きなタオルを持って待ち構えている。


「はい、身体拭こー!」


 サクラに捕まった。

 そしてタオルで全身をわしゃわしゃされる。

 くすぐったさに声を出しそうになった。

 タオルが耳を擦り、周囲の音が今一つ聞き取りづらい。

 早く終わることを祈りつつ、身を任せる。


「……助かった」


「……ほんと、バカね」


 私の耳に、ユウとルフィーの声が聞こえた気がした。

 会話しているのだろうか。小さな声で、全容がわからない。

 何だろうと、そう思った。しかし考える間がなかった。

 タオル攻撃はなくなり、大きな音が鳴る。

 熱風が髪に当たる。


 ユウとルフィーが小声で何を話したのか。

 その疑問は頭の片隅に追いやられ、私は、されるがままに髪を乾かされた。

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