盗まれたダイヤ

とあるパーティーの会場の一室。

 太った中年男性の山崎氏は、腹を押さえて苦しげに言った。

「いったいいつまでこんな取り調べを受けなくてはならないんだね。私は胃が痛くなってきたよ」

「夫は明後日に胃の持病で手術をする予定なのよ!早く家に帰してちょうだい!」

 耳にうるさいキンキン声で、夫人も後ろでわめいている。

「ご勘弁下さい」

 そう言ったのは、よれよれのフロックコートを着た初老の男だった。どこか他人に不快感を与える嫌らしさをかもしだすその顔は、にやついた笑みを浮かべている。

 この事件を担当している捜査官、久我山警部だ。

「このパーティーの招待客のなかで、あのダイヤのブローチを盗むチャンスがあったのはあなた方だけなのです。捜査には協力していただきませんと」

「だから、所持品をさっき調べただろう!」

 山崎氏はいきり立った。

「私たちがダイヤを持っていたかね!」

「いいえ」 

「ハンドバッグや鞄には?」

「底まで調べましたが見つかりません」

「車はどうだった」

「たとえバラバラに分解しても何も出てこないでしょうな」

「それ見ろ!」

 山崎氏は大きく両手を広げ、吐き捨てた。

「これ以上、何をしろってんだ!」

「もう一つだけ、お願いします」

「何だ?」

 頭を下げた警部をギロリと睨む山崎氏。目は血走り、頬は真っ赤になっている。

「レントゲンを受けていただきたい」

 あっ、という間。

 まさに、あっという間に、みるみる血の気が失せ、山崎氏は死人の顔になった。全身から信じられない量の汗を吹き出した彼は、思わず倒れ込みそうになるのを壁に手をついて防いだ。

 警部は笑った。

「胃の病気は本当だそうですから、明後日は予定通り手術を受けてもらいます。あなたが買収した医者はすでに逮捕されていますので、執刀は別の医師が行いますがね。

 ただし、とりだされたダイヤはあなたのモノにはなりませんよ」

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