ショートショート集

ストーリーもの

魔法使いの猫

 あるところに、猫がいました。

 とても太った猫で、いつも、駐車場の横のブロック塀の上、いちばん日の当たる暖かい場所でごろんと横になっています。

 寝っ転がって、寝言を言って、寝返りを打つ。

 毎日毎日、同じことの繰り返し。

 それを見て、ネズミはとても不思議に思いました。

「あの猫は、いつもああやって寝ているだけだ。それなのに、どうしてあんなに太っているのだろう?」

 自分は、朝から晩まで走り回って食べるものを探しています。それなのに、おなかがいっぱいになったことは一度もなく、やせっぽちのまんまです。

 ネズミは、友達のネズミに聞いてみました。  

「あの猫は、魔法使いだって噂だ」

 友達は答えました。

「自分の宝物を持って行くと、どんな願いもかなえてくれるんだってさ」

 ネズミは驚きました。

 そんな秘密があったとは。 

 ネズミは居ても立ってもいられなくなり、全力で走って家に帰ると、秘密の場所に隠しておいたチーズのかけらを取り出しました。

 自分の一番大事な宝物、とっておきのごちそうを持って、ネズミは魔法使いの猫のもとへと急ぎました。 

「猫さん猫さん」

「なんだい、ネズミかい。何の用かね」

 猫は眠たそうに目をこすり、ゆっくりと起き上がりました。

 ネズミは言いました。

「あなた、魔法使いなんでしょう。僕の願いを叶えて下さい」

「いいよ。ただし、お前の宝物を俺によこしな」

「かまいません」

 ネズミは、チーズを猫の前に置きました。

「それでは、願いを言うがいい」

 願いは決まっていました。今まで、おなかいっぱいご飯を食べたことがなかったネズミです。迷うことなく言いました。

「おいしいものを、おなかいっぱい食べさせて下さい」

「よしきた」

 猫は、缶入りのキャットフードを咥えて持ってきました。

 ネズミは、それを食べて驚きました。

 こんなにおいしいものは、食べたことがありません!

 夢中になって、ネズミはキャットフードを食べました。半分も食べないうちに、ネズミのおなかはいっぱいになりました。

「もうダメだ、食べられない」

 それを見て、猫は言いました。

「さあ、願いは叶えた。お前の宝物をもらうことにする」

「はい。とっておきのチーズをどうぞ」

 ネズミがチーズを指さすと、猫は首を振りました。

「そうじゃない。もらうのはお前の命だ」

 ネズミはびっくりして逃げようとしましたが、おなかがいっぱいで動けません。猫はネズミを簡単に捕まえると、ぺろりと食べてしまいました。

 猫はアクビを1つして。

 これまでと同じように、丸くなりました。  

 こうしていれば、腹ぺこのネズミが、また魔法使いの猫のもとへやってきます。食べ飽きたキャットフードの残りをあげるだけで、おいしいネズミがまた食べられるのです。 

 猫はぽかぽか暖かい日差しの中、ぐっすりと気持ちよく眠りました。

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