第2話

今日も会社の先輩に付き合わされて、たらふく酒を飲んでしまった。明日も早いのに終電ギリギリで何とか帰ってきた。

先輩はまだ飲むらしい。そう言えば明日の予定はどっかに直行だったっけ。

駅から部屋まで10分。駅前のコンビニで水を買う。500ミリのペットボトルがあっという間に空っぽだ。

帰り道の自販機でコーヒーを追加。ホットにしようか冷たいのにしようか迷う季節だけど酔ってるから冷たいのにして、その場で少し休憩。

目の前にはアパート。昔ながらっていうのか、カンカン音が鳴りそうな(実際に鳴る)外階段と玄関ドアの横に並ぶ洗濯機。

ちょうどその階段を上がっていく50代ぐらいのおっさん。作業着のまま、スーパーのビニール袋ぶら下げて。透けて見える高アルコール低価格な酒。

たまに見かけるんだけど、その度に、ホント危なかったなぁって思う。

俺、高卒じゃないんだけど、ぶっちゃけ行っても行かなくてもどうでいいような大学卒で。しかも1年留年してて。

マジで氷河期とかじゃなくてホント良かったし、最初に勤めた会社はクソみたいなベンチャーだったけど、2年ぐらいしたらさらに売り手市場でチャチャッと転職。

給料がいいって噂の今の会社に滑り込んだ。

別に偉くなろうなんて思ってないし馬鹿にされない程度にやっとけばいいんだろ?ってな感じ。

ぶっちゃけ仕事はデキル。何かできない奴が頑張ってます風に汗かいてるのとかマジで萎えるし、そういう奴に元デキル奴が偉そうに説教ぶってるのも萎える。

ほんとはやる気もねぇくせに、なに頑張って自分の存在価値出していこうとしてんだよ?

ばーか。



カンカンカン、って音で目が覚める。薄目を開けると、90度回転した部屋の畳の上にジョージアの缶と上に積み重なったシケモク。

さて、今日の現場はどこだろうな、って思ったけど。あ、ダメじゃん。もう集合時間過ぎてんじゃん。昨日はどれぐらい飲んだんだっけ?あの9%の合法薬物を何本飲んだんだろう?酔っぱらって寝て起きたら高層マンションに住んでたりしないかな?なんつって。さて、仕事がねぇってことはパチ屋かな。しかし、あちぃな。窓開けてもうんともすんとも風がねぇな。風呂でも行くかっても、めんどくせぇなってんで、タバコ吸うかとりあえず。あー、この感じももう3年か。だいぶ馴染んできたな。嫌いじゃないから困っちゃうよね。



何だかんだ勤めてる間に、俺のこと好きそうな子が周りにいて、カラオケ行っておっぱい揉んだりしてたりしたら、起きたら俺の部屋にいて、カノジョ顔して居着いたと思ったら、子供ができてゴールイン。

やべぇやべぇってんで、何だかんだ儀式的なやつ済ませて体裁整えて祝結婚。

もちろん年賀状は、青い海と青い空バックに、でけぇ麦わら帽子とでけぇサングラスかけた嫁と、その腕に抱かれてる虚ろな顔した赤ん坊と、決まりきった変顔した俺の写真よ。幸せを全力で表現したやつよ。Facebookのいいね!も鳴りやまねぇぜ。



あー、落ち着くわパチ屋。何このホーム感。見知った顔のおっさんおばさん。こうやってパチンコに身を委ねてると、パチンコ玉の一つ一つが世界を動かす何かしらの力を持っていて、その力に愛された俺は必ず勝てるんだろうなって気がしてきて、まあ勝ったり負けたりだよね。あ、おねーさん。コーヒーちょうだい。で、何だかんだで一進一退。しょぼい勝ちで終わり。



会社の飲み会でよく一緒になる女の子と、カラオケ行っておっぱい揉むっていつもの流れやってたら、あれよあれよと言う間に立派な不倫関係に。

月に一回が、二週に一回になって、週一になった頃から相手の様子がマジになってきた。

会いたい?とか、好き?とか、鬱陶しいことを聞いてくる。

こっちはセックスできればいいだけなんだから、「好き」とか「会いたい」とかじゃなくて「ヤりたい」なんだけども、そんなこと言うわけもなく。

会いたいよ、とか、好きだよ、って答えるよね。

で、もう皆さんの予想通りの展開で。

俺が居ない間に俺んちに来て、ぶちまけていきやがった。

奥さんのことより私のことの方が好きなはず!だってさ。バカか。



しょぼい勝利金でまた買っちゃったよ、9%の合法薬物。もう最近はつまみとか何でもいいよね。味噌でいいわ、味噌で。テレビの中では芸人同士が顔とけつをくっつけあって笑ってるわけ。平和だなーって俺もゲラゲラ笑っちゃうよね。あー、いい感じに回ってきたなー。



もう離婚だ、とか、お前は左遷だ、とか、パパキライ、とか、やっぱりいま思うとあなたのことそんなに好きじゃない、とか、慰謝料、とか、養育費、とか、あいつ最低だな、とか、お前バカすぎるな、とか、もっとうまくやれよ、とか、慰謝料、とか、退職しろ、とか、ゲスの極み、とか、実家に帰ります、とか、えーっと他には何があったかな?

あれ?慰謝料2回言っちゃった?

あ、ほんとにこんなこと言われるんだなー、あ、マジでクズ扱いだなー、って思って。

不思議なことにすげー他人事で。

気づいたら会社やめてて、マンションからアパートに引っ越してて、髪の毛もひげもボサボサになってて、タバコも再開してて、そういえば風呂も入ってないねって。



カンカンカンカン。

心地よい足音でうっすら目が覚めると、次の瞬間、ドーン!ってドアを蹴破らんとする音。

あー、これさえなければ結構幸せなのになー。

チチチチチ。

ガスコンロも火がつかねぇからさっきからほったらかしなんだけど、なかなか死なねぇもんなんだな。

まあ、怖い人たちが帰るまでこのまま寝たふりしとこーっと。

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