異世界賢者のファンタジア

PeaXe

prologue

00 現実的幻想

 魔王の会談に応じますか?

 YES or NO



 そう問われたら、君はどうするだろうか。


 それがゲームの中の話で、魔王は人々を滅ぼそうとしているとしたら。

 しかし、その魔王の正体が、かわいらしい美少女だったとしたら。



 高校一年生の秋、俺こと―風羽翠兎カワネ スイト―は、その時、ゲームをしていた。

 親友である―神楽達樹カグラ タツキ―に、開発途中のゲームのテストプレイヤーをしないかと誘われたのだ。


 最大4人一緒に遊べるタイプのテレビゲーム。出来ているのは大まかなシステムとストーリーのみという状態で渡された。


 ストーリーはありがちなもので、悪の魔王を勇者達が倒すというもの。

 その最終局面。つまり、魔王と勇者の対峙の会話が、これである。


 最終局面は大画面でやりたいというわがままから、学校の視聴覚室を貸しきって、俺とタツキとで一緒にハッピーエンドを見ようとしていた。


 当然、悪の魔王を倒そうと考えたし、それがかわいい美少女だろうが関係なかった。


 これはゲームだったし。


 魔王が美少女に変身しているだけだとも思ったし。


 だからこそ選択肢はNOを選んで……その結果、何故かバッドエンドだった。

 そのエンドに付けられた題名は『あれれ~? 世界が崩壊しちゃったよ! エンド☆』である。


「だぁ~! 何でだぁ~!」


 横で騒ぐタツキを尻目に、俺はホラーテイストのエンドロールが早く終わらないかと考えていた。


 このゲームにゲームオーバーという言葉は存在しないに等しいが、エンドロールとかマルチエンドなどの言葉は存在している。それはもう、存在感をこれでもかと濃いめにしたようなレベルで。

 ちょっとした条件を達成するだけで長い長いエンドロールを見させられるのだ。


 そこはウンザリしていたので、ようやくハッピーエンドを迎えられそうという段階になると、ようやくかとワクワクした。


 しかしそこで、これである。やる気はかなり削がれていた。

 魔王を追い詰めるのに相当時間を費やしていたため、既に下校時刻となっている。そろそろ切り上げねばなるまい。


 そう思って、ゲーム機の電源に手を掛けた。

 俺は大した勇気も使わずに、電源ボタンを長押しした。


 ……だが、10秒、20秒経っても、エンドロールは止まらない。


 それどころか、エラーが出たように、画面に所々砂嵐が起こっていた。

 そしてとうとう、画面に砂嵐が起こったまま、画面が暗転してしまう。


 何が起こったのかと、映写機の様子を見に行こうとしても、視聴覚室の扉も窓も、ついでにカーテンだって開かなくなっていた。

 異変が起こっている事を理解すると同時に、映写機は大きなスクリーンに何かを映し出す。



 マオウ ノ カイダン ニ オウ ジ マス カ ?

 ぃえ す  おぁ  のー



「……え、何だこれ」


 ラスボスである魔王に、止めをさす直前で出された質問だ。これにNOと答えて、バッドエンドになってしまった。

 だが、その質問は既に終わったし、俺達はゲームをやり直してもいない。


 明らかにバグだった。文字だっておかしいし、何よりこの状況がおかしすぎた。


 ……だが、その場で何か変化を求めるのなら、画面の選択肢を動かすしかなかったのだ。

 俺はタツキと目配せする。そして、コントローラーを手に、先程選ばなかった『ぃえす』を選択し、決定ボタンを押し込んだ。


 ……。


 そこから先の記憶は曖昧だ。

 ただ、真っ暗な空間に漂って、沈んだり、浮かんだりを繰り返した事ぐらいしか分からない。


 気付いたら夢でした、だったらどんなに良かったか。



【 申請を受理しました 『異世界の賢者』を歓迎いたします 】



 そんな、機械的な女性の声が聞こえた気がして、俺は重く感じる瞼を持ち上げる。


 ―― 気が付くと、俺は知らない天井を見つめていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る