咎人と緋色の剣士
暁烏雫月
0プロローグ
怪しい旅人
リュウは山の中にいた。この山はユダ国の国境にある山だ。斜面に沿って作られた、人が通るための道を全力で走っていた。もう三日も寝ずに移動している。それほどまでに急いでいるのには理由があった。
その身体に
旅衣は意図的にリュウの両腕を隠していた。その頭には黒い漆笠を被り、雨風をしのげるようにしている。そのような様相をしているのには理由がある。彼の職業に関係する理由である。
リュウは今年で
明るい赤茶色の髪はさほど珍しいものではない。だが彼の持つ濃い緑色の瞳はかなり珍しい。さらに彼の
「おい、そこのお前。荷物を全部置いていけ」
山の峠を過ぎた頃のこと。背後からリュウに呼びかける者がいた。殺気を感じ取ったリュウが素早く振り返れば、そこには刀を構えた若者の姿がある。
若者に気付いたリュウは漆笠を少し深く被った。顔を隠すためであり、旅人を装うために。疲れた身体に
どれほど走っただろうか。リュウの視界の端に目的地である町、サザナミの入口がみえてきた。その時だ。町が見えて気が緩んだリュウは、足元にあった小石に
若者がリュウとの距離を詰めて行く。リュウを「ただの旅人ではない」と判断したのだろう。リュウは背負った薙刀に手を伸ばそうとして、なぜか伸ばすのをやめた。そして若者の顔をキッと
若者がリュウ目掛けて何度も刀を振るう。怪我を負わせて怯んだ隙に持ち物を奪おうとしているのだ。だがリュウはどの攻撃も紙一重でかわして見せた。漆笠の下に隠れた顔が微かに笑う。
リュウの身のこなしは鮮やかだった。地面に座ったまま、上体のみを必要最低限動かして攻撃をかわす。しかし立ち上がる気配はない。リュウは転んだ拍子に足を痛めてしまっていた。軽度の怪我ではあるが、動かすと痛む。下手に立ち上がって抵抗するのは得策でないと判断した。
そんなリュウの身のこなしに苛立った若者は、刀でリュウの腹を突こうとした。しかしリュウはその刃を両手で挟み、間一髪で刀を止める。動かそうとしても刀はリュウの手にピタリとくっついて動かない。先程の身のこなしから攻撃してもかわされるのは目に見えている。
若者は何かを警戒するように、サザナミの入口を見る。その目がある人物の姿を映した。その人物は少しずつ、だが確実にこちらに近づいている。刹那、これ以上の長居は良くないと即座に判断する。
「チッ、双剣女か。運がいいヤツめ」
若者はそう言葉を吐き捨てると、刀から手を離して、逃げるように山道を登っていく。これから来るであろうある人物を恐れての行動である。思わぬ幸運にリュウは安堵のため息をついた。
人ではかなり珍しい
追い剥ぎと入れ違いでリュウの近くに女性がやってきた。女性はリュウの様子に気付くと歩む速度を速める。おそらくサザナミの町民だろう。リュウは自分が不審者に思われぬよう、顔が見えるように漆笠を浅く被り直した。
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