7,ねずみが一匹、潜り込んでいるようだな
「おかえりっ! ケンジ!」
「いやそれどころじゃないんだよ」
とびきり可愛い笑顔で迎えてくれるアンヌ。
いつもの部屋。
いつもの異世界。
「ほっ」
いやいや、こっちのが落ち着くってどうなの。
てか、まずいよな。
警察に俺の顔見られてるし。
次は俺に懸賞金かけられんじゃねーの?
ねずみ取りがまさにミイラ状態。
とりあえず戻ったら本のそばに出るはずだから、本をボックスに収納して、すぐ転移で自室に戻って……
「どうかした?」
「ちょっとここ数日、俺の人生におけるイベントが急展開すぎてもう」
「今日は休んだら?」
「そうだな……2時間したらまた修羅場に戻らなきゃならんからな」
「なんならお膝、貸してあげてもいいわよ……」
アンヌは正座し、ポンポンと膝を叩いて合図する。
「ああ。今回は膝枕回ってことで」
「ど、どうしてもって言うなら仕方ないわねっ!」
顔、ニヤけてますけどアンヌさん。
耳かき持って来りゃ良かった。
そこへ誰かが走ってくる足音。
「勇者様ー! 四天王のうち1人居場所がわかりましたぞ!」
「なんだよ爺さんか……今日は俺は」
「ただこの四天王、精神干渉系の魔法を使う奴で」
「あっそ。今はそれどころじゃねーんすよ。このままだと俺が悪者に……って、精神干渉系?」
「ええ、心を操るやっかいな魔法です」
「それだ!」
その類の魔法を使えるようになれば、俺の顔を見た警察らの記憶を操作したり色々できんじゃねーか。
攻略本を手に取る。
精神干渉系は……くそっ、闇属性か。
いや、でもスキルで似たようなのあんじゃねーの?
仙人なら精神的なスキルとかも使えそう。
いちかばちかその四天王を倒してレベルアップすれば、もしや習得できるかも。
「どこにいるんすか」
「それがどうやら先の四天王が勇者様に倒されたことを知り、この辺りへ視察に来ているらしいのです」
しかたねえ、向かうか。
転移の魔法で先のニセ魔王城があった場所へアンヌと移動する。
「うわっ」
転移先には目の前に2体のモンスターがいた。
イノシシみたいなやつと、コウモリみたいなやつ。
そしてその2体の間には魔族と思われる者の姿があった。
見た目は子供。
だが頭に黒い角が2本生えているから、いわゆる魔族の定番だろ。
「お兄ちゃんたち、ニンゲン?」
「まさかお前が四天王か?」
「そうだよ! 僕はハルファー。もしかしてここを燃やしたの、お兄ちゃんたち?」
「そうだと言ったら?」
「やっつけるよ。まだ四天王になったばっかだから早く役に立ちたいんだ」
小学生ぐらいの男の子じゃねーか。
魔王の手下とはいえ、やりにくい。
人の形してるだけでも攻撃ためらうのに子供とか。
「精神干渉系の魔法を使えるらしいな」
「あれれ。バレちゃってるんだね。じゃ、さっそくいくよ」
四天王ハルファーが手のひらをこっちに向けると、急に目の前が波打つようにゆらゆら揺れて見えた。
「ん? どうもないぞ?」
ちょっと気分悪いぐらいで何も起こらない。
しかし、ふと横を見てみると、アンヌが小躍りしていた。
「おっぺけぺー♪ すいだららったー☆」
「やべえ、アンヌが操られてる」
アホまるだしの顔で幼稚園児のような踊りを踊っているアンヌ。
美少女が台無しだ。
「よしいまだ、やっつけちゃってっ!」
ハルファーの合図で俺たちに飛びかかってくるモンスターたち。
しゃーなし、俺は木の杖を横に一振りする。
「フレイムサークル!」
すると俺とアンヌを囲むように炎の円ができた。
そしてその炎は近づくモンスターに容赦なく絡みつく。
一瞬で灰になる2体のモンスター。
ハルファーは瞬時に黒い翼を出し空へと避難していた。
「どうしてお兄ちゃんには僕の魔法が効かないの」
「ふんっ、殺されたくなきゃ降りてこいよ。聞きてーことがあるんだ」
ちなみに横ではアンヌがまだ大変なことになっている。
「ぱんぱんぱんつ♪ くんかくんか☆」
「俺のヒロイン候補をアホガ○ルにすんな……」
ゆらゆらと地面に着陸するハルファー。
「精神干渉が効かないってゆーことは……もしかして」
ちっ、もう勇者だとバレたか。
「もしかして……あなたが魔王さま?」
「そうそう、俺が復活を阻止するため……」
ん?
勘違いしてやがる!?
新人四天王って言ってたしこれは使えるかも。
「ついに復活したんだね!」
「そ、そうだ、この身体に転生したのさ」
「やったー! 会いたかったです!」
コイツは魔王がどんなやつか知らないんだな。
俺も知らねーけど。
「ここのニセ魔王、しょぼすぎるから制裁してやったぜ」
「それで灰になってたんだー。まあ僕のほうが100倍強いけど!」
「ぱっぱらぱー♪」
「……とりあえずこの女の魔法を解いてやれ」
ハルファーは俺の指示に従ってアンヌにかけた魔法を解除した。
「きゃっ、あたしったら変な子みたいになってたわ!」
「常、変だけどな」
アンヌの平手打ちを喰らう。
「で、ハルファーくんよ。俺もその精神干渉を使えるようになりたいんだが」
「え? 闇魔法だから魔王さまも使えるんじゃないの?」
「あ、ああ……ちょっと闇属性はまだ調子が出なくってな。代わりのスキルとかってないのか?」
「聞いたことないよー。闇魔法でも最上級魔法だから使えるのは僕と魔王さまぐらいだと思う」
「がびーん」
仕方ねえ、こうなったら……
この四天王を現世に連れて行く!
こいつに精神干渉を使わせよう。
アイテムボックスに生物を入れられるのかしらんが。
まあいいか。
「よしハルファー、いいとこあるから付いておいで」
「うん!」
なんか児童誘拐みたいになってないかこれ?
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