5,ああ、そりゃけっこう。しかし連中が黙っちゃいない

 昨日の本を探す。

 おそらくあの魔法陣がゲートのはず。


 そして俺は目当ての本を見つけ出すと、手に取り本棚の影に隠れた。

 だって今日は図書委員がやけにチラチラ見てくるんだもんよ。

 何を怪しんでいるんだろうか。


 まあ当たり前か。

 昨日あんな格好で登場した変態がここにいるわけだし。


 とりあえず異世界に着いてまずすることは、学生服の回収だ。

 あれしか無いからまだ体操服なんだよ。



 図書委員の目を盗み、本を開く。

 するとまた魔法陣のページで刺すような光が八方へ広がり、辺りが異常な明るさに包まれた。


「(キタキター!)」


 こうして俺の体は、またしてもどんどん本へと吸い込まれていったのだった――






「ケンジ!」

「おお! 勇者様! ほんとに来てくれよったわい!」

「おかえり……」

「あ、ああ。ただいま? どうかしたか?」

「あんた……服……」


 俺は素っ裸になっていた。

 異世界では仙人職の装備しか着れないからって、体操服も勝手に脱げたようだ。


 前と同じ部屋で目を覚ました俺。

 恥じらいながら俺を見つめるアンヌ。


「べべべ、べつにあんたの裸なんて見たくないんだからねっ!」

「じっくり見とるやないかい」


 ツンデレはどこの世界も健在かよ。

 だが美少女に帰りを待たれていたのは悪い気はしない。

 というか嬉しす。


「じいさん。俺の学生服返してくれないっすか?」

「ああ、あの服ならアンヌの部屋に……」

「へ? なんで?」

「それが、アンヌの奴が勇者様を想うあまり、クンカクンカしながら寝ると言い出して」

「おじいちゃん! 秘密にしといてって言ったじゃない!」


「……」


 頬を赤らめポカポカと爺さんを殴るアンヌ。

 とんだストーカー気質じゃねーか!


「ま、まぁ、性癖は人それぞれってことで……」

「はぅ……」


「とりあえず回収させてもらってもいいすか? アイテムボックスに入れときたいし」

「アイテムボックスじゃと!?」


 驚く爺さんたちに、元の世界――現世と言おうか、向こうでの活動を話す。

 新たに習得した魔法のことなど。

 ちなみに入れておいた攻略本はこちらの世界でも取り出すことが出来た。

 こんなことなら日本のお土産でも持って来てあげればよかったが。


 そして学生服を受け取り、何気に学ランを羽織ろうとしてみた。

 が、しかしなぜか袖を通すことが出来ない。


「もしかして袖がヨダレで引っ付い――」

「そんなわけないわよ!」


 アンヌが学ランを奪い取り、懸命に袖口を確認している。


「なあに、仙人じゃから装備できないだけじゃろ」


 結局また腰巻き一枚で冒険か。

 夢見たファンタジーとなんか違う。

 着れない学生服をしぶしぶとアイテムボックスへしまい、今日の予定を確認する。



「魔王はこの大陸の中心にある【幻影山】から誕生するそうじゃ」


 あれから魔王復活について爺さんたちも調べていたらしい。


「誕生? 封印されてんじゃなかったのか?」

「千年前に勇者に倒されたあと、コアだけになったまま幻影山に封印されていたそうなのじゃが、最近になって新たな肉体へと転生させる術を完成させたらしいのです」


「それが四天王の仕業ってこと?」

「そうです。……や、正確には四天王のうちの誰かが生贄となり、そやつの肉体へ魔王が転生するようじゃ」

「昨日の蜘蛛男ではないんすか?」

「奴は自分のことを魔王だと触れ回っていただけの偽物だそうで」

「つまりは影武者的な役割だったわけか」

「ええ、ですからおそらく四天王の中でも昨日のは最弱かと」

「ですよねー」


 まあ一発で仕留めたけんど。

 他の奴はどうなんだろう。


「倒して回るしかねーか」


 未知数だな。

 てかこの世界、いやまずこの街の名前すら知らねーしな。

 どうしよう、今日は座学か、魔法練習か、四天王討伐の旅へ出るか、だよな。





「では今日はわしがこの世界のことを勇者様に――」

「決めた。今日は魔法練習する」


 理由。

 2時間しかないんで、楽しいことしたいから。


「ちなみに明日も来れるんすよね? ゲートから」

「ええ……5回は来れるはずですので、阻止さえしてくだされば別にいいんですが……」


 明日を含めてあと3回ってことか。


「ちなみに幻影山までは徒歩でどれぐらい?」

「2時間ぐらいかと」


 なんだ、楽勝じゃん。

 やっぱ今日は遊び……いや、魔法の特訓だ。


「アンヌ、付いてきてくれるか?」

「ええ! もちろんよ!」


 にっこり笑顔で俺を見る美少女。

 本当に綺麗な顔をしているな。

 めっちゃタイプ。


「洗濯も任せなさい!」

「匂い嗅ぐなよ」

「ぎくっ……」


 変態気質アリ、っと。


 というわけで、昨日のニセ魔王城跡地へ移動し、アンヌと魔法の練習をすることにした俺。

 ニセ魔王とはいえ四天王の一人。

 出かけていた手下などが跡地へ集まってくるだろうから、残党狩りついでだ。


「ある程度決めてきたんだよ。どんな魔法使うか」

「その本は何?」


 ボックスからRPGの攻略本を取り出し、魔法リストのページを見る。

 横からひょこっと不思議そうに俺の本を眺めているアンヌ。


「今日やってみたいのは、火属性の最上級魔法」

「星もろとも壊さないでよね……」


 それはちょっと心配。

 火の鳥とか出したかったんだが。

 やはり上級魔法あたりで試すか。


「エクスプロージョンあたりやってみるべ」

「嫌な予感しかしないわ」

「あ、そうだ俺、防御結界とやらも使えるようになったんだった」


 空間魔法の一つだ。


「俺のそばに寄りな。守ってあげるよ」

「ちちち、近すぎよ……ぽっ」


 あいかわらずイケメンだなーおい俺。

 こうしてまずは防御結界を唱え、俺とアンヌを含めた半径3メートルぐらいを円錐の結界で包む。


 ではいくか。


「……エクスプロージョン!!」


 杖を掲げ、爆発をイメージしながらそう唱えてみた。


「……」


「……」


「……なんも起きねーな」


「! ケンジ! あれ見て!」


 アンヌが指差す先、俺達の真上の空に小さな赤黒い球体が出現していた。


「なんだ、小っせえ爆弾――」


 と、言い終わるのも待たず、球体はものすごい轟音と共に大爆発を起こした。

 ゴゴゴと揺れる地面。

 暴風、閃光、爆音。


「――!」


 アンヌが何か言ってるのも聞こえない。

 防御結界にもヒビが入る。


「おいおい、自分の魔法で自分の魔法を打ち破ってどうすんだ……」


 しばらくして辺りが鎮まる。

 なんとか結界も持ちこたえたよう。

 見回すと……



 全てが無かった。



 森も瓦礫も……地面も。

 俺の空中浮遊魔法により、アンヌと共に宙に浮いたまま呆然とする。



「神……ね」

「や、ただの仙人だ」


 ちょっとやりすぎたか。

 俺にぴったりくっついているアンヌは、若干震えている。

 そりゃそうだ、街から離れているとはいえ、大きなクレーターを作っちまったんだから。


「これなら残党狩りの必要も無さそうだな」

「ウッホホーイ!!」


 アンヌが驚きすぎて奇妙な踊りを始めた。

 冷静な俺が異常なのか。

 さすが仙人職。

 これならまじで四天王みんな相手しても4秒で倒せるんじゃね?

 ハイ、救ったー。

 とっとと救って、余生は放課後異世界ライフを楽しむか、日帰りファンタジー。


「明日は早速、残りの四天王を探しに行こうか」


 そして俺はアンヌを街まで送り届けた後、また意識を失った――

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