beyond the call of…….

玖柳龍華

chapter 001

act.001 Start up

 携帯式遠距離型特殊銃を構えた。

 弾丸タイプはレーザー砲。


 五階建て相当まで倒壊したビルの最上階から下を眺める。

 抗戦しているのは自軍の仲間と中型の歩行する無人兵器。


「こちらGF-L777。狙撃ポイントに到着。援護に入ります」

『こちら通信室。了解』


 通信を終え、スコープを覗く。

 外部情報を受信した特殊銃はスコープ範囲の敵にマークをつける。

 強化外装を纏った仲間への誤射を減らすための措置だ。

 重装甲歩兵は生身と比べれば格段に防御力が上がり生存率は圧倒的に向上するが、アクシデントや事故の確率も比例する。

 敵攻撃による故障により身動きが取れなくなる場合のことも考えると、機械に命を預けるのは一概に安全策とは言えないのではないのか。

 ましてや誤射予防まで取り入れてるのだから、敵味方の判断を鈍らせかねないと言うことだ。


 L777は味方と交戦していない敵へと銃口を向け、そのままトリガーを引いた。

 充填されていたエネルギー弾に貫かれた敵兵器は火花を散らしながら、膝から崩れ落ちる。そのまましばらくスコープで動きを確認するが、再起動の様子はない。

 破壊完了だ。


 そのまま次の標的をみつけるが、引き金に指をかけたまま意識を上空に上げる。

 分厚く重たい灰色に覆われた空に銃口を向け、トリガーにかけた人差し指に力を込める。


『敵UAV発見』

「落としました」


 L777は再び地上の敵を見下ろした。





 ◇




「お疲れ様です。非番だったのに大変でしたね」


 戻ると、先ほど無線でやりとりをした女性オペレーターに声をかけられた。労いの意なのか、缶コーヒーを差し入れられた。

 ありがとうと言いながらそれを受け取る。エナジードリンクのような炭酸を体が欲しているような気がするが、オペレーターの好意を思うと十分すぎる差し入れだった。


「L777さん、若大将がお呼びです」


 さっそくプルタブを開けようとしていたところに、その言葉。

「いィ!?」と情けない声が廊下に響くが、彼女は驚いた素振りを見せたりはしなかった。


「部屋に来て欲しいとおっしゃっていました」


 彼女はそれだけいうと丁寧に頭を下げて通信室の方へと戻っていった。


「……、」


 なるほど。この缶コーヒーは「お疲れ」ではなく「ご愁傷様」の意が込められているのか。


 L777はプルタブを力任せに引っ張ると、中の黒い液体が口の付近に数滴付着した。

 そのまま苦い汁を一気に体内に取り入れる。

 喝を入れるには十分な味だった。





 ◇




「失礼します、L777です。お呼びでしょうか、大将」


 呼び出された部屋に入る。

 部屋の主は窓枠に腰掛けて、優雅にコーヒーカップを構えていた。

 L777に気づくと、「お、来たね?」と笑みを浮かべる。

 大将の中でも最年少のこの男。きっと自分と大きく年は離れていないはず。けれど、笑み一つとっても背負っている重荷が違う。

 格が違う。


 L777は軍の敬礼を決める。


「今日、なんで呼ばれたのか。分かるか?GF-L777」


 瞬時に記憶をさかのぼる。

 何かへました記憶。何か失敗した記憶。何か首を切られるような記憶。

 心当たりは見当たらない。


「……いえ、分かりません」


 素直に答えると、若大将は「えー」と無邪気に不満を訴える。


「まぁ、そっちの方がいっか。サプライズっぽいしね」

「……?」


 相変わらず読めない男だ。

 大将は手にしていたソーサーとカップを机に置き、L777の前まで歩いてくる。

 そして、餓鬼大将のような表情で言う。


「お前、今日からSF-L777ね」

「……」


 一見大きな違いはない。

 コードネームの頭の1文字が変わっただけだ。

 そう、そんな小さな変化。


「え、ええぇぇええ!?」


 品格漂うその部屋に、素っ頓狂な悲鳴と馬鹿笑いが響いた。

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