256階は勇者と魔王の世階

256階では、何万年にも渡って、勇者と魔王の決戦が繰り広げられている。


今日は朝から、四天王の1人、280代目冥府王ネクロディアスが勇者にやられたということで、魔王城の話題は持ちきりだった。「たが、ヤツは四天王の中で最弱!」と声を上げるのは、四天王で二番目に弱いと評判の、120代目炎魔卿ファフニール。四天王で二番目に強いとされる60代目、暴風王ガルドニクスは、「ククク、勇者よ。それでこそ我が宿敵だ!」と興奮を隠せないらしい。


なお、さっきから「くだらん」という一言の一点張りで、何の関心も示さないのは、四天王最強と名高い、3代目氷神将コキュートスだ。


魔王は焦っていた。四天王たちの反応が、歴史書に記されていた1000年前の魔王軍大敗北の年と、そっくりだったからだ。悪い予感がする。このままでは、多分四天王たちは、ことごとく勇者軍に負けるだろう。なにか手を打たねば。


「おい、他の世階から来たとかいうそこのお前、281代目冥府王ネクロディアスにならんか?」

やけになった魔王は昨日会ったばかりの旅人に、無茶を言う。一見普通の人間のようだが、鉄壁の守りを誇る魔王城の中に入り込んだ強者らしい。


「私はそんなに強くないですよ、魔王様のお城に侵入してしまったのも、【箱船エレベーター】の行き先が悪かったですし、というか魔王様は、なんで勇者と戦ってるんですか?」


うん、待てよ?そういえば、ワシはなぜ勇者と戦っておるのだ?

何気無い旅人の言葉を聞き、魔王の心にふと沸き起こった小さな疑問。


それはやがて、女神様の作ったこの世階の秩序に一石を当時、階層そのものを揺るがす事態に発展するのだが、それはまた別のお話。

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