787階は草原の世階

風が地平線の向こうへと、吹き抜けていく。私が今までに訪れた階層の中でも、もっとも美しい常春の世階。


787階に広がる草原は、どこまでも続いていて、終わることがない。緑一色の中で、鮮やかな花が、あちこちでまばらに、色を添えている。


この草原には、島のように村が点在しており、千を超える遊牧部族が移動を続けている。あまりにも、広大なこの世階で、彼らが他の部族と出会うのは、一生に一度あるかないかだ。


聞こえるのはただ風の音だけ。余りにも穏やかなこの自然の中にいると、何故だか少し寂しくも感じてしまう。この緑の砂漠は、暖かな陽光に満たされながらも、どこか荒涼としていると。


小高い丘の上に立つ大木の根元に寝転びながら、私はのんびりとそんな風に考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る