異世界召喚されたけど、案の定未知の病原体に感染して俺の命が風前の灯火
@tkg
第1話 小説みたいに都合よくない
「フッ、ハッ……ハァ……ア゛ッ……ゲホッ……ヴォエッ」
こんな、声にならない奇声が、俺がこの世界に降り立って初めて発した音だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
隣では、アニメのキャラクターみたいな鮮やかな青い髪色の少女がオロオロとこちらを気遣っている。つい数刻前、大学から帰宅途中だった俺の前に突然現れ、そのまま世界の危機がどうのこうのまくしたてて俺をこの世界に転送した張本人だ。日頃から異世界転生して現代知識で無双する妄想をして過ごすのは俺の数少ない趣味の一つだったが、転送がこんなに吐き気を伴うことまでは想像できなかった。
「たぶん、深呼吸すれば、大丈、夫……、な、はずっ、ゴホッ……」
彼女を心配させまいとなんとか声を絞り出すが、正直言ってぜんぜん大丈夫じゃない。いくら思い切り肺に空気を取り込んでも、この息苦しさが全く改善されない。それどころか、だんだん頭痛と吐き気も出てきて、今にも意識を手放してしまいそうだ。
「あわわ……えっと、こういうときは回復魔法です!」
おっ、回復魔法があるのか。いきなり想定外の異世界だったので、魔法があるかどうかも疑い始めていた俺にはありがたい一言だった。彼女の手が俺の額に添えられ、緑色に輝き出すと同時に、体の奥底から力が湧いてくる。
「これが回復魔法! 疲労が消し飛んで、全身が癒やされていく感覚——と吐き気や痛み、苦しみが共存しているうぅぅぅっ……グフッ…………」
「えぇ!? しっかりしてください!! なんで……!!」
そうか。回復魔法って、ダメージから体を回復させるだけであって、ダメージの原因を取り除くわけじゃないからな……。
これは転移の副作用ではなく、この世界が現在進行系で俺に作用している結果だ。急激な酸素濃度の変化に体がついていけなかったのだろう。そんな考察をぼんやりしながら、俺はゆっくりと意識を失った。
【高山病】。
これから数え切れない病と戦う主人公の、記念すべき最初の病名である。
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