ダンジョンから出前を頼むのは間違っているだろうがっ! 貴様らっ!

ふだはる

プロローグ

 ダンジョンの奥深くに男女六人の冒険者達がいた。

 一人は動かなくなってモンスターに呑み込まれ様としている。


「イアン! イアン! いやあっ! いやあぁっ!!」


 モンスターから少し離れた行き止まりの様な場所で必死に手を伸ばしながら、呑み込まれ様としている男性冒険者の名前を叫ぶ僧侶の女性がいた。


「よせ! 他のモンスター達に気付かれるぞ!?」

「だって! だって、イアンが……!」


 女性の肩を掴んで必死に止める男性がいた。

 男性は騎士の様だった。


「大丈夫です。インビジブルの魔法は効果があったみたいですから、大きな声を出しても、この袋小路の中にいる限りは安全ですよ」


 騎士の後ろから魔導士の少年が、二人に声を掛けた。


「もっとも効果は、もって三十分といった所でしょうが……この時間を感じられない分、ある意味イアンは幸せだったのかも知れませんね」


 少年は力なく笑う。

 その顔は恐怖の為か冷や汗で、びっしょりと濡れていた。


 イアンと呼ばれた盗賊風の男性は、人よりも大きなナマズの化け物に上半身を咥えられていた

 その周囲を同種のナマズの様な化け物達が、うようよと湿った床を這っている。

 イアン以外の五人がいる袋小路の側まで来ると、何かの匂いを嗅ぐ様に「ぶふぉっ! ぶふおぉーっ!」と、大きな呼吸音を出して暫く留まった後に離れていく。


 そんな行為をモンスター達は、幾度となく繰り返していた。


 インビジブルの魔法の効果が切れれば、自分達も化け物共に見付けられてイアンと同じ道を辿るであろう事は、したくなくても全員が理解していた。


「助けないと……助けないと……助けないと……」


 僧侶の女性が、うわ言の様に呟く。


「……放っておけ。元はと言えば、奴が宝箱の解除に失敗してテレポートトラップに引っ掛かったせいで、こんな目に遭っているんだ。……自業自得だ」


 一番奥に座っていた、くノ一が吐き捨てる様に言った。

 僧侶の女性は、くノ一を睨んで大きな声で罵る。


「仲間なのよっ!? 見捨てろって言うのっ!? なんて薄情な人なのっ!?」

「なら、ぶつぶつ言ってないで助けに行ったら、どうだ? 別に誰も止めやしない」

「こんな時に仲間割れは、やめろ!」


 女僧侶とくノ一の口喧嘩に、女戦士が仲裁する為に割って入った。


 事態を打開しようと、女戦士は少年に向かって確認する様に質問する。


「迷宮から脱出する類の魔法は、本当に全部が使えないのか?」

「ええ……この飛ばされた階層の上部に強力な結界が張られています。宝箱のトラップに引っ掛かって飛ばされた所をみると、上から下へのテレポートは可能な様ですが一方通行みたいで……ここから地上へ飛ぶのは、無理ですね」


 魔法による脱出は不可能。

 少年の説明がパーティ全員に重く、のしかかる。

 女戦士は続けて騎士に尋ねる。


「救助要請は?」

「携帯型通話用魔導具で連絡はしたが、こんな深い階層まで救助に来られる冒険者達がいるかどうか……何しろ偶然とはいえ、ここまで到達出来たのは、俺達が初めてだろうからな」


 騎士はガラケーの様なアイテムをいじりながら答えた。


「万事休すか……」


 女戦士は力なく呟いた。

 そして巨大なナマズの化け物達を恨めしそうに見詰める。

 たった一匹にすら六人掛りで挑んで傷一つ付けられ無かったモンスター。

 低層にいる雑魚とは、まるでレベルが違った。

 這々の体で何とか、この袋小路に逃げ込んだが喰われるのは、時間の問題だろう。


 こんな事なら……いっそ……。


 女戦士は騎士を見た。


 騎士は何やらガラケーの様なものを、また、いじり始めている。


「何をしているんだ?」


 女戦士は騎士に質問をした。


「最後の手段……都市伝説に縋ろうかと、思って……」


 騎士の被ったフルヘルムの奥から、狂気を伴って笑う様な震え声が発せられた。

 とうとう気が触れてしまった仲間に向かって、女戦士は憐れみの視線を送る。


 ガラケーから小さな呼び出し音が聞こえてきた。

 やがて、プツッと繋がる音がすると、元気な女性の声がガラケーから漏れてくる。


「はい! お電話ありがとうございます! こちらは宅配ピザの『バビロン』です!」

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