ダンジョンから出前を頼むのは間違っているだろうがっ! 貴様らっ!
俺の名は、メッシュ=ギルガ。
世界に平和をもたらした英雄だ。
勇者と呼ばれる事もあるが甚だ不本意だ。
何故なら、世界を救う程度の事に勇ましさなぞ必要無かったからだ。
あんなものは、小指で鼻くそをほじりながら片手剣でも出来る。
もっとも最終決戦で魔王と闘った時に、そんな事をしていたら嫌われていただろう。
何故なら魔王は美しい女性だったからだ。
魔王の名はアヤコと言う。
今は俺のマイハニーだ。
異世界のトウキョウという場所から悪いモンスターどもに召喚されて騙されて最近まで魔王をやっていたJDだ。
JDというのはジョシダイセイとか言う異世界のクラスらしい。
詳しい事は良く分からん。
世界を救うのに勇気は必要なかったが、彼女にプロポーズする時に俺は、ありったけの勇気を振り絞った。
結果はOKだった。
そして俺達は結婚した。
世界を救った報酬として有り余る金を持っていた俺と、魔王として過ごしていたので、ありとあらゆる金銀財宝を所有していた彼女。
世界が平和になった後で、俺は遊んで暮らす積もりだったが、彼女は何故か宅配ピザ屋を始めたいと言い出した。
元の世界にいた時に働いていた場所がピザ屋だったらしい。
結婚したせいでは無いが元の世界に帰れない彼女は、せめて元の世界で好きだった仕事をしながら生活したいと言った。
その健気な思いに心を打たれた俺は、二つ返事で了承した。
そして彼女の指示で石窯の設備を擁するピザ屋を職工に建てて貰い、初めて彼女が作ったピザなる料理を食べた俺は、その美味さに感動した。
そこで暇を持て余していた事もあり俺は、この味を愚民どもに伝えたいと考え配達作業員を買って出たのだ。
「しかし昼時を過ぎた平日は、暇でしょうがないな。ハニー?」
店を開いて数ヶ月経った、ある日のこと。
俺は午前中の配達を終えて、客のいない店内でくつろいでいた。
店内が客で、ごった返すのは夕方を過ぎてからだ。
配達は、その夕方まで行なっており夕方以降の俺は、ウェイターとして働いている。
しかし休日はともかく、平日に忙しいのも昼までの話だ。
昼から夕方までは、まったりとした時間が流れる事が多い。
少し前までは……。
「そうね、ダーリン。今日は変な場所から注文する、お客様もいないみたいだし……」
そうなのだ。
実は最近、この時間帯に妙な場所から配達を頼む輩が増えているのだ。
その妙な場所と言うのは……。
「あれ? ダーリン、また例のダンジョンに潜っている、どこかのパーティから冒険者ギルドに救助要請が来たらしいわ」
ハニーが魔導テレビで流れるニュースを見ながら言った。
「またあ!? 最近の冒険者どもは、たるんでるな」
俺がラスボスであるハニーを倒して世界が平和になって、冒険者達は廃業に追い込まれるかと思えば、そうはならなかった。
新たなダンジョンが、突如として現れたのだ。
そのダンジョンは、とても深くて最奥部に到達した冒険者が未だにいない。
未知の財宝やアイテムの宝庫で冒険者達は、こぞって挑戦して生活の為に稼いでいる。
俺は、そのダンジョンに全く興味が無かった。
元々、あんな暗い場所に長時間いるだけで気が滅入る明るい性格なのだ俺様は。
ハニーのダンジョンの場合は、世界の危機だと言われたので仕方なく攻略しただけの事。
誰が好んで、あんな狭くて暗くてジメジメした所に入ろうと思うものか。
モンスターがダンジョンから溢れ出して再び世界に危機が訪れたのなら考えなくもないが……。
だが実は、俺は最近ちょくちょく、あのダンジョンに潜る羽目になっていた。
それと言うのも……。
ジリリリリン……ジリリリリン……。
魔導電話が鳴った。
ハニーが受話器を取る。
「はい! お電話ありがとうございます! こちらは宅配ピザの『バビロン』です!」
ハニーの元気な電話応対は、聞いていて心地が良い。
俺は、うっとりとした気分になった。
ハニーは注文を聞き終えると受話器を置いて、俺の方を見る。
「……ねえ、ダーリン……また、例のダンジョンまで配達の依頼が来ちゃった」
「ええ〜っ!? またあ?」
そうなのだ。
最近、例のダンジョンに潜っている最中の冒険者達から遅い昼食用にピザの出前を頼まれる事が多くなった。
あいつらには弁当を持参するという選択肢が残されていないらしい。
「……注文の内容は?」
「Sサイズのピザを……」
Sサイズのピザと言えば、直径15センチくらいのウチで一番小さいピザだ。
値段は980ゴールド(消費税抜き)。
「ウチは3000ゴールド以上の注文からじゃないと、配達しないよ?」
「六枚の注文を受けたわ」
お得意様じゃないの。
それじゃ配達しないワケには、いかないなあ……。
「分かった。出掛ける準備するから調理の方を頼むわ」
「任せて!」
俺は魔導テレビを見ながら配達用の釣り銭入れなどの準備を始めた。
ピザは熱い内が美味い。
ハニーの作ったピザは冷めても美味いし、温め直せば更に美味いが、やはり作りたてのアツアツには敵わない。
ウチの売りは、そのアツアツの美味しいピザを世界中の何処であろうと注文を受けてから三十分以内で俺が届ける事だ。
注文が重なった時は、事前に調理が遅れる事を客には承諾して貰っている。
三十分を過ぎたとしても決して無料にはならない。
クーポンのオマケくらいのサービスは、させて貰うが……。
「また、ここに来てしまった」
俺の目の前には、例のダンジョンの入り口があった。
目指すお客様は、地下六万五千五百三十六階層付近にいるらしい。
知っている限りで、そこまで深い階層に到達した冒険者達は、お客様達が初めてだろう。
前人未踏の記録を樹立した記念に宴会でも催すつもりなのだろうか?
アホかと。
バカかと。
そんな所でピザパーティとか、おめでてーな。
地上に出てから、ゆっくり、やれ。
聞けば男女六人パーティとの話だ。
どんな場所で食っても、ウチのピザは美味しい。
しかし、わざわざ前人未踏の階層で食べる理由は、何だろう?
他人に見られないのを良い事に、ピザの女体盛りでもするつもりなのだろうか?
そうだとしたら混ぜて貰おう。
俺は期待に胸を膨らませつつ、ダンジョンに入った。
ダンジョンの途中階までは魔導エレベーターを使う。
自分で走って行った方が速いのだが、おれはラクがしたい。
普段の配達も、ご近所なら魔導スクーターを使っている。
時間的にも、まだ余裕があるので大丈夫だろう。
俺はエレベーターを使って三万七千五百六十四階層まで降りた。
四万階層辺り。
ここら辺のモンスターは可愛いもんだ。
可愛過ぎて幾ら倒しても経験値が得られないのがタマにキズだが……。
襲い掛かってくるレッサードラゴンの上顎と下顎を掴んで両手で引き裂きながら、そう俺は思った。
首が真っ二つになって蒲焼きの具材の様になった仲間の死体を見て、他のモンスター達が恐れをなして道を開ける。
ここら辺の化け物どもは知性と危険を察知する本能が残っているので面倒臭くなくて有り難い。
五万階層付近。
ここら辺になると十匹くらい纏めてモンスターを倒すと経験値が1ポイントくらいは入る様になる。
要らないが。
レベルがカンストしている訳では無いが、ガッと百ポイントくらい入る相手で無いと面倒臭い。
まあ、とある理由から、この近くにいる化け物どもは、まだ可愛い方である。
俺は前方を塞いでいる化け物どもの群れを見た。
俺の目に化け物どもの名前とステータスが見えてくる。
以前、魔王討伐していた頃に仲間の魔導士に網膜に掛けられた魔術だ。
効果は永続、平たく言えば取り外す事は、もう出来ない。
昔は便利だったのだが、最強となった今ではウザい事この上ない。
でもまだ、この付近のモンスター達は可愛げのある方だ。
名前も「虚無」だの「死神」だの「滅鬼」だので、好感が持てる。
上階のモンスター達と違って知性の薄い原始生物並みの馬鹿ばかりなので、こちらの強さが分からないのか向かってくる連中ばかりなのがウザいが……。
俺は手を横に薙ぎ払ってダンジョンの壁に化け物どもを押し付けて、そのまま潰した。
こちらに向かって鮮血が飛び散って来るが、今はフルアーマーを着ているし、ピザは特製の保温機能付きオリハルコン製のボックスの中なので安全だ。
進路を確保した俺はオカモチの様なピザボックスの取っ手を掴んで先を急ぐ事にした。
六万階層を超えた。
ここら辺に初めて来た時にモンスターを倒したら久し振りに経験値が5ポイントくらい入ったので喜んで倒しまくっていたのだが、レベルが二、三あがったら直ぐに1ポイントになってしまった。
しかも向こう見ずな化け物ばかりで、こちらを見つけると確実と言っていいくらい襲って来る。
数も尋常では無いのでウザい事この上ない。
そして更にウザいのが名前だ。
「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」
だの、
「テンクウノラクエンヲオワレシダテンシノマツエイ」
だの、
「ノロワレクルイフシカサレタアワレナケンゾク」
だの、
そんな長ったらしい名前が、俺の視界に所狭しと表示されるのだ。
しかも、こいつら「即死」や「毒」や「麻痺」などの属性も尋常じゃない種類を持っているのだ。
それらが全部ステータスに表示されてしまう。
体力ゲージも長いので、それらが目の前を駆け回るのは、本当にイライラしてくる。
仲間の魔導士に、表示を簡略化できないのかと聞いたら、今更ムリだと答えが返ってきた。
ああああ〜度し難い〜。
そうこうしている内に目的地である六万五千五百三十六階層に辿り着いた。
ちょうど注文を貰ってから二十分くらい経った。
人の気配を探ると奥にある袋小路らしき場所に五人くらいの気配がある。
はて?
ピザの注文は、六枚だった筈だが?
一人二枚喰うデブでもいるのだろうか?
それとも、やはり一枚は女体盛り用なのだろうか?
客達は、どうやらインビジブルの能力を使用しているらしい。
何故かは分からない。
もしかして配達しに来た俺から隠れて三十分を超えた場合に貰えるオマケのクーポンを期待しているのだろうか?
意地汚い連中だな。
だが、そんな小細工的な魔法なぞ俺には、無意味だ。
俺は連中に向かって真っ直ぐ歩いて行った。
「見て! 全身が鎧に覆われた人型のモンスターが、こっちに近づいて来るわっ!?」
僧侶らしい女が俺を見て叫んだ。
とても、おっぱいが大きい女だ。
さては、こいつで女体盛りをするつもりだな?
絶対に混ぜて貰おう。
「そ、そんな馬鹿な事は、ありえません! 僕のインビジブルの魔法は完璧の筈です。まだ効果の持続時間も少しだけ残っているんですよ!?」
魔導士らしき少年が続けて叫んだ。
完璧?
こんなものを完璧だなんて言ったら確実に俺の知り合い達に笑われるだろうな。
俺は魔王討伐時の仲間達を思い出して微笑んだ。
「おい! あのヘルメットから覗く口元をみろ! なんて邪悪な笑みを漏らす化け物なんだ!?」
さらにくノ一が、こちらを見て声を震わす。
邪悪な笑みを漏らす化け物?
そんなモンスターが一体どこに?
もしかして、こいつらの事かな?
俺は「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」を踏みつぶしたり、片手で掴んで壁に叩き付けて潰したり、張り手で粉々に飛び散らしたりしながら歩き続けた。
確かに、この大きく裂けた口は笑っている様に見えなくもないな。
俺は「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」の下あごを足で抑えて上あごを片手で持つと大きく裂けていた口を更に引き裂いた。
「わ、私たちが束になって闘っても一匹も倒せなかったモンスターを……いとも容易く……」
女戦士が驚いた顔を俺に向けてきた。
はあ?
なんで、そんな弱い連中が、こんな場所で女体盛りパーティを催そうとしているんだ?
疑問には思ったが、もう客の目の前に辿り着いたので、俺はピザボックスを片手で持ち上げて愛想笑いを浮かべた。
「おい、虚弱冒険者ども! ピザ『バビロン』だ! 注文してくれたピザを、お持ちしやがりましたぞ、このやろう!」
目の前にいる五人の目が点になった。
きっと俺の鮮やかな接客態度に感動しているのだろう。
「いやあああああああーっ! 嘘よおおおおおおおっ! あなた血だらけじゃないいいいいいいっ!」
女僧侶が叫ぶ。
おっと、しまった。
俺とした事が、客と会う前の身だしなみを整える事を失念していた。
俺は血糊でもしっかり拭き取れるマジックアイテムの布巾を取り出すと、自分のアーマーとヘルメット、そしてピザボックスを拭いた。
「ほら、これでいいか? 注文主はどいつだ? ピザを渡して金を受け取りたいんだがな?」
「いやあああああっ! 嘘よ! 嘘よ! こんな場所に配達に来れる人間なんているわけがないわっ! これは夢よ! 夢なんだわ!」
むかっ!
人の質問に答えもせずに叫び続ける女僧侶の後ろに素早く回った俺は、とりあえず静かにさせる為に後頭部の首に水平チョップをかました。
気絶する女僧侶。
俺は女僧侶を仰向けにすると、胸部の鎧を破壊して、ブラウスのボタンを外してブラを捲った。
大きなオッパイが、ぷるんと零れ出す。
綺麗なピンク色の乳首をしていた。
「ちょ! ちょっと、あんた何してんの!?」
呆然としていた、くノ一が突然に我を取り戻して慌てて俺を問いただしてくる。
「何って? この女でピザの女体盛りをする為にウチに注文してきたんじゃないのか?」
俺は振り返って質問に質問で返した。
鬼の様な形相で、くノ一と女戦士が騎士の男を睨んだ。
「え? いや、してないよ? そんなオプションは頼んでないって!」
騎士は慌てて答える。
その表情はヘルメットに隠れて見えないが、焦っている感じだった。
どうやら俺の思い込みだったらしい。
俺はそっとブラを戻してブラウスのボタンをとめた。
「すみませんでした……取り乱してしまって……」
俺に身体を起こされて両肩を掴まれ「えいっ!」とばかりに膝で背筋を伸ばされると、意識を取り戻した女僧侶は謝罪してきた。
「いや、いい……。こちらも少し誤解があった様だしな」
おっぱいを見たことは内緒にして貰っている。
女僧侶以外からの視線が痛い。
俺は悪くない筈なのだが……。
女体盛りに一枚を使わないなら……。
俺は女僧侶に尋ねる。
「なぜ五人パーティなのにピザを六枚注文したんだ? だれか二枚食べるのか?」
「え?」
女僧侶は何かに気が付いた様に騎士を見た。
「……すまん、焦っていたから、つい、うっかりイアンの奴の分も頼んじまった……」
パーティの空気が重くなる。
葬式でも始まる感じだ。
忙しい葬儀の最中でもウチの宅配ピザは大活躍する事はあるが……。
「その、イアンと言うのは……?」
そう尋ねようとした俺の視界が急に真っ暗になる。
「なにっ!?」
「うわわわわっ!」
「きゃあああああああああっ!」
「く、喰われた!? 喰われちまったぞ!?」
「イ、インビジブルの魔法の効果が切れてしまったんだ!」
という悲鳴が聞こえてきた。
どうやら俺は「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」に上半身を齧られてしまったらしい。
接客に夢中になったせいで背後がおろそかになってしまった。
「ふんぬらばっ!」
俺は片手にピザボックスを持ったまま両手に力を込めると内側から「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」の胴体を真っ二つにした。
「商売の邪魔してんじゃねえっ!」
剣を抜いて振るい周囲の「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」達を一掃した。
呆気にとられた全員の視線が俺の持つピザボックスに注がれる。
ピザボックスは化け物の涎と返り血にまみれていた。
俺は慌てず布巾で血を拭うと説明をする。
「お客様どもよ。大丈夫だ。このピザボックスはオリハルコン製の特注品でな。完全に密閉されている上に、この程度の衝撃ではビクともしないから中のピザ達は無事だ。なんせこれでマイワイフに殴られたら俺でさえヒットポイントが三分の二は持っていかれるという逸品で……」
そこまで説明して気が付いた。
彼らが見ているのは綺麗になったピザボックスでは無かった。
その向こうの人の形をした固まり……。
「イアン?」
女僧侶が真っ二つになった「チヲハウヌマノカミノマツエイノオトサレシモノ」に近づく。
彼女は白く濁って溶けた人の形をした何かを愛おしそうに抱きかかて涙を流した。
「消化されてしまっている……」
魔導士の少年が呟いた。
「こんな姿になったらリザレクションの魔法で生き返させられないじゃないの……」
女僧侶は悲しみに打ち震えていた。
俺は騎士に尋ねる。
「お前たち、ウチのピザは喰った事があるのか?」
「い、いや……そもそもピザなんて名前の料理は、初めて聞いたし……」
こんな時に何を自分は質問されたのか。
そんな疑問を声音に出して騎士は、戸惑っていた。
俺は思った。
それは、もったいない。
あんな美味い食い物を知らずに死ぬのは、可哀想だ
マイハニーの作ったピザなら尚更だ。
俺はピザボックスを静かに置くと、アーマーのガントレットを外して、呪文を唱え始める。
「我が左手に冥府の門。我が右手に冥王の鍵。我鍵を用いて門を開かん。命の理よ去れ。運命の糸を断て。我は、これより全ての因果を排し己の願望を押し通さん」
左手が白く輝くと大きな光る球が現れた。
俺はその中へと右手を入れる。
いててて、ケルベロスに噛まれたぞ、おい。
「おい、そこの僧侶。俺の右肘に触れてイアンとやらを想い出せ」
女僧侶は不思議そうな顔をしていたが消化されたイアンの固まりを静かに置くと、俺に近づいて右肘に触れた。
彼女は眼を閉じて念じる。
うーん。
これかな?
俺は右腕を左手の光球から引き抜いた。
手首に三つ分の噛み傷のついた、その先の掌には青い炎が浮いていた。
「運命が狂わされたのでは無く、狂った運命を戻したと冥王に伝えるために閉じよ門」
光球が掻き消える。
俺は右手に青い炎を浮かばせたまま、イアンの死体へと近づいた。
イアンの心臓があったと思われる部分を青い炎で照らす。
青い炎は吸い込まれる様にイアンの遺体の中へと消えていった。
途端にイアンの身体が爆発した様に霧散する。
「な、なにをっ!?」
女僧侶が慌てて叫んだ。
しかし再び彼女の目に映ったのは、消化されていない一人の生きた男性だった。
「イアン?」
どうやら正解の魂を引き当てる事は出来たらしい。
俺は心の奥で、そっと安堵した。
イアンは目を覚ますと周囲をキョロキョロと見渡す。
「……みんな? ここは一体? 俺は、どうして?」
女僧侶がイアンに飛びついて抱きしめた。
「毎度あり」
俺は冒険者たちにピザを引き渡すと騎士が払ったゴールド札を確認した。
釣銭の出ない様に用意してくれていたのは助かった。
はした金だが労働の対価というのは、いつ貰っても気分がいい。
「じゃ、また何かピザが喰いたくなったらウチを利用してくれ」
「ちょっと待って」
店へ帰ろうとする俺を騎士が呼び止めた。
「なんだ? まだ何か用事があるのか?」
俺は仏頂面で答える。
金さえ貰えば客じゃないとまでは言わんが、時間が奪われすぎるのも問題だ。
次の、お客様が待っているかも知れないからだ。
「実は出前を頼んでおいて何なんだが」
「おう」
「このピザというのは、とても美味そうだ」
「実際うまいぞ、こいつは」
「しかも、とても鮮やかだ」
「まあな、トマトやらアスパラやらコーンやら色とりどりだ」
「ぜひ、こんな暗い洞窟でなく明るい外で食べたいんだ」
いらっ!
「好きにすればいい。確かに、お日様の下で青い芝生に上でピクニック気分で食べるピザは最高だからな」
「ダンジョンからの脱出を手伝ってくれないか?」
「……はあ?」
いらいらっ!
「そこに魔導士のガ……少年がいるのだから迷宮脱出の呪文なりで一発だろう? なんで俺様が……」
魔導士のクソガキが申し訳なさそうな顔をして近づいてくる。
「すみません。この少し上の層に下へは転移可能で逆は駄目な一方通行な結界が張ってありまして……僕の力じゃ、とても……」
少年や騎士と一緒に俺は天井を見上げた。
なるほど……確かにそれらしき結界が存在するのが分かる。
……仕方ない、サービスしとくか……。
俺は剣を抜くと天井に向かって突きの構えをする。
「……はあああああああああっ!」
一呼吸入れてから一喝すると天井を突いた。
轟音と共に天井から先が吹き飛んで人が通れるくらいの穴が地上まで穿たれた。
これで結界にも穴が開いた筈だ。
「あとは飛んで帰るなり転移するなり好きにしろ。ギルドに戻ったら化け物どもが簡単に地上には出られない様に、ここまで魔導エレベーターを設置するついでに隙間を埋めてもらえ」
「「「「「「あ、ありがとうございました」」」」」」
これしきの事で全員から礼を言われた。
俺は照れ隠しに片手をあげて別れの挨拶をするとジャンプして地表に出た。
店に帰ると他に注文は無く、そうこうしている内に配達を締め切って夜間営業の準備をする時間になってしまった。
「へえ、救助要請を出していた人達って助かったんだね」
ハニーが魔導テレビで流れるニュースを見ながら、そう言ったので、釣られて俺もニュースを観た。
画面では利発そうな顔をした青年がギルドの記者会見場でインタビューに答えていた。
顔から下に鎧を着ているところを見ると騎士か何かなのだろう。
『……はい、僕自身も信じられなかったのですが……もう、これしか方法が無いと思って……』
なんか聞き覚えのある声だな。
「この人達、何か注文してダンジョンまで配達しに来てくれた人に助けられたらしいよ?」
ハニーが優しく微笑みながら、ニュースの内容を途中から聞いていた俺に説明してくれた。
「ふーん」
仕事のついでに人助けなんて、世の中には暇な奴もいるもんだな。
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