第2話 夏
「おめでとう!」
僕の言葉を聞いたステラは、まるで我が事の様に喜んでいた。
会社でようやく僕の企画が認められたのだ。何度も何度も練り直し、苦心惨憺の上に作り上げた企画であったので、それが認められたことは本当に嬉しかった。
ここまでめげずにやって来られたのはステラのおかげだった。
何度、会社をやめようと思ったことだろうか。
田舎に独り残してきた母親の元へ帰りたいと思ったことも一度や二度ではなかった。
僕がそうしなかったのは、ひとえにステラが居たからだった。
ステラに会うためには、今住んでいる賃貸住宅のクローゼットが必要不可欠だった。ここを引き払ってしまっては彼女に会う術は潰えてしまう。だからこそ、僕はステラに会い続けたい一心で、必死で仕事にしがみついてこられたのだった。
「ううん、それはユキマサ自身の力だよ」
ステラは出会ったときから変わらない優しい微笑みを浮かべて言う。
「私はただあなたの側に居ただけ。何もしてこなかったわ」
僕は彼女の言葉にそっと首を振る。
僕は間違いなく彼女の存在に救われていた。彼女と出会い、向き合うようになって、僕の世界は色づいた。彼女と出会う前、僕がどうやって日々を過ごしていたのか、もう思い出せないくらいだ。彼女は僕にとって世界の中心なっていたのだ。
僕がそう言うと、ステラはいつもの照れた様な優しい笑みを浮かべる。
「そっか。でも、それは私も一緒だよ」
ステラは言う。
「あなたと出会って、私の世界は広がった。ただ、森の中でひとり生きていた私に新しい光をくれたのは、紛れもないあなただったのだから」
そのとき、僕の中で何かが弾けた。
まるでこの世界が爆発したのかと思った。
僕の中から彼女への愛が溢れだした。
気が付くと、僕は彼女を抱きしめていた。
――結婚しよう、と僕は言った。
「……はい!」
彼女は泣き笑い、大きな声で返事をした。
彼女の長い睫毛に覆われた大きな瞳が僕の目の前にあった。
僕たちは初めての口づけを交わした。
冷たい風が木々の間を吹き抜けた。
夏が終わりを告げ、秋がやってこようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます