卑しい魔法使い

歌川裕樹

第1話 拠点建造はサキュバスと一緒に

気が付けばダガー一本、汚れたローブ、背嚢一つだけで、鬱蒼とした森の奥に入り込んでいた。漂う魔力が目に見えそうに濃い。森の奥は魔力に満ちている。深ければ深いほど。

深く入り込み過ぎた。後悔はあったがすぐ行動しなければ死ぬ。

フィラスは背嚢から拳より大きな――まず手には入らない魔晶と魔導書を出す。

これでも、魔法使いだ。こんなに濃厚な魔力があれば何かできる。

手始めにゴブリンを召喚する。

こんな森の奥だ。魔物が沸く。自分が寝ている間の番をさせる。魔物同士戦えばいい。

簡易な魔法陣を引こうかと思ったが、さすがにこの程度の低級な魔物であればフィラスにでも制御はできる。

とはいえ、フィラスにできるのはごく低レベルの魔物の召喚、四大の精霊に懇請すること、そして、魔導書に詰まった禁呪を使うことくらいだ。

「低劣な、矮小な、そんなことしかできないよ」吐き捨てるように言った。

キキッ、と獣の声を上げるゴブリンが五体ばかり召喚できた。

それぞれ木の枝を削らせ、簡易な槍を作る。これで足りるわけではないが、何より疲労が勝っていた。全滅した村から昼夜を問わず逃げ続けてきたのだ。

寝床代わりに布を敷いた。身体がふらつく。

「木の実を集めてこい」ゴブリン一体に命じた。干し肉の残りも少ない。

ここで暮らすのだ。自活しなければならない。生き延びなければならない。

近くで川の流れる音がしている。だからここで立ち止まった。

水も――と革袋に入れて戻る。

疲れ果てているはずなのに身体の奥が熱い。眠気は訪れそうもない。

「これから、俺だけの世界をここに作る」口に出すと、力が漲る。「絶対に作る」

ここに、魔境を作り出す。立ち入るものは恐怖し絶命し自分の生贄となる。

殺すのが目的ではない。独立した空間ともいえる魔境の支配者となるのだ。

あれほど豊穣を誇っていた村は、盗賊の襲撃で瞬く間に壊滅した。

たった一人――恐らくは――宝物の魔晶と魔導書を持って逃げてきた。

そんな襲撃など跳ね返し自分の自由になる世界。魔境。

フィラスはやがて手に入るだろうその姿を夢想しながら、手足を傷だらけにして森を歩いてきたのだ。

家族が死んでしまった以上、もう自分は一人で生きていける魔法使いでなければならない。召喚した魔物が跋扈し、瘴気に塗れた薄暗い場所。そこで自分の力を磨く。まだ力は弱いが、いつか第一線の魔法使いになる。

いつか、じゃない、すぐにでもだ。焦りが背中をちりちりと刺激する。

噎せ返るほどの魔力を扱いきれない。体力が先に切れそうだった。

「明日は小屋を作る。そのくらいはできるだろう」

身体を休めなければならない。ゴブリンの集めてきた苦い木の実を齧る。悪くはない。

強壮の効き目がある。

布に横たわり水を飲むと、疲れが身体を支配する。

どうか幸運よ続いてくれ、明日まで生かしてくれ、と願い、固く瞳を閉じた。

早朝、陽が昇るのとほぼ同時に目覚めて四大の精霊を呼び出す準備を始める。

本来準備など要らないのだが、念を入れてのことだった。

川で身を清め、精霊を称える歌を口ずさむ。地の精霊を呼び出し小屋を作らせる予定だ。

ゴブリンには石を割らせて槍の先端に取り付けさせる。

昨夜魔物の襲撃がなかったのは奇跡だと思えた。

これでも武器としては頼りないが、量産させる。投げて追い払うのにも使える。

毒槍という発想も浮かんだが、魔物は毒への耐性が強い。腐肉でも平気で平らげるし、致死の毒を好んで食べて身体に蓄積するものだっているのだ。

火の精霊に頼むか……と考える。炎は清める。槍を使うゴブリン自体が逃げ出す可能性もあったが、突いた時にだけ燃え上がる程度なら耐えられるだろう。

槍が余れば夜の灯りにでも使えばいい。低級な魔物ならば寄り付かない。

伐り出す木々に礼の歌を歌い、小屋を作る。

小さくても堅牢に組み上げる。しばらくはここで仮住まいが続く。

小屋を柵で囲い、鋭く尖らせた木を小屋から森へ向けて幾重にも並べる。

フィラス自身も小心な自分が惨めに感じるが、生き延びるためには大袈裟なくらいでいいのだ。

昼を過ぎた。まだ余裕がある。石壁を小屋に取り付ける。土の精霊は思っていたよりずっと作業が速い。

何しろまともに魔法を使い魔物や精霊を行使すること自体が初めてに近い。驚くことの方が多い。

「もしかしたら、ゴーレムも使えるかな……」

番兵としては何より心強い。

夕刻、陽が沈み魔物が活発に動き始める時間。

フィラスはクレイゴーレム三体を小屋の番に付け、赤々と小屋の周辺に絶えない篝火を焚いていた。火の精霊が宿っている。

「やった! 俺にだってこの程度はできるんだ! 魔法なんか役に立たないって言ってた親父……」堅牢な床板の上で喜びが止められず転がり回っていた。そこで言葉を切る。もう死者だ。冒涜するような言葉を吐きそうな自分を諫める。

「ごめん。俺は、一人でも生き抜くから、どうか、」

これからは一人で戦うのだ。見守ってくれとは言えない。

「安らかに。母さんと一緒に」

大の字に身体を横たえて、夜空に向けて言った。

静けさが小屋に戻ろうとしていたとき、ごんごん、と小屋のドアが鳴る。

「こんな時間に?」

ドアの小さな覗き窓を開く。

「お願いします。開けてくださいっ。助けてくださいっ!」少女らしい声がした。「ワタシ、迷っちゃって! うわああああっ何か来るううううううっ」

魔物らしい重い足音が小屋に近づいていた。数も多い。

篝火に照らされたのは、名状し難いものだった。獣と人を混ぜたような姿。森の夜にはこんな異常な魔物が出る。夜は森に入るな。そう固く禁じられているのは、このせいだ。

「ゴブリンなんかで戦えるかっ。ゴーレム……持つか? 誰だか知らないがゾロゾロ連れて来んなよっ!」

「ぐすっ。ごめんなさいっ。助けて、何でもしますっ。本当に何でも」

じゃあ連れてどっかに行け、とは言えなかった。それが最善かもしれなかったけれども。

重そうな棍棒も見えた。小屋が持ちそうにない。

どうにか生きていけそうだったのに、あっさりと叩き潰されそうだった。

その時、篝火が火柱のように燃え上がった。夜の樹々が照らされて輝くばかりに明るさが増す。

「火の精霊さん、どうもですっ」フィラスは思わず礼を口走る。

魔物の足取りを知らせる地響きが、緩やかになった。

火が万能というわけではない。ウィル・オ・ウィスプだのから火龍まで炎を好むものは数限りない。

それでも小屋の外の魔物には多少効いたようだった。たじろいでいるのか一定の距離を保つ。

「しょうがないからドア開けてやるよ」閉め切っていてもどうせ押し寄せられれば耐えられない。いつまでも魔物に狙わせておくわけにもいかない。

「一生お礼致しますっ! 御恩は忘れません!」

「大袈裟だな。入って」まあ、一生が終わるところだったんだろうが。

ぎい、と重いドアを開ける。これでも昼間、必死で強化したのだ。

滑り込むように小柄な少女が入って来た。

「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます」

飛び込んで来た少女が床に頭を打ち付ける勢いで平伏する。ふわふわの金の髪が上下する。

フィラスは溜息を吐いてドアを閉める。閂を堅く閉める。

それでも持ちはしないだろう。

「いいよ普通にしてて。逃げる準備しておいてくれ。ここもそんなに持たない」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「うるせえっ。だからもういいって」

「許して下さるのですかっ?」

いや。全然。今からでも囮になってくれ。

と、言いたかった。だがそんな事を言えるフィラスでもない。

「何か武器は使えるか。包囲を突破しないと死ぬ」

一振りの剣なら地の精霊に頼んで作ってある。後は持ってきたダガーだけだ。

「うう。……囮になってきます」よく見れば可愛い顔を涙でくしゃくしゃにして、少女はふらふらと外に向かおうとした。「できるだけ遠くまで走ってみます。マリィはやっぱり足手まといで邪魔で最後まで厄介千万でした」

「待て待て待て」

ドアは開けさせないよ? というのもあったが、一回保護しておいて見放すとかありえない。

「ダガーは使えるか?」脚は速いか? 擦り抜けられるか? 多少の怪我は我慢できるか? 問いたいことは幾らでもあったが得物だけ聞いた。

「……ちょっとなら」

包囲がじりじりと狭くなっているように思えた。ドアの覗き窓から懸命に外を見る。明るさには問題がない。確かに近付いて来ている。抑えていた恐怖が冷たい汗になって噴き出す。

剣士の振りをしてもたかが知れている。

食われて終わりか。絶望的な予感ばかりが浮かぶ。

待て。俺は魔法使いだ。どうせ終わりならギリギリの魔法を使う。

自分にはできないと思い込んでいる限界で、それで失敗したとしても。

死に方くらいは選ぶ。

盗賊から逃げ続けなければ村で野垂れ死んでいたんだ。

ここに小屋を建てなければどうせ数日も持たなかったんだ。

臨戦態勢のゴブリンとゴーレムがドアを塞ぐように立っていた。まだ時間はある。

「お、お前、処女か?」マリィと名乗った少女に聞く。場にそぐわない感じで一杯だが今はやむを得ない。

「え? えっ?」マリィから汗が飛んでいる感じだった。

「いいから。処女かと聞いた」

「……違います。なんかわかりませんけどごめんなさいっ」紅潮した頬でマリィが頭を下げる。

上位の悪魔を呼ぶのは諦めた。

どうせ無理だけどな。いや無理とか考えるな。回復魔法を、その、そういう個所にかけたら騙せるんじゃないか?

経験はないが知識は豊富なフィラスだ。

膜がありゃいいんだろ膜が。

「下着脱いでこっち来い」

「! どうせだからとか、そういう……死ぬ前にとか。いいです。お任せします」恥ずかしそうにマリィが、着ているローブの中でゴソゴソと手を動かす。

「違うよ顔真っ赤にするな」

回復魔法なら何度も使った。死にかけから自分で数えきれないほど復活した。

「俺が、お前を処女にしてやる。理由は儀式の為だ。奴らはそうじゃないと来ないからな」

「儀式?」

「俺に任せて。隣に立ってローブめくっててくれ」

「何でもかまいません。急いでるみたいですし」ととっ、とフィラスの隣にマリィが立つ。殊勝なことを言う割にはド変態を見る目だった。

回復に詠唱なんか要らない。

これから使うと意識して部位を触るだけだ。

どこを触ろうが助かればいい。「んんん?」と声を上げるが、広げて指を入れた。

回復をかけた。声を失っているマリィは無視して簡易な魔法陣を炭で描く。

「来たれ」声の動揺を抑える。失敗したらそれまでだ。「闇より疾く来たれ」

詠唱の後半は自分でも意味のわからない高等魔法だ。発音だけを真似することはできた。

黒いものが集まってくるのがわかる。嫌な汗が噴き出す。

後悔してきたが、もう引き返せない。

雷のような音とともに、悪魔が実体化する。

さらに響いてきたのは哄笑だった。「貴様程度が我に何の用だ!」笑いは続いた。

「惨めな魔法使いよなあ。こんな魔法陣で我が封じられると思ったか。その贄だけ貰ってやる」マリィを指さす。「それで特別に一つ、願いを聞いてやってもいい」

「死……死ぬんですね、マリィ。助けて頂いて、本当に、本当にありがとうございました。さようならです」涙の溢れるマリィの瞳。マリィの細い指先がフィラスのローブを掴む。

死にたくはない。握りしめた指先がそう伝えて来る。

「そうはいかない。思い通りにはさせない」喉の奥から声を絞り出す。そうでなければ正気を失いそうだ。

「ほう? 下級も下級の魔法使い。それに免じて我が口を聞いてやっているのを平伏して感謝しろ。お前など黙殺して贄の魂を奪えるのだぞ」

圧倒的な魔力。小屋に押し寄せていた魔物も動きを止めているように思えた。

「従えっ」背嚢から魔晶を取り出す。俺は小物に過ぎないが、この魔晶だけは違う。

森に満ちた魔力を受け取って輝く。

「小僧、驚きはしたが、それを使う器がお前にはない。どうやって手に入れた」

「そんなことは今はどうでもいいだろう」語気を強めたが、決め手だと思っていたものが通じない。もうだめだという思いしかない。

「それも奪って帰るか。造作もない」

腕を掴まれる。魔法陣は突破された。元々、無かったように。ずるずると引き込まれる。

「今月から毎月贄を捧げるっ」

「出来もしないことを。哀れな奴よのう。貴様の顔など毎月見たくはない。……取引の仕方も聞いていられない。せめて血で契約書を書け。次からはな」

顔を鉤爪の生えた足で踏みつけられる。ミシッと顔が軋む。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

「苦しいか。一息に踏み潰してもいいんだぞ?」

悪魔は楽しんでいた。

「特別も特別だ。その哀れな顔に免じて、お前に手頃な魔物を呼んでやる。精々、束の間の愉しみでも得るんだな。贄はいらん。いつか我を驚かせてみろ。卑小な魔法使い」

再び雷鳴が響く。

魔法陣に立っていたのは小柄なサキュバスだった。

「あ……何? いきなり?」周囲を見渡して、狼狽えていた。

「駄目だった……」死ななかっただけでもマシだろう。「ああ、サキュバスか……」

フィラスが呼べる魔物の中では最高位に近い。

「どうやって切り抜けるんだよ。あの魔物をどうやって……」

「あなたがご主人様ですね。召喚されたのかぁ。……いつまで寝てるんですか、ご主人様」

身体を揺さぶられる。どうやら従属だけはしているらしい。

上半身だけ起きて、サキュバスを見上げた。青い髪、身体を強調する服。

「ラルフィと言います。以降よろしくお願い致します」

ぺこりと頭を下げた。マリィほどではないが、どこか幼い感じがあった。

「それでは、さっそく」

ラルフィが膝をついて屈みこむ。青い髪がフィラスの腰のあたりまで降りて、ラルフィの顔が股間に押し付けられる。

「んん、いい香り」熱い息が股間を刺激する。

「いや、いま魔物に囲まれてるんだよ。こんなことしてる場合じゃないんだ」

「それは無粋ですねえ。でもスリルがあっていいんじゃないですか?」

「そんなこと言ってる場合じゃないっ」

「……『混乱』でもかけてみますか。邪魔はさせません」

ラルフィは立ち上がると、短く詠唱した。魔法の使い手としてはフィラスよりずっと上のようだった。

「これで同士討ちを繰り返すでしょう。こっちの事は気にも止めずに。では失礼します。お腹が空いているんです」

ローブに潜り込んだラルフィが下履きを取ると陰茎に舌を這わせる。

ねっとりと熱い感覚がフィラスの怒張を包む。

「もうビクビク震えてる。初めてですか?」

「あ、ああ」

「うふ。大きい。硬さも凄い」

舌が、唇が行き来するたびに甘美な痺れが走る。口の中で溶けてしまったように感じる。

マリィが見ているだろうが、そんなことはどうでもよくなっていた。

こういう好き勝手をやるのもフィラスの夢だった。

外で怒号が響く。人の声ではない。同士討ちをしている魔物が殴り合う重い音が響いた。

「んちゅっ。れろっ。声を出してもこれなら気になりませんね」

「お、おおおっ」

腰の痙攣に気付いたラルフィが口を盛んに上下させる。

「んあっ」大量の白濁が迸るのを止められない。

「ずっ、ずずっ、んんんんっ。ごきゅっ。ごきゅっ」

肉槍に吸い付いたラルフィが尿道からも吸い取るように刺激を続ける。

「どうれすか。ごきゅっ。ふぅ。凄く濃い。空っぽにしてあげてもいいですけど、可愛いから許してあげます」

自分より年下に見えるラルフィに可愛いと言われるのも複雑だった。

ローブから顔を上げて、妖艶に微笑んだ。

「何度も出来そうですね。ご主人様。これなら私が飢えることもなさそうです。量も多いし、濃い」

ラルフィの巨乳を間近で見ていると、また下半身が熱くなる。

「あはっ。もう出来るんですね」ラルフィがローブの上から陰茎を刺激する。

「あの、どうぞ、ワタシにはお構いなくです。お続けください」マリィが小さな声で言う。

ラルフィはフィラスの手を引いて壁際に立つ。壁に手をついた。

「どうぞ。準備は出来ています」

ボタンで止めていた股間の黒い艶のある布を自分で外した。

濡れた秘所が明らかになる。

「いつまでも主導権は握らせないからな」

「ふふっ。どうぞ激しく」

ローブを捲って陰茎を突き入れる。膣壁の襞が熱く溶かすように怒張を受け入れる。

形良い巨乳を後ろから包むように握る。

「んっ。激しいっ。大きいっ」

蕩けている熱い粘膜を何度も擦り、包まれる感触にすぐに高まり始める。

膣壁が何度も痙攣するように怒張を締め付ける。小柄なラルフィは経験は豊富なのだろうが、膣壁がきつく熱く締め付けて来る。

悩ましく痙攣する膣粘膜が吸い舐めるように肉槍を奥へ奥へと誘う。

吸い付く膣壁が竿を絶え間なく刺激する。

怒張で突き当りを押すとビクンとラルフィが腰を揺らす。

「奥に……奥を滅茶苦茶にしてぇ」

ぷっくりとした桜色の唇から唾液が糸を引いて床に落ちる。

透明の蜜液は溢れて快感に蠢く膣口から太腿を伝っていた。

「人間に……こんなっ」

ぬらぬらと濡れ糸を引いている秘所はさらに淫汁を溢れさせ、床に水たまりを作っていく。

今日は強壮の実ばかり食べていたのが効いたのだろうか。里に持って帰れば争って歳のいったものが買う。それだけ薬効のあるものを体力回復に使っていた。

膣内をぐっと奥まで突き入れる。突き当たるとまたラルフィが痙攣する。背筋が震えていた。

「あああああっ」甘い吐息が漏れる。「くふぁああっ」夢見心地の蕩けきった表情でラルフィが足をがくがくと震わせる。

「ご主人様っ、も、もう」

半分意識が飛んでしまったような声を上げてラルフィが身体を震わせる。

「サキュバスがそんなに狂うとはね」

「イイッ、……んくっ、らってぇ。あんんん、あぐっ」

きつく根元まで怒張を咥えた膣壺がぐっと締め付ける。

「お願いします、ご主人様、一緒に」

「俺はまだだ」

「ああっ、ああああっ、これ、凄いっ。もうイクっ」

びくん、とラルフィが背中を震わせた。

まだ抽送を続ける。

「イッてるのに……ああああっ。また熱くなるうぅ」

ラルフィの四度目の絶頂で中に熱液を迸らせる。フィラスの頭も真っ白になっていた。

「……んくっ、イイッ、ひゃふっ、あんんん」

足から力の抜けたラルフィが床にぺたんと座る。辺りは淫汁が広がる水たまりだ。

汗まみれのラルフィが呆けたように虚空を見ていた。

しばらくしてから、フィラスに身体を寄せてうっとりとした顔になる。

「ご主人様、ラルフィをいつでも貪ってください。好きにしてください。ラルフィは忠実な下僕です。……誓います」

まだヒクヒクと小さく震えながら広がる媚肉が蠢いていた。時折びくっと身体が震える。

フィラスはラルフィの巨乳を掴み撫でる。

「あっ、あっ、まだ敏感ですから、ダメえっ」

「好きにしていいんだろ」

「……あ、あっ。弄んでください。ラルフィはもうダメになりますうっ」

目を輝かせてフィラスの思うままになる。ラルフィは乳首だけで二度達した。

「忠実な配下が増えたようだ。嬉しいよラルフィ」

「は、はいっ」まだ上気した、満面の笑顔でラルフィがフィラスを抱きしめる。

外での乱闘が終わったのはそれからしばらくしての事だった。生き残りにはゴーレムが止めを刺したらしい、とドアの覗き窓から聞き耳を立てて、フィラスは安堵の吐息をつく。

「残ってても一、二体だ。朝には決着が付く。片づけられる」

「ワタシが連れてきた魔物なのに、本当にごめんなさい。あ、あの、ご主人様と呼んでいいですか」床に頭を擦り付けて謝るマリィが頬を紅潮させて許可をねだる。

「フィラスでいいよ」

「いえ、絶対にワタシだけだったら死んでましたです。もう命は、その、ご主人様のものです。です」

幼いと言った方がいい少女が懇願する。

計算外だ。守るだけの力が自分にあるだろうか。帰るところもあるだろう。

「いつ里に戻るんだ?」

「本当は帰りたくないんです。あの、ワタシも上手じゃないけどさっきみたいなコト、できますです。だから……」

「さっきみたい?」

「口でしたり、あの、ええと」

何をとんでもないことを言っているんだ。ここに来たときは処女ではなかった、それは覚えているけれども。

そういう趣味はない。いや、あるかもしれないが拒絶する。無いとは言えない。

「……くすぐってもいいとか、か?」

「もっと凄いことです。あの、ワタシ、村ではそんなことをさせられてたんです」

「その歳で?」

「お金になることならなんでも。ワタシ、身寄りがないんです。お父さんとお母さんは戦乱で居なくなりました」

その後も滔々と続いたマリィの話を総合すると、両親を失って財産のないマリィは、そもそも森の奥に入ってくるのは強壮の実や幻覚作用と催淫作用のあるキノコを入手するためで、それが高価で売れるからだった。金になると分かっていてもここまで奥に入り込む者は少ない。

随分と冒険していたわけだ。これまで迷わなかったのは大したものだった。

延命の実、毒はあるが干せば食べられる珍味のキノコ、万病に効くと言われるキノコ、伝承に近いものを含めて一日中採集していた。金になるものなら何でも。

薬さえ調合して治療もしていたのに、村での身寄りのない子の扱いは酷いものだった。

キノコの催淫作用で正気を失った大人の相手も嫌々ながら受け入れていた。

それでまたキノコが売れる。高額のチップも貰える。

ただ生きていくだけならそんなに稼がなくても農家の手伝いもあるだろうが、誰一人マリィを受け入れて一緒に暮らしてくれる者はいなかった。

余所者には厳しい村だった。着やせするタイプで脱ぐと年齢から想像できない巨乳なのも虐待する欲望を刺激したようだった。

不運としか言いようがないが、そういう理由もあってマリィは村へと帰るのを嫌がっていた。今後食糧の調達は全部する。料理も洗濯も掃除もする。そう言い張って、潤んだ目でフィラスを見詰めていた。

ここに住むことで失うものも多いだろうが、マリィが望むのならば自己責任で逗留するのは構わない。

決して邪魔はしないというマリィの言葉をフィラスも諦め半分で受け入れた。

ここは魔境になるのだから自由な出入りも出来ないし、村では彼女を受け入れなくなるだろう。

それでもいいと言質を取って、フィラスはマリィを受け入れた。

夜は三人で粗末な布に身体を寄せ合って眠った。

それから数日は小屋の防衛網を広げる作業に費やした。

簡単な落とし穴から触れれば燃え上がる罠、マリィの知識から魔物が嫌がる薬草を燻す台、何よりもラルフィの『隠蔽』の魔法。フィラスも『隠蔽』は知っているが、それとは効力がまるで違った。効力外の三人を除けば、事実上小屋は見えなくなる。

凄いなと褒めるとラルフィはご主人様の為ですから、と頬に朱を染めて笑顔になった。

褒められるだけで興奮するラルフィがフィラスに抱きついて唇を重ねた。

毎夜ラルフィとは行為を繰り返している。既に躾けられた者のようにラルフィは従順になっていた。サキュバスを性的に陥落させるなんてことが出来るとは思えなかったけれども。どうやらそうらしかった。

ゴブリンと並列で言うのもどうかと思うけれどもゴブリンとマリィが採ってくる強壮の実が効いているのかも知れない。

「感覚の実?」

「せ、性行為専用の実です。感覚が何倍にもなるんです」マリィが顔を赤らめて言う。

試したのかとは聞かなかったが、その晩ラルフィは舌を突き出して泡を吹きそうだった。それも効いているのだろう。ラルフィはどこまでも従順だ。

山のように樹を伐り出して担いでくる。

簡易なローブではなく魔法使いらしいマントと杖を用意してくれる。詠唱への集中力が違う。マント自体が、杖が魔力を持っている。増幅する。

道具自体を召喚してフィラス用に改造していた。

「ご主人様がお嫌でなかったら身体にも紋章を刻むのですけど」

「卑猥なやつ?」

「そ、そういうのも有りますけど魔力増幅です」

「構わない。頼むよ」

ラルフィが腕を回してくる。

「私の魔力も使えるものです。私も刻んでおきます」

「……いいのか?」

「ご主人様の為ですから。私たちは極限の紐帯で繋がるんですよ」

うっとりとした顔でラルフィは待ちきれないように微笑む。

いずれ、痛みもラルフィが受け取るように紋章を刻める。互いの魔力の波長が合うまでもう少しかかる。

数日は小屋の強化とフィラスの底上げに費やされた。


献身的なラルフィの貢献がフィラスを変えていくのは主に夜だった。

自らの血を使い紋章を刻む。こんなサキュバスが居るとは思えなかった。

「おかしい? ご主人様の幸福を願うのは私の悦び」

「精霊が入ってるのかな。ラルフィは」

「自分じゃわからないけど。ご主人様の精を吸い尽くしたい気持ちもある。でもね、それ以上に役に立ちたい」

横たわり背をラルフィに任せて、熱いものが肌を焼いていくのに耐えた。

背に手を触れる度に青い髪が背中をくすぐる。ダガーで切り裂いたラルフィの指先から血が赤く熱く滴る。

ほぼ魔境と言える小さな空間は出来ていた。『隠蔽』が小屋の周辺を隠す。

隠れ住んで、毎日マリィの取って来た木の実と山菜を食べ、ラルフィと戯れる。悪くはなかった。

だが、何もかもこれからだ。誰も踏み入れない、踏み入れれば死ぬ魔境を作り上げるには先は長い。

うろつく魔物も小屋は発見できないようだったが、あくまで低級の魔物だ。

この間のマリィが連れて来たような大型が来ればひとたまりもない。

まだだ。まだ魔力が足りない。

「居たぞ!」「こっちかあっ」太い男の声が幾つも響いた。大勢で森の奥へ入り込んで来たようだった。

「罠が使えるかどうか、試してみるか」フィラスは数歩、『隠蔽』の効く範囲に戻った。余程の能力を併せ持った勇者でもなければ見つかることはない。

「このままでも充分、死の魔境ですよ」ラルフィが傍に立つ。

「……誰かを、追っている? ようですね」

低い灌木と草叢をかき分けて、あるいは飛び越えて、誰かが走っている。

張り巡らせた積りの落とし穴を、発条仕掛けで脚を挟む金属の罠を、鉄条網を、器用に避けて走る。あっさりと防衛線は突破された。

まるでここ数日の努力が無駄に思えた。

相手によってはこちらが攻撃に出なければならない。

「捕獲しましょうか」ラルフィが羽を生やして、空に舞う。「逃げているのはエルフです。滅多に手には入りませんよ。高等魔術の使い手」

「任せる」

ラルフィは首肯すると驚くほどの速度で森の中へ飛んだ。

自分は全く役に立たない気がしたが、フィラスは追っ手の側の男たちが次々に罠に引っかかるのを見て少しばかりの自負を取り戻す。

五十体まで増やしたゴブリンを総動員したんだ。四大の精霊も必死で使役した。

柵を飛び越えた直後の落とし穴に落ちた男が絶叫する。幾重にも返しのついた金属の槍で太腿でも貫かれたのだろう。喚きながら死を待つだけだ。

見えないほど細いが強い糸はラルフィが作り出した。

それを張り巡らせ薄い刃物を取り付けた罠で、身動きの取れない男が肉を割断されていく。

足を挟む金属の罠は思いの外、効果があった。草に隠してある。尖った岩を避ければ必ず踏む。

骨まで食い込んだだろう罠で、足を押さえて苦しむ者がしきりに喚く。

ここを知られたまま生きて帰すつもりはない。

「卑しい魔法使いを侮るなって言うんだよ」

放置しても数日で死ぬだろう。が、いつまでも喚き声を聞いていたくはない。

全員が罠にかかったと見張りのゴブリンが知らせる。木を叩く音でそう知らせる。

蟲を呼ぶ。骨まで食らい尽くす。

呼び出した蟲は雪崩を打って男たちに襲い掛かっていった。

しばらくすれば蟲は消える。その頃には白骨化しているはずだ。

罠を元に戻すには手間がかかるだろうが、使役しているうちに知恵のついたゴブリンでも出来るだろう。

何よりも罠が奏功したことにフィラスは興奮を抑えきれない。たかがこんなことで。胸が躍る。

「こ、ここまで完成する前に逃げてきて、マリィは運が良かったんですね」いつの間にか見物に来ていたマリィが袖にすがる。

「そうかもな。もう変なのは連れて来るなよ?」

こくこくとマリィが頷く。

「声に聞き覚えがあります。うちの村の誰かです」暗い悦びを湛えた瞳で、マリィは呟いた。

「全員死ねばいいのに」

「ここに来たのは全員死ぬ。村まで攻め込むつもりはない。ごめんな」

はぁはぁとマリィの息遣いが荒くなっていた。フィラスの袖を掴んでいた手が震える。

「どうかしたのか?」

「い、いいえ。夕飯を集めてこないとっ」赤面したマリィが森に飛び込んでいった。

羽の音がした。見上げると、エルフを抱えたラルフィが着地するところだった。

「逃げ足の速いこと」ラルフィが汗を拭う。

エルフは焦点の定まらない、光の消えた目をしていた。端正な顔。細い唇から涎が滴っていた。緑の長い髪が揺れる。

「いまは『誘惑』で私の虜にしてあります。魔法抵抗力が強くて大変」

早速、小屋に入れる。縄で身体の自由を奪い、猿轡で詠唱を避ける。抵抗する力を感じない。ただ熱い息を吐くだけだ。

「『誘惑』はご主人様もご存じでしょう?」ちらっとラルフィが魔導書を見る。

読んでいたらしい。ラルフィには簡単な内容だ。

人心を操る魔法は全て禁呪だった。

「このまま従属させましょう。『感覚』の木の実も余っていますし」

「エルフにも効くのか?」

ええ、と答えてラルフィは『感覚』の木の実を口移しで食べさせる。

発汗が激しくなり、熱い息が繰り返される。涎が止まらない。

「ふうんっ、ふっ、ふぐっ」身体を捩るように動かす。白い肌が桜色に染まる。

「刺激を欲しがっています。ご主人様、『誘惑』を」

頷くと『誘惑』をかける。ラルフィは効果を確認したのか、自分の『誘惑』は解く。

透けるように薄く柔らかい生地で出来た服の上から、胸に触れる。

形良い巨乳。ラルフィほどではない。ふくらみを捏ね始めるとそれだけで顎を仰け反らせて震える。硬い突起が指に触れると痙攣した。

「それほど経験はないんでしょうね」淫蕩に目を細めてラルフィが見詰める。

ぎちぎちと縄を軋ませて脚を動かす。腕に縄を食い込ませて身体をくねらせる。

胸への愛撫だけでエルフは達しそうだった。

ひょっとすると、拘束されているだけで? とラルフィが興奮した声で言う。

「股の縄を引き絞ってください」

言われるままにフィラスは縄を引いた。

「ん! んっ! ふんっ! ふんんっ!」

エルフの全身が痙攣した。

「あ……あああっ。あっ」震えた甘い声が形のいい唇から漏れる。絶頂の余韻らしく頬が真っ赤に染まっていた。潤んだ瞳は焦点を失ったままだ。

ラルフィがフィラスに耳打ちをする。陥落させる作戦を伝えた。

「も、もっと欲しいか?」作戦通り股の縄を引きながら聞く。

屈辱に塗れたようにエルフが頷く。涙が頬を伝っていた。

全身の震えは止まらない。

「お前から、その、欲しがったんだからな」

「ううっ、ふっ、ふぐっ」

「に、人間ごときに好きにされて」

否定するように何度か首を振る。

「嫌なら何もしないぞ」

黙ってフィラスを熱い目で見る。

ふーっと熱い息を吐く。タイミングを見て股の縄を引く。

「ふぐっ、ふっ、ふうううっ」

何度も仰け反る。

エルフに近づき、緑の長い髪を撫でた。「怖がらなくていい。これは、その、仲間になるための儀式みたいなものだ」

繰り返すうち、三度目にエルフが頷いた。

村の男達に追われていた姿を思い出す。人間にはろくな思い出がないんだろう。

それを強引に従わせる。泣くのも無理はない。罪悪感があった。

あれだけ人を殺して胸を躍らせて今更。そうも思った。

しなやかなローブをエルフの腰まで引き上げる。下着は付けていなかった。

小さく震えながら広がる媚肉が露わになる。

食い込んでいる縄をずらして、ぬらぬらと濡れ糸を引いている秘所に手を触れる。

「んぐぅ、んぐっ、ううううっ」

抵抗しても縄が締め付けるだけだ。

濡れている秘所に指を入れる。膣内は熱く蕩けていた。

膨らんで包皮から姿を見せた突起にも触れると、ぐぅっ、と声を出して震える。甘い声だった。何度も透明の蜜液で濡れた指先でそっと撫でる。

「んん、ふんっ」

ビクッと背を仰け反らせた。達した。全身が痙攣する。

まだ息の荒いエルフの背が床に付くように転がし、秘所が上を向くようにする。

いきり立つ怒張をゆっくりと蕩けきった膣壁の中に進める。

処女だった。それでも押し進める。

必死で抵抗する声。吸い付く膣壁はぬるぬると蠢き受け入れていた。

胸は痛んだ。作戦通りに、そう念じて緩やかに膣内で動く。

涙で崩れた端整な顔。熱っぽく潤んだ瞳が焦点を結ぶ。じっとフィラスを見詰める。

『感覚』の木の実が効いているのだろう。未知の快感が込み上げている筈だ。

フィラスを責めるような視線ではなかった。熱く誘うような視線。

無意識に動きを止めていると、エルフから腰を少し動かした。

誘われるままに奥まで肉槍を進めた。吸い付く膣壁が何度も締め付ける。

「んんっ、んふぅ、ふっ、ふっ、ふ」

快感に思わず目を閉じる時以外は、ずっとフィラスを熱く見つめていた。

結合部からは愛液が溢れて形良い小ぶりな尻を伝っては零れる。

熱い吐息が増えていた。

膣壁が何度かきつく強く締め付ける。達していた。

フィラスも限界だった。

「イクぞ」エルフの目を見詰める。小さく頷いた。

大量の白濁が迸る。膣がいっぱいになる感覚のせいか、エルフは目を閉じて、深く熱い息を吐く。

「あと三回は、なさってください」ラルフィが耳に囁く。

捕縛を解いたのは、夜になってからだった。『誘惑』は解いていない。解いた後の自信がない。

「ご主人。その……もっと続けても良かったのだぞ」エルフが言う。尖った耳まで真っ赤になっていた。

「申し遅れた。フィーナと言う。以降フィーナで。故有って一人で旅をしている。結果として村の連中から助けて頂いた事になる。礼を言う。何故我を見つけては人は狩ろうとするのか。人に辟易していた。……あ、いや、ご主人は違うぞ」

「主従の契約はしていないけどな」

「こ、これは命を助けられた当然の恩義だ。ご主人、不満か? その、な、仲間になったのではないのか?」

「いや。もうフィーナは仲間だ」

フィーナが安堵したように笑顔を浮かべる。

「好きなだけ逗留していってくれ。旅があるんなら続けて貰ってもいいけどな」

「いや、その」

フィーナが見詰める。

「居てもいいのだろう? 役には立つ。ご主人の為なら何でもする」

「なら歓迎だ。俺は……」低級の魔法使いで。そう言いよどむ。

代わりに自分の計画を話した。ここに魔境を作る。誰も立ち入れない、立ち入るのならば相応の危険を冒さなければならない、そんな場所を作る。エルフの森の砦のようなものだ。

そこで自分を鍛えて生きる。

一人きりになったのは盗賊の襲撃があったからだとも伝える。

一刻も早く魔境を完成させて、一人だけでも生きていけるようになりたい。

「仲間は要らんのか?」

「居たほうがいいさ。そりゃね」

「我は仲間を作るのが下手でな。故郷を追われたのも……いや、忘れてくれ」

「俺も全力で君を守る。これからよろしく」

立って、フィーナの緑の髪を軽く撫でた。

「何を……顔が火照るではないかっ」真っ赤になったフィーナが怒鳴る。

「食事ですよっ、食事っ」マリィが夕食の支度を終えていた。「たっぷり食べてご主人様の計画を進めましょうね」

それぞれ食卓に付く。乏しい材料は続く。木の実とキノコ、山菜。味付けは香草が主体だった。岩塩は地精に頼んだ。しばらくは問題ない量がある。

「我は構わんが、人の身のご主人には物足りぬのではないか? つまり、肉が足りないということだ」気遣うようにフィーナがスープから顔を上げる。

「これだけ森の奥だとね。罠にかかる獲物も少ないよ」ここ数日、何の成果もない。

「我に申し付けて欲しい。魔力が矢となる弓がある。なに、ここでも生きている獲物は多い。食卓一杯の獲物を狩って見せよう。それが最初の我が仕事で良かろうか?」目を輝かせてフィーナが身体を乗り出した。

「当然だ。マリィには狩りは無理だからね」

「ま、マリィにだって、罠にかかった動物くらいは取れますっ」不服そうに頬を膨らませた。

「フィーナに任せたほうがいいよ。森を知悉しているのはフィーナだ」

「マリィだってこの森は隅々まで知ってますからっ」

「でも迷ったろ? フィーナにそれはあり得ない。初めての森でも奥まで見通す」

実際、罠を一瞬で見抜いて駆け抜けた。それがエルフだ。

まだ機嫌の悪いマリィを宥めて、味は最高だと言う。

この暗い夜でもフィーナには昼間のように見えている。火精のおかげで燭台には明々と光が灯っているが、それもフィーナには要らないのだろう。

この森の奥へ逃げ込んだのもエルフらしい所だった。

当たり前だがエルフにとって森は限りなく有利な場所だ。

だからこそ逃げ込んだのだろう。

さらにエルフは高等魔法を使う。仲間にして損は何もない。

自分より上の術者から学ばずに、どうやって力を上げるのか。

「明日から、いや今からでも役に立てそうだな。ご主人」

「狩りは明日からでいいよ。美味しかった。見張りも頼めるかな」

「ああ! 怪しい動きは全て察知して見せる。危険であれば許可なく弓の餌食にしていいか」

「頼むよ。まだ罠も完全じゃない」

ふん。とフィーナが自信に満ちた顔を輝かせた。

「ま、マリィは魚の罠を作りますっ」確かに清流は傍にある。

「それも頼む。干した魚は割と好きなんだ」

マリィが破顔する。いい笑顔だった。

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが……このくらいはいつでも」ラルフィが短く詠唱する。

食卓にローストチキンとワインが並んでいた。

「フィーナさんもこの程度、何でもないでしょう?」挑発するようにラルフィが言う。

「丹精込めて獲って来たものとは違う。それに偵察の役目もある! この程度の魔法で我に勝ち誇った顔をするとは何事だっ」

フィーナが高等魔法を真剣に詠唱する。

さらに子牛を焼いた皿と子羊の焼き物が並んだ。

「森の奥にこんなもの居ないじゃないですかぁ」ラルフィが笑う。挑発しているのは明らかだった。

「やめろ。食事で争うなんて意味がない」

「争ってなんかいませんよ私」

「我を愚弄するのなら外へ出ろっ。卑しい魔物が偉そうにっ!」

掴みかかりそうなフィーナを抑えた。

「ラルフィ、どうしたんだよ」

「いえ、ご迷惑でしたね。申し訳ありません」

その晩、いつものように並んで寝ていた。

「ご主人」と囁かれる。

「……ん?」

密談が有るとでもいうように暗闇でフィーナが手招きをした。

寝床とは離れて座った。

「いつから居たのかは我にはわからんが、何だあの居丈高な魔物は」怒りは抑えているようだった。

「迷惑じゃない。君が来るまで……その、俺より上の術者は彼女だけだったんだ」思い切って打ち明ける。「俺は、下等な魔法使いなんだよ」

「見ればわかる。決して卑下するでない。日々研鑽しなければご主人のレベルでさえ難しいのだぞ? この小屋を作ったのはご主人か?」フィーナが見回す。

「ま、まあ大したことないけど、そうだ」

「自信を持って欲しい。細部まで補強されて堅牢な造りだ。四大を駆使したようだな。立派だ。誰にでも出来ることではない」感心したように見回しては頷く。「次も検討しているのだろう? より強固、堅牢、難攻不落な堅塁」

「ま、まあね」どうもフィーナは過大評価しているらしい。

「城が相応しいとは思うが、時間がかかる。……と、そんな事を言いたかったのではない」

すっ、とフィーナが身体を寄せる。右手が閃く。片刃の短刀を掴んでいた。

「『誘惑』を解け。ご主人」暗闇に刃が光った。喉元に冷たい感触。

「フィーナくらいなら、き、気付くんだな。す、凄いな」

「戯言は無用。解け。術の効果が続いていようと我は喉を掻き切れる」

これで終わりか。諦めた。下賤な魔法で縛る相手ではなかった。

「明日の獲物が楽しみだったんだけどな。ごめん。ほら」

解呪を詠唱した。これでフィーナは自由だ。

「……素直だな。流石はご主人。疼きも……いや全く止まらんっ。眠れないのだ」

フィーナの潤んだ瞳が見詰める。

「どうやら魔法のせいではないな。その、今ならいいだろう。責任を取って我を、その」

さらに身体を寄せた。密着した。

「篭絡したのなら責任を取ってもらう。いや、その、放恣に、好き放題に弄んで欲しい」

胸が押し付けられる。吐息が熱い。

「あの魔物とは毎夜性交しているのか? サキュバスだから仕方はないとしても」

「ま、まあ」

「ならば我にも寵愛が欲しい。恥を忍んで言っているのだ」

押し付けられたふくらみを強く掴む。

「もっと強くてもいい。ご主人」

力の抜けた熱い身体がフィラスに抱き付く。

尖る乳首を服の上から感じる。捏ねると切なそうな潤んだ瞳になる。

「毎夜毎夜求めて欲しい」

重ねた唇が熱い。

「はあっ。どうしてくれよう。幾らでも欲しい」

熱い唇が何度もフィラスの唇に重ねられる。

舌を入れると蕩けたような目元になる。強く吸われる。

キスしながら乳首を摘まむ。捏ねる。

「も、もう」フィーナは自分から服を脱いだ。「欲しい」

「熱くて硬いのをくれ」

ねだるフィーナを食卓の椅子に座らせる。

「焦らすのか?」

蕩けている熱い粘膜を舐める。舌を入れる。

透明の蜜液が溢れて来ていた。椅子を濡らす。

「ああああっ、イイッ、くふぁああっ」

フィラスの頭を抱え込み腰を震わせる。

「もうこんなに?」

「そ、それは一人で鎮めようとしてだな……」

刺激を受けていたらしい、包皮から姿を見せた膨れた突起を舐める。

「あ、あっ」背を仰け反らせる。「やはり一人でするのとはっ」

「も、もういいだろう? 我慢できない」

焦らすように小さく震えながら広がる媚肉を触り、舐める。

太腿が何度も震える。膨れた突起を舐めると抑えきれないように「あっ、はあっ」と声が漏れる。その度にびくん、と背が震える。

「ご主人は意地悪だな」訴えかけるようにフィーナが声を震わせる。

「お、お願いだ。我を、その、犯してくれ」切ない声だった。

力の抜けたフィーナを床に横たえる。

キスをしながら盛んに蠢く膣口に肉槍を入れる。

「ふうっ、ふんっ、んんっ……や、優しくなくていいのだぞ」

いきなり奥へと進めた。

「! ああっ、ああああっ、イイッ、あんんん」

フィラスに力の限りしがみつく。

吸い付く膣壁は奥まで蕩けていた。

「お、おかしくなる」唇から唾液が零れる。「もっと……」

いつの間にか足がフィラスの腰に回っていた。

まだ狭さの残る濡れ蕩けた膣壁を構わずに突き擦る。

「んんっ、あ、あっ」快感に蠢く膣口がきつく締まる。もう達したようだった。

さらに抽送を激しくする。

「いまイッているのにっ。ああああっ、ひゃふっ」

全身が震えていた。肌は上気して桜色に染まっている。

「あ、ああああっ、あああっ、ご主人の……好きにしてくれっ」

胸をきつく握る。顔を仰け反らせて震えた。

(苦痛を好むのかもしれませんよ)ラルフィが耳打ちした言葉だった。

傷みを感じるほどに胸をきつく握る。

「ん、んあっ、そんなにっ」潤んだ瞳でフィラスを見詰める。期待しているように見えた。

乳首を強く噛む。

「おうっ、あっ、くううううっ」身体に回された手足に力が入る。

根元まで怒張を咥えた膣壺が痙攣し、ぐっ、と締め付ける。

また達したようだった。

涙が零れていた。

「イキやすいんだな」そう言うと、涙で崩れた顔で小さく頷いた。

激しい抽送を始める。

「あ……あっ……あぅっ」

息は乱れ吐息が熱い。仰け反っている時以外は、涙で溢れる瞳で、じっとフィラスを見る。

背がフィラスを持ち上げるほどに反った。

「ご主人……ご主人っ」

「好きだ」唇を重ねた。

「はぅっ、いまそんな、ああっ、ああああっ、あぐうううっ」

きつく抱かれている手足が痙攣した。見詰めていた瞳が震えて白目になる。

「わ、我も、だ。こんな感情は初めてだ」

フィーナはすっかり力の抜けた身体を、手足を広げて、荒い呼吸で形良い巨乳を上下させる。

「まだご主人は精を放っていない。そ、それまで、何度でも」

室内の燭台の揺れる赤い光で照らされたフィーナはどこまでも美しい。

真夜中を過ぎても、フィーナと続けた。

大量の白濁を注ぎ込むと、「あっ、熱いっ、ああああっ」と仰け反ったフィーナが、放心したようにしばらく痙攣だけを続けていた。

起き上がると、荒い息でフィラスに抱き付いた。

「我は……その、良かったか?」不安そうだった。

「ああ。嘘じゃないよ。一緒に居てくれ。フィーナ」

「当然だ。これから尽くす」恥ずかしそうな笑顔でフィーナが唇を重ねた。「夜伽は、その、続けて貰えるか? ご主人には負担かもしれないが」

「こっちからお願いするよ」

満面の笑顔でフィーナがきつく身体を抱いた。

――ほんの数日で仲間が集まっていた。設備の方が追い付いていない。

ゴブリンが勝手に白骨を柵の外に吊るしていた。脅しのつもりだろう。効果がないわけではない。死は瘴気を生み、瘴気は魔物を呼び寄せる。そう考えれば清潔に保ち白骨など片づけたほうがいいのだが。

ベッドでも作るか。布、綿の調達はそう簡単ではない。結局ラルフィに頼むことになった。

「いつまでも床の上ではエルフの小娘も背が痛そうですからね」

「用途が違う」

「……ですか? 床で寝るのは単に背が痛そうだと言っただけです」ラルフィが含み笑いをする。

「第二拠点もお造りになるのでしょう? はい。ベッドはこんなものでいいでしょうか」

「六人分?」赤く豪奢なシーツ。弾力のあるマット。凝った木彫りで床からは高く保たれている。

「ゲストが来るかも知れませんし、フィーナと戯れるときは離れたベッドでどうぞ」

ベッドとちょっとした空間、食卓のテーブルだけで小屋が占有されてしまいそうだった。

第二拠点か、と考える。さらに強固にするべきだろう。あまり離れていても不便だ。

まだ気は早いが倉庫も要るだろう。

「レンガ造りにするか?」いずれ拡張して建物を継ぎ足していく予定だ。

強固で困ることはない。

「……お時間を頂ければ」困ったようにラルフィが眉を顰めた。

ちょうど巡回の時間だったのだろう、フィーナが「その程度かお主の魔力はっ」と声を上げて地面に降り立つ。フィーナは樹から樹へと飛び移って警戒を続けていた。

ラルフィの正面に立った。

「ちょうどいい。腕比べだ。こんなに濃い魔力が満ちているのに何ができない?」腰に手を当てて、顔を突き出す。

「言葉は選んで欲しいわね。本気を出せばあなたなんか奴隷に堕とせるのよ」余裕の笑顔でラルフィが答える。

「ふ、ふん。さっさと作って見せる。そこで見ていろ」

地面に手を触れ、フィーナが祈るように詠唱する。

土が盛り上がり、樹々が自ら根を引き抜いて歩く。

竈が形作られ、樹々は断片となって、薪となって積みあがる。

炎が上がり煙が立ち込め、レンガが焼けていく。巨大な竈だった。

材料が揃うまで、驚嘆したまま見ていた。

「あとは設計だ。ご主人。歓迎されない輩をどう迎えるか我に告げて欲しい。そのように作る」

「そうだな……」

正面玄関に見えるものは罠だ。ドア自体に仕掛けを施し、握った手を突き破る槍を仕込む。それでも入って来たものは天井からの槍で絶命する。

一階は全て罠で埋め尽くす。二階への入り口は背後に隠す。そこを守るのはゴーレム五体だ。階段を上がれるのは細身の者だけで、決して巨大な魔物ではない。

二回は豪奢でなくていいから快適な範囲で水浴びくらいは出来るようにしたい。

「川まで地下道を掘るか、井戸を掘ってみるか……いやご主人。もうお手を煩わせる事はない。ただ待っていてほしい。夕方には間に合わせる」

「……高等魔術には負けたようね」ラルフィがやれやれと手を広げて、周辺の警備に回る。

「第二拠点の外に巡らせる罠でも作っておくわ。ああ、地下にも行けるようにしておいてね」

「貴様の言いつけに従う義務はない」

「地精に掘らせれば何でもないでしょう? 倉庫と拷問室を作るのよ。飛び切りの拷問室を作ってあげる。私の知る限り最悪のものを」ラルフィが唇を舐める。

「醜悪な趣味だな。じ、自分でやれっ。穴は開けておいてやる」

「いいわよ。興味はあるんじゃないかしら。フィーナ。絶息寸前の悲鳴が似つかわしい部屋。魔境には必須だわ。毎夜の饗宴もあなたには必要なようだし」くすくすと笑ってラルフィは森に消える。

「な、何をっ」フィーナが尖った耳まで真っ赤になる。

「集中を殺ぐこと夥しい。淫魔ごときが」すっ、と深呼吸をしてフィーナが作業に取り掛かった。空中をレンガが飛ぶ。漆喰が間を埋める。

「ああっ、集中できん」下着をつけていないフィーナの太腿に透明なものが伝っていた。拷問室という言葉だけで反応したようだった。

「急がなくていい。まだ最初の小屋で持つよ」

「あ、ああっ。そうだな。その、ご主人、キスして頂いていいだろうか」

「いいよ。集中できなくなるんじゃないか?」

「どうせ乱された。あの淫魔め」唇を舐めてキスする。「ん……んんっ。はあっ」もう体の力が抜けていた。

「拷問だのと我を愚弄しよってっ。こんなになったのは半分はご主人のせいだからなっ」

地面に座り込んだフィーナが恨むように潤んだ瞳で見詰める。

「今からというのはあまりにもはしたない、だろう?」

「それでフィーナが満足するなら」座り込んでフィーナを抱いた。

はぁ、と熱い息を吐いた。「どうにもならない」フィーナが抱き付く。

「どうした。凄いな」ぬらぬらと濡れ糸を引いている秘所。

「言うなっ」指は抵抗なく容易に奥まで入った。

「ああああっ。ご主人。我はどうにか……なって……しまった」身体に回された腕がきつく身体を抱く。

フィーナは身体の力が抜けていく。服が土に塗れる。

「どうしたらいい。どうする。我は淫魔にも軽蔑されるようになったのか」

「そんなことはない。誰もフィーナには及ばないよ」

「我の価値は魔力だけか?」切なそうにフィーナが真っ直ぐ目を見る。

「いや、言った通り好きだ」

「嘘だろうが悦びしかない。何故だ」軽く、フィーナが震えた。

「落ち着いたらゆっくり第二拠点を作ろう。一緒に。その前に、」

下履きを脱いでフィーナに屹立を突き立てる。

「こんな所でっ。ご主人。続けてくれっ」

フィーナが汚れないように上に乗せた。フィーナが自分で腰を振る。

「こんな……腰が止まらないっ」形良い巨乳をきつく握ると軽く達したようだった。

ラルフィの翼の音で行為を止める。

「あら。続けてもいいんですよ」とん、とラルフィが降り立つ。

「大当たりが来ました。この辺りに棲んでいるとは聞いていたんですけど。大魔法使い、と呼んでもいいんでしょう。レフィーラ。『誘惑』するのに苦労しました」

どさっ、と地面に少女が投げ出される。分厚い眼鏡が地面でズレる。

「戦力を集めるのは私の仕事のようですね」

自負を込めたラルフィの声。実際その通りだった。

「早速小屋へ。私も補助します。ご主人様、全力で『魅惑』も使って頂かないと、さらにこれ」『感覚』の実だった。「全てを大袈裟なくらいに駆使しないと支配できません」大きな木の葉で作った袋から、ざらっ、と『催淫』のキノコ、『強壮』の実、『邪淫』の実、『非道徳』の実、『多淫』の実、数限りない実とキノコが覗いていた。

「支配? 我は、そんな状態ではないぞ。自ら……」

「分っています。あなたとこの子では状況が違うというだけです。どうか邪魔だけはしないように」

「せ、性行為なのだろう? 何故そうする」

「あなたが一番わかっていると思いますが。この私でさえ気絶するのですから」

言い捨てて、ラルフィは少女を抱き上げると小屋へ向かった。

「事情はおありと思いますが、早めにお願いします」

フィラスはラルフィに続いた。不満そうなフィーナへは夜を約束した。

「今の内に『誘惑』と『誘惑』を最強度で重ねてかけて下さい」

小屋で、ラルフィはそう言った。

木の実やキノコはラルフィが口移しで食べさせていた。

最強で。出来ないギリギリで。フィラスは悪魔を呼び出した時の恐怖を思い出す。それでも続けなければ手に入らない。レフィーラと言えば聞いた事がある。少し変わっているが、森に隠棲しているとは知っていた。任官されていない魔法使いとしては最強だ。

「はぁはぁ、……うぅつ、ボク、どうなるの? ねぇ。」

レフィーラは眼鏡をかけたままだった。そうでなければ何も見えないらしい。

『誘惑』と『魅惑』を自分の限界でかける。

「な、何? んあっ、はっ」

「効果は出ています。どうぞ思うままに」

レフィーラの真珠色の突起は思ったより大きかった。

快感に蠢く膣口から上に、はっきりと突き出している。

口に含んだ。

「んきゃっ、あああはあああああああああっ、イイッ、いやあああああああああああああああああああああっ」

喘ぎ混じりの甘い声だった。

構わず舐め、吸う。

腰が震え上下する。「ボク、ダメっ、やめっ、やめっ、らめっ、ああっ」

既に淫汁で潮の味がした。

ぷしゃっと透明の蜜液が噴き出す。

感覚は擾乱し、自分でも把握できないだろう。

「んあっ、はあああああっ」蜜液の放出に合わせてレフィーラが絶叫する。

「上出来です。ご主人様」

「無茶なことをしてもいいかな」

「フォローはします」

「たぶんここだ」尻肉を掴んで腰を突き出させる。

ぷっくりと包皮から姿を見せた膨らんだ突起を舐める。吸う。甘く噛む。

「んあっ、んあっ、いやっ、イクぅぅっ!」

「ん、あっ」背が反った。レフィーラの小さい怒張のようだった。幾らでも快楽を引き出せる。

「ボク、ボク、ボクもうダメっ。入れてっ」

「いいんだな?」

「は、初めてだけど、イイ。奥が変な感じで止まらないんだよっ」

形良い巨乳が揺れる。

目を閉じて待っているレフィーラの、快感に蠢く膣口へ肉槍を突き入れる。

「んっ、んんんっ、うあっ、イイよ、ボク、我慢する」

「嫌ならいいんだぞ?」

「繋がってぇ。ねえ。このままで居てえっ」

盛んに振るくびれた腰が奥へと飲み込んでいく。

均整の取れた細い身体だった。

痛みは完全に消されている。無数の実がレフィーラを淫猥にしている。

「お……おおおおっ、おふっ。おあああああっ」

蹂躙される悦びが勝っているようだった。

「ボクを壊してっ。ボク、ボク、寂しかったんだっ」

いきり立つ怒張を根元まで怒張を咥えた膣壺で暴れさせる。

「うあああっ、うあっ、うううううううっ」

絶え間なく膣壁がこの上もない快感で締め付けて来る。

結合部から糸を引く粘液が白く垂れる。

「お、おほおおっ、ああっ、ご主人様っ。イッていいですかっ」

「まだだ」

「んああああっ。耐えます。耐えますっ」

「随分と魔境に相応しい人になりましたね」ラルフィが熱い甘声を上げる。自分で触っていた。糸を引く粘液が床に垂れる。

「フィーナとは別の方向ですが……」とラルフィが耳打ちする。

「本当か?」

「女ですから」

「ん、んむ。まだイクな」尻肉を痛みのある強さで掴んだ。

「くふぁああっ。無理っ、無理いっ」

「耐えろ」垂れてきている透明の蜜液で尻房を抜けて菊穴に触れる。

「あっ、あっ、あああああっ、そこはっ、らめっ、らめえっ」

舌を突き出していた。

「最強の魔法使いじゃなかったのか?」

「ひゃいっ。奴隷れすっ、ご主人様の奴隷れすっ」

菊穴から指を進めた。びくびくと背中が跳ねる。

「太いしっ、そっちも弄られたら狂うっ」

「じゃあそうしろ」

「こんにゃに……イイのはおかしいっ。ボク、ボク壊れてるっ」

「ここか?」張り詰めているクリトリスを撫でた。

「イヒッ、あふっ、うああっ。うあああああああああああああああああっ。ボク、ボクご主人様のモノになっちゃう。モノになっちゃう。壊れて、モノにっ」

びくびくと快感に蠢く膣口が痙攣した。

(孤独を選んだ魔法使いなんてこんなものですよ)

ラルフィが囁く。俺もそうだ。孤独を選んでいる。痛みがあった。

(ご、ご主人は違います)

「同じだ。俺はレフィーラでありフィーナだ」

「違います!」ラルフィが声を大にする。

「帰るところが魔界にあるんだろう。俺にはない」

「ご主人様には……」気遣うようにラルフィが目を彷徨わせる。

「なに? もっと苛めてくれるんでしょう? ボクを」レフィーラが蕩けた目で見る。

「ああ、精液でいっぱいにしてやる」

「んああっ。壊して、ボクを壊してっ」ビクビクと身体が跳ねた。

やがて木の実の効果が薄れ、魔法を解除してもレフィーラはフィラスに抱き付いたままだった。

全裸のレフィーラを横目でフィーナが睨んでいた。

「人外が睨むぅ。ボク、怖いっ」

「人として最強だと言うのか?」

「いーえ。この辺り限定。無理でしょ最強なんて」

「主人には無理と言うな。伸びしろを削るな。それより明日から何をする?」

「こうしてる。ね? ご主人様。ボクはそれでいいよね?」

「……雑用だろうが仕事はある! そのままで居れば首を刎ねる」

「やだやだエルフの高等魔法は。ズルいよねえ。生まれたときから魔法が使えるっていうだけでしょ? 努力とか無関係なんだよね。ボクには無能の集団にしか見えない」

「言ったな?」

「うん。寵愛が欲しくて狂いそうなエルフさん。ボクは言ったよ。でもボクが先だ。ご主人に誘惑は使わせて貰った。随分慎重に魔法を重ねたみたいだから、ちょっとした復讐だよ」

悪戯のようにレフィーラは言った。舌を出す。

「あんまりボクが欲しそうだからあげただけさ」

「その程度なら帰れ。出ていけ。居たければ、我と勝負しろ」

「あはは、だから人外は面倒臭いんだよね。いいよ。ここなら……炎は使えないね。すぐ全焼だ。勝負しようじゃないか。ボクはボクの得意で勝負する。先にいいよ」

ゆらっとレフィーラが立つ。闘気に満ちていた。

「言って置くけどボクの魔法抵抗は誰よりも高いよ」

「ドワーフとでも思っておく。下賤な人よ」

「ちょっと待て。こんな所で決闘なんかするなっ」

レフィーラに縋りつく。

「あんっ。酷いよ。集中が途切れるよ。負けちゃう」

「結果は明日から出せばいいだろう? もう辞めてくれ」

「ボクに何かして欲しいならたっぷり寵愛をくれないとダメだよ? 何しろボクは初めて人に肌を許したんだから。あれだけの薬を浴びながらね」

「殺してしまおう。こんな反抗的な仲間は要らない」

「いつか感謝するよ。ボクに」

レフィーラを引き倒す。「ひやっ。ご主人様、急ぎすぎだよ」

「これ以上フィーナを侮辱するのは許さない」

「だったらどうするの?」レフィーラが舌を出して唇を舐めた。

「罰だ。お仕置きだ」

お仕置き、でブルッとレフィーラが震えたのはわかった。

「ボ、ボクの力が欲しいんじゃないのかな?」

「だからこそ苛めてやる。もう二度と反抗できないようにな。言われれば土でも舐めるようにな」

「……あ、あっ。ボクはっ」

「孤独で人を知らない、そうだろ。俺と同じだ。その上変態だ」

「誰がっ」身を捩るレフィーラの乳房を掴んだ。

「んはっっ」震えた。脚を擦り合わせた。

「誘惑も魅惑もナシでこれか?」

「合わせてやってるだけだっ。ボクはっ。ああああっ」

快感に蠢く膣口を下履きの上から撫でた。既にしっとりと濡れている。

ゆらっ、と数歩フィーナが前に出た。

「教えてやりましょう。この生意気な人間に」

「それは私の役目じゃないかしら」ラルフィが薄い衣装で歩み出る。「いいのよフィーナさん。見ているだけで。後で時間があるでしょう?」

「誰がお前程度にっ」

「共に戦いましょう。今日くらいは」

魔法が作り出したとしか思えない完全な身体のラルフィが床を蹴ってレフィーラに近付く。

「お、女とはボクは興味がないっ」

「じゃあご主人様の言い付けに従いましょうね」小さく震えながら広がる媚肉にラルフィが触れる。

「さもなければ意に反する拷問だけが待っています」

「ご、拷問?」レフィーラの身体が震えた。

「ふううん。そうですか」

悦楽が顔に浮かんでいるラルフィが、「どうやらフィーナと同じね」と唇を舐める。

「ち、違うぞ! 我はたった一人にしか忠誠を誓わん」

「……ボクだってそうだよ! 人外に説教はされたくないな」

「ご主人、教えてやりましょう。魔境の流儀を」

「ご主人様、責めるならまず敏感な場所からがよろしいようです」レフィーラが加勢した。人外と言う言葉に反応したのだろう。

「じゃあ魔境の流儀で」

屈みこんでレフィーラの突起を舐める。膨らんでいる突起を吸う。

「くふぁああっ、イイッ、ああああっ」

「欲しくなるまで舐めてやる」

「やっ、やあっ、いやああっ、やめて」

可愛くなったな。そう言って舐め続けた。

「入れて欲しくなったら言ってね」ラルフィが胸を揉む。

「お前たちは一体、何だ。ボクをどうする気だっ」

「魔境の住人だよ。お前を壊す」

クリトリスの感覚を四倍にしてあげようかしら。ラルフィが淫蕩に笑う。

「『性感』。使えるのは卑しい魔物だけかしら。楽しんでね」

レフィーラの反応が激しくなった。「おかしいっ。も、もうイク。頭が壊れる。頼む」

「楽しんだらどう? 魔法は使えるでしょ。ちょっと壊れても」

「いっ、嫌だっ、ボクがボクじゃなくなるっ。魔法体系を忘れるっ、ああああっ、イイッ、あんんんっ」

「そろそろ入れてもいいかと。ドロドロですから」

にぃ、とラルフィが笑う。

「ボ、ボクっ、ほ、ほしいっ」

顔を真っ赤にして、レフィーラが言う。

濡れた淫裂はヒクヒクと動き開いている。怒張を、濡れ蕩けた膣壁にゆっくりと入れる。

「あんんんっ、ああああっ」

入れただけで達したようだった。ビクビクと膣壁が締め付ける。

「今はダメっ。おかしくなるっ」さらに怒張を奥に進める。

「イイッ、ひゃふっ、……うぅつ」

淫汁が吹き出すように溢れる。

大きく開いた口から舌が覗く。

「あはぁ。はっ」その舌を吸った。

「んんっ。んっ、んっっ」レフィーラから吸い付いて来る。

ぎゅっと膣壁が締まる。切なそうな潤んだ瞳だった。

「イイよ、奥に……いっぱいにして」

根元まで怒張を咥えた膣壺をさらに押し込む。

「んんっ、んあっ、当たるっ、大好き、これっ」

ぷっくりと膨れている淫豆を指で刺激する。

「あはっ、ああああああっ、ダメっ」

結合部が締まる。淫汁を迸らせてレフィーラは仰け反る。

行為は夕方を越えて続いた。

「ボクはボクにできることを……するね。ごめんね……みんな」

まだ荒い息でレフィーラが言う。

「しおらしいな。それならばよし」

「うふっ。ちゃんと毎晩可愛がって貰いなさい」

「う、うん。みんなもそうなんだよね?」顔を火照らせてレフィーラが言う。「ね? ご主人様」

「そうだ」

魔女らしい黒いローブの上から、レフィーラの乳房を軽く掴む。「んんっ、ご主人様っ。ボク、またしたくなっちゃうっ」乳房は大きかった。ラルフィ以上、この中では一番だった。

「明日でいいが、ここ以外にご主人の拠点を作っている。一階は罠で埋め尽くす予定だ。手伝って欲しい」

「罠なら得意だよ」目を輝かせた。「残酷で致命的な罠。対人と対魔物の両方を考えとくね」


その晩からベッドの上で寵愛を重ねた。かなり時間がかかったが、『強壮』の実の効果か、疲れはなかった。

「んふっ、くちゅっ、れろっ」朝、屹立に舌の刺激を感じて目覚める。

ショートカットの黒髪が股間で揺れていた。レフィーラだ。

「ごふゅじんしゃま、おはようございます。ボク……我慢できなくて」

「何をしている。朝から……」ごくっ、とフィーナが唾を飲み込む。頬に朱がさす。

「ま、混ざるぞ」

固くふくらむ亀頭はレフィーラが咥えこんでいる。先端をうっとりとした顔で舐める。フィーナは竿に盛んに舌を這わせる。

長くは耐えられない。レフィーラの口に大量の白濁を送り込む。

「んぐっ。んっ、ごきゅっ、んっ、んっ、んっ、ごきゅっ」

全て愛しそうに飲んだ。

フィーナが物足りなそうに、レフィーラの口から零れた白濁を舐めた。

「ご主人、一回では足りないなら、その、言って欲しい」

「フィーナの好きにしていい」

結局四回も責めは続いた。


数日で第二拠点は完成した。仕上げにラルフィの『隠蔽』を使った。これで簡単に見つかることはない。

「これからが本番だな」完成した堅固な拠点の二階に上がる。

「いずれは城を作る。それでいいのだろう。ご主人」

「そうだ。そして……」

「我が魔法の手解きをする。比類なき魔法使いにして見せる」

頷く。大筋はそれで間違いない。だが、この拠点を守るにもまだ工夫が必要だ。

窓の鎧戸を開ける。かなり遠くまでフィーナなら見えるだろう。外を見回すと、火精を使った篝火はこの拠点にも幾つも取り付けられている。

ゴーレムも十体に数を増やしてここを守っている。ゴブリンも時間稼ぎにしか使えないだろうが歩哨の役に立っている。何体かはマリィの手伝いをして食糧を取りに行っている。

自然に集まって来たオーク数体はラルフィが飼い慣らして力仕事に使い、今はゴブリンを圧して歩哨をしている。コブだらけの棍棒が凶悪だ。

第二の防衛線は飼い慣らした怪物の外に巡らせてある。

魔法を使ったものが殆どだ。触れれば業火に包まれる仕掛け、近づいただけで炎を吹きかける仕掛け、主に上級の魔物を倒すために作った。対人でも充分過ぎる機能は発揮するだろう。殆どはラルフィとフィーナが作ったのだが。

見えない糸を張り巡らせたりしたのは第一の防衛線だ。脚を狩る鋼鉄の罠も数を増やして仕掛けてある。対人と割り切ったから森で獲れる毒を塗ってある。

毒矢を射かける仕掛けはフィーナが作った。エルフの森の城塞にはそんな仕掛けもあるらしい。

「二階は見て回らないのか? ご主人」

生活空間もフィーナがかなり凝ったと聞いている。

「見ようか。楽しみだ」

フィーナが得意げに先導するのに続いた。

「どうだ。風呂だぞ! ご主人」廊下の中ほどの大きなドアを開くと、広い空間に大きな湯舟が作られていた。足元は砂利と漆喰で滑らないようにしてあった。「井戸を掘っていたら温泉に当たった。いつでも入れるぞ」

「大理石で作りたかったのだがな、今は木で湯舟を作ってある」

「これは、凄いな」よく二階まで湯を引いた。魔法も使っているのだろうか。

「入魂の作だ。私は湯あみが好きでな。ご主人は?」

「毎日でもいい」

「病を避けるには毎日でも入ったほうがいい。傷も癒える。疲れも取れる。湯を飲んでも問題はない。井戸はもう一本掘ったが」

「随分広いな」

「炊事にも洗濯にも、その、使えると思ってな」

清水の湧いている水飲み場。近くに炊事場。エルフの里は清潔なんだろう。

広いベッドルーム。食堂。まだ使っていない部屋が二つ。カーペットが敷かれ、クッションが置いてあるだけだ。物置には充分に収納できそうだった。

どの部屋にも柔らかなカーペットが敷かれている。華美ではないが小さな城にいるような気分だった。

外見としては屋根のついた普通の二階建ての家だ。予定よりかなり巨大になってはいるが。

「屋根裏もある。展望と高所からの攻撃に使えると思って入れるようにしてある。いざという時には隠れるのにも使える。私の範囲はここまでだ。一階の仕掛けは見て歩くわけには行かないだろう。後で仕掛けを書いた見取り図を渡す」廊下にある伝声管を掴むと、「次はお前の番だ。ご主人を地下に案内しろ。ラルフィ」そう叫んだ。

「どうせ地下の拷問部屋とやらに籠りきりだ」

――居並ぶ仕掛けのついた宝箱。地下倉庫はそんな作りだった。下手に開ければ大怪我をするくらいでは済まなそうだった。

「鍵は身に着けておいてくださいませ」ネックレスに加工した鍵を渡される。

お互い怒鳴らなくても聞こえる耳だというのに。ラルフィが小声で不平を言う。さっきの伝声管の事を怒っているのだろう。

「ワイン貯蔵庫も食糧の貯蔵庫もあります。そして、これが」

小さな覗き窓の付いた部屋は牢屋だろう。広い部屋にみっしりと拷問道具が並んでいた。

「こんなに、どうするんだ?」

「人質を取ることもあるでしょう。悲鳴が響き渡るようでなければ魔境の根城だとは私には思えませんので」

生贄を捧げる祭壇と精密に作られた魔法陣の周囲だけは広く開いていた。

「ここが血に塗れる頃にはご主人様も一流の魔法使いです」

地下だけは石造りだった。

「掘れば出てきますからね。地精に切らせて積ませました」

「ダンジョンみたいだな」

「ふっ、建て増して迷宮にでもしますか? そう命じて頂ければ。隠れ家らしく広大に作ります」

浄化のための炎を消してしまえば暗闇に何かが湧くだろう。ごく自然に魔物だらけの迷宮が出来る。

いざという時の為に容易には侵入できない部屋を。そうラルフィに告げる。

早速ラルフィは着手したようだった。

よく見れば炎を絶やさない祭壇、水を湛えた祭壇、貴金属で飾った祭壇、風の紋章が刻まれた祭壇、四大の王への敬意もさりげなく盛り込まれていた。

濃厚な魔力がここでは秩序を持って動いているように思えた。

第二拠点の最初の犠牲者はほどなく現れた。

マリィが転がり込んで来る。「だ、誰か居たんで逃げてきましたっ」

「キノコ採りかなんかか? 服装は覚えてるか?」

「たぶん、ワタシが木の実やキノコを採らないから、探しに来たか、自分で採りに来たか……」

「その程度ならここまで来れば死ぬよ」テーブルの上の魔導書に視線を戻す。マリィには「侵入者が死ぬまでは隠れていればいいよ」と告げた。

フィーナが付きっ切りでフィラスに、最初に持っていた魔導書の解説をしていた所だった。禁呪ばかりとは言え、高等魔術も含まれている。全部覚えてしまいたかった。

用途の無かった部屋にテーブルと椅子を持ち込んで、参考の魔導書を急造の書棚に置いて、日々半日は魔導書の解説が続いていた。この程度で音を上げるわけにはいかない。

ラルフィとレフィーラはそれぞれ地下室の拡充、周囲の警戒をしている。

レフィーラにはフィーナほどの視力は無いが、魔法で気配を探り続けている。

からん、と木の板を叩く音が屋根の上で響いた。レフィーラだ。

フィラスも窓辺に走って、木槌で木の板を一度だけ叩く。

連打すればすぐに排除しろ。一回なら任せる、だ。

フィーナはエルフらしく、と言えるのかどうかわからないが一日中見張りをしていても退屈することがない。森の自然を感じているだけで満足だと言っていた。

レフィーラは暇さえあれば罠と第二拠点の強化を続けていた。屋根の上からでも作業には何の支障もない。

「では、次の魔法に移る。『混乱』だ。窮地を抜け出すには格好の魔法だ」

「ラルフィが使ってたな」

「ふん。いかにも使いそうだ。これは奥が深い。よく覚えるように」

数人に侵入されたことをフィーナは全く気にしていない。

これが討伐の兵や勇者ならば反応は違うのだろう。

「いつ諦めるかにもよるが、次の対応によっては危険になるな。呼び水になる」一通り『混乱』を教えてから、フィーナが言う。

「行方不明になれば捜索隊が来るっていうことかな」

「そうだ。ここはまだ盤石ではない。魔物を恐れるだけではなく、積極的に守りに使っていかないとな」

魔物を忌避するだけではなく利用する。第三の防衛線を考え始めていた。

魑魅魍魎の跋扈する廃墟を作る。ここでも高い樹々で日中でさえ薄暗いが、さらに陽を遮り暗がりを作り出す。

血に汚れ腐臭がしていれば餌を求めて魔物が集まり始める。暗がりから湧く。

人肉を食らうオーガあたりから集めていく。

第二の防衛線を見て回る。キノコ採りに来たらしい男達はゴブリンに止めを刺されていた。

石槍ではなく鋼の鋭い先端を持つ槍だ。脚を鉄に噛まれ動けない状態ではひとたまりもない。

「ボクはこの先に廃墟を作ればいいのかな」

「私も手伝いましょう。急いだほうがいいでしょうから」

「無論、我も助力する」

三人を連れて来ていた。ゴブリンを使い死体は罠から剥がさせて、罠は元通りにする。死体を廃墟に放置する。陽が傾いてきていた。急がなければならない。

地精が駆使され、強固な石造りの廃墟が作られていく。

手短な廃墟に死体を置く。既に魔物の気配があった。新鮮な血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。

「オーガ一体くらいは召喚しておきましょうか?」ラルフィが言う。

「……そうだな」

「ボクたちの使い魔代わりに一体くらい置いとこうかっ。もちろんご主人様には害はないよ? ボクはバジリスク」

「派手なものを呼ぶものだな。我はトロル一体を置いておく。タフでそこそこ使える。バジリスクで他の魔物が死なないのか? 大体森が枯れ果ててしまう」

「ボクもトロルでいいよ。じゃあ」

召喚されたオーガが骨ごと死体を噛み砕き啜る。

「全部食べないように」ラルフィが命令する。

陽が落ちるまで、廃墟作りは続いた。途切れ途切れに拠点を囲むだけでも数日はかかるだろう。

オオカミの遠吠えも聞こえた。死肉を狙うものたちが集まって来ている。

普段より濃厚な魔物の気配に、帰途を急いだ。

捜索隊が来たのは次の日だった。まだ早朝だった。

「ご主人、連中はまるで見当違いの場所を探しているな」窓辺に立ったフィーナは今日は授業を始めるどころではないようだった。確かにこれから人数が増える可能性はある。見つかる可能性もある。「屈強そうな者が多い。帯剣しているな。冒険者という風情だ」

フィーナにしては焦りがある。窓辺をしきりに往復する。

「全滅させるには遠い。仕掛けてもいいのだが……」

やるからには全滅させなければこの場所が明らかになる。そうフィーナから繰り返し言われていた。

「トロル一体を差し向けても不自然ではないか。奴らの力量を知りたい。分散して探しているのなら、その仲間の数も知りたい。斥候の魔物を作っておくんだったな」

それなら、とフィーナに提案する。

「……ご主人、そんな魔法を知っていたか」

「驚くようなものじゃないよ。これも禁呪らしいけどね」

シビレバチ、別名人食い蜂。窓から身を乗り出して、召喚する。「ここじゃ珍しい昆虫じゃない。運が悪かったと思うだけだ」羽音を響かせて大群が飛んでいく。

「蟲使いなのか? ご主人」

「その魔導書で使えそうなものを覚えてるだけだ」

誘導しなくても人の匂いを追う。「力量は分からないかもしれないけど、何人いるか規模はわかると思う」

やがて笛の音が聞こえた。仲間を呼んでいる。

「フィーナ。どうだ?」

「数十は居る。侵入者達は……どうなるのだ? この後」

「対策は香草を塗り込んでるかどうか、だよ。対策出来ていなければ全員死ぬ」

「松明は多少効くようだが……」フィーナは森に棲む蟲など全部知っているのだろう。

「無駄だね。逃げた者だけが生き残る。刺されていればそう長くは走れないし歩けない」

「ご主人! そこまでは知らなかった。強力だな」

「詰まらない魔法だよ。ファイアボールのほうがよっぽど効く」

フィーナが気遣うように見詰める。「そんなことはない。ここから撃ち込んでも居場所を知らせるだけだ」

蟲の犠牲者はやがて痺れたまま卵を産まれ、幼虫を植え付けられて死ぬ。

生きたまま苦痛を味わう。

「全員倒れたらゴブリンに運ばせる。生餌だ。魔物が集まるといいな」

「残酷さでは我は遠く主人に及ばぬようだ。褒めているのだぞ」

「その魔導書を書いた誰かに言ってやって欲しい」

捜索隊が全滅したのは夕刻だった。

「今日はイノシシが捕れましたっ! って言っても罠にかかってたんですけど」

巨体を引きずって来たマリィは疲れ果てていたが、それでも夕食は用意してくれていた。

大鍋で肉を煮てあった。たっぷりの香草が臭みを消している。

癖の強い野草もイノシシには合う。味付けは濃かったがそれでちょうどいい。

「良く捌いたなこんな巨大なの」

「マリィだってやるときはやるんです」

「驚いたよ。美味しい」肉を噛み締めると、固いが味も濃い。

「ボク思ったんだけど、獣が集まって来てるんじゃない? 血の匂いがするから」

「成程如何にも。いずれ熊が来てもおかしくはない」

「鍋に幻覚のキノコが入っているけど、大丈夫なの?」

「一日干せばただの美味しいキノコですから」

しばらく大鍋から取り分けての食事が続く。入りきらなかった分は干し肉にしたらしい。

「こんな生活を望んでいたか? ご主人」

楽しそうにフィーナが言う。フィラスも笑顔で応える。

「人殺しなんかしなくていい。これで充分だし満足してる」

覚悟を決めたようにフィーナが口を開いた。

「明日以降警戒の者は一層の注意を。我も軍を知らない訳ではない。正規兵が来る可能性もある。魔法使いを連れてな。相談をしたい。あまり全滅を繰り返すと……正規兵の場合ここを突き止めるまで幾らでも兵を投入して来る可能性を否めない」フィーナが溜息を吐く。

重い空気がテーブルに漂う。

「全滅など正規軍の沽券に関わると言う訳ですわね」

「そう言う事だ。勝つまで辞めない。負けようが幾らでも動員してくる。我が故郷は……それで滅びた」

正規軍数万。エルフの森は焦土と化した。焼けた森で逃げ惑う一族の姿が消えない。

「それならボクも『隠蔽』を隅々までかけてくるし、『記憶喪失』だって使えるよ? ボクはご主人様と同じ、禁呪使いだからねっ」

高等魔術師でありかつ禁呪使い。無敵だ。

「ボクはねえ。もう森なしには生きていけないんだ。この濃い魔力に身体を浸していないと、たぶんボクは死ぬ。ボクはここを守るよ」

背の紋章が時折光を帯びるのは、森と同化しているせいだろうか。

「建物が焼き滅ぼされようと、私たちには地下迷宮があります」

ラルフィの工事はかなり進んだようだった。

「どうぞご心配なく。水も食糧もあります。何人も侵入を許さない仕掛けもあります」

食卓は作戦会議めいた話題だけになった。

誰もがフィラスの死を避けたい。共に居たい。そう思っているのは分かった。

ただ隠遁して生きたいとしても、フィーナのように森ごと焼き払われることもある。

少しばかり異種だからと言って敵にされてしまう。

フィラスの故郷も焼き尽くされた。善行をしているかどうかなんて関係ない。

生き延びようとしなければ死ぬ。

巨大な城を作り魔物を配備しても、だからこそやって来る勇者もいるだろう。

いつかはそうするとしても、今はこの第二拠点が愛おしかった。

「どんな手を使っても、相手が数万だろうと手玉に取って見せる」

「ご主人、無理は……」

「無理なのは分かっている。それでもここを、仲間を守る」

蟲使い、幻術、催眠術、淫術、人心操作、記憶操作、感情操作、感覚操作、性癖操作……誰でも使えるレベルの禁呪だ。

フィラスにはそれしかない。

「因果律操作、空間操作、時間操作、何でもボクに言ってくれ」

「……頼む」

何のために魔法を学んだか思い出せ。称賛されたかったからか? 違う。どうしようもなく魔導書に惹かれたからだ。それが開いてくれる世界が余りにも素晴らしかったからだ。

何のために光り輝く魔晶を手に入れたか思い出せ。偶然拾ったにせよそれを通して見える世界が素晴らしかったからだ。

同じだ。

世界は光り輝いている。たとえ散り散りに逃げることになってもそれは変わらない。

ごく、瞬間的な光だとしても。

何故魔法使いを目指したのか思い出せ。

一人一人に無限に理由があるだろうが、俺は魔導書に魅せられたからだ。

魔導書はいつでも傍にあった。いつの間にか書棚にあった魔導書を隠して読んだ。

いつ死ぬとしても。壁の燭台の炎を見る。主従まで誓ってくれた者を守り抜ければ後悔はない。三人を見た。マリィを度外視しているわけではないが目の前に居たのだ。

「そ、そんなに見詰められるとボク……いいけどっ」

「違うだろう! いまご主人が見たのは我だろうが」

「勘違いをしている二人は放っておきましょう」

「三人だよ」争いになりそうなので補足した。

「ご主人、いまは……」

「会議中だ」

「三人同時にでもボクはいいよ?」

「会議中だって言ってるだろっ」

誰もが何となく服の布が薄い。一度気になると形良い巨乳ばかりが目に入る。誘惑するような表情のレフィーラの胸の突起が透けて見える。

「ボクにはご主人様は気にしすぎだと思うけど」見られていると気づいたのかレフィーラの胸の突起がさらに膨らむ。

「そういう性格なんだよ」

何であれ簡単に答えが見つからないのに限界まで考えてしまう。死の可能性を見つけてしまう。フィラスの悪癖だった。

「そんなことより、ねえっ」テーブルに上がったレフィーラが胸の谷間を見せながら這うように近づいて来る。猫のようだった。「ボクに任せて。今は少し忘れよう? ね?」

「ご主人、万の軍勢を相手に絶対というのはない。この地に踏み入れようとする者を少しずつ減らしていく方が得策だろう。レフィーラ。何を抜け駆けを」

渓谷を作り一度に渡れる人数を削る。橋をかけるのもいい。地形を変えて一度に一人しか通れなくする、隣国と敵対関係を煽る、一騎打ちを申し出る、地下迷宮を完成させる……。より上位の魔物を呼び出す。悪魔と契約する、シビレバチの巣を仕掛け続ける、忘れ草の草原を作る、地下迷宮は特に有効そうだ。何より相手の数を絞れる。

「んっ」と、唇を塞がれる。「ボクが見えないの? 独り言ばっかり」

「いや……ごめん。上の空だと思うけど、そうだ。抱き締めて、好きにしてくれ」

「んふっ。こうかなぁ。ぎゅっ」

形良い巨乳が胸に柔らかく当たる。温かく包まれる。策の浮かぶ速度が上がる。不安が薄れる。

敵の数を予め減らす。内通者を作る。『誘惑』『魅惑』。龍に匹敵するものを呼び出してそちらに誘導する。誰が味方なのかわからない状態を作り出す。『混乱』。近隣の村を脅して味方に付ける。崖を崩す。『天候操作』。将を狙い切り崩す。補給を絶ち雨の泥濘で閉じ込める。魔力から油を作り浴びせて火矢を放つ。常に地形を変え続ける。毒の霧、毒の沼を通らせる。皮膚を腐らせる毒草も使える。いざとなればバジリスク。ネクロマンシー。死体を操り軍勢を作る。

「そうだ。メモを」

「大丈夫。これだけ触れていれば何を考えているかわかるから。ボクが覚えておくよっ」

レフィーラは思考まで読めるようだった。禁呪だ。それが使えるのならば先に手を打つこともできる。贄。軍勢を贄として与える。巨人族を呼び出す。悪魔も従うだろう。

「悪魔なんか篭絡して見せるわ。ご主人様、怖がらないで」ラルフィが椅子に座ったまま言う。「そこから読めるのかっ?」ラルフィも対抗して思考を読む。

「普段は読んでいません。考えを読むのは得意ですから。逆も、見えてさえいれば」

急に下半身に力が宿る。「あはっ」レフィーラがズボンの紐を緩めて屹立を取り出す。

「何かしたかラルフィ」

「はい」ラルフィが唇を舐める。「『身体操作』です。何度でも精を食らい尽くすには無理にでも勃起させないといけないのです。サキュバスの基本です」

「他にも集団催眠。一つの村程度でしたらいつでも。大軍勢でも切り崩せます。将を、軍師を篭絡するくらいは何でもありません」

「随分と変わった会議になったが、それならば我は千のオオカミを操って見せよう。木は自ら歩き、戦う。巨石を投げ、兵など一薙ぎに吹き飛ばす。竜巻、地割れ、四大が荒れ狂えば確かに精鋭と言えど敵ではない」

「あ……はっ」レフィーラの吸い付く膣壁が屹立を包み込む。抱き付いたまま腰を沈めて、奥にまで届く。

「不安や怒りは、ボクに吐き出して。ね。いつでも」

全方面を守ろうとするから無理がある。深い沼を作り出し人肉を食らうものを放っておけばそこはもう考慮しなくていい。

「地図を書いておこうか? ご主人」

「お前も読めるのか?」

「我はご主人の考えだけだ。普段は封じている。……我の策も書いておく。我も里を滅ぼされてから恐怖が先に立っていた。後は赤の魔女だけだな。近隣で気にしておくべきは」

最強にして最悪の魔女。この地を含む王国の第一の魔法使い。

「フィーナが余計なこと言うから……ボクが、ボクが元気にしてあげるからねっ」

屹立が少し硬さを失ったのを気にしたのだろう。レフィーラが動きを速める。

曲がりくねった一本道でしかこの拠点に辿り着けない。地図は完成した。後でマリィにも教えておかなければならない。近くでも木の実やキノコは幾らでも取れるが。

これから毎日、策を練る。こんな形ではないだろうが、テーブルを挟んで、でもないだろう。誰かが近くに居たほうがずっといい。

「レフィーラ」強く抱いた。

「あっ、ああっ、あっ、嬉しいっ」ビクビクと快感に蠢く膣口が締まった。

「いやっ、あ、ボク、イッちゃ……う」

白濁を受け入れてレフィーラは背を仰け反らせた。「ひゃっ、熱いっ、ん、んあああっ」

次に現れるだろう捜索隊なり正規兵なりを殺す。快楽はない。ただの殺人鬼になる。

「いいよっ」額にキスされる。「ボクもそうなる」

「いや……結果としてそうなるだけだ。好んでなる必要はない」

「ねえ、ボクに秘策があるんだけどぉ」腕を引かれる。

「まだ会議中だろうがっ。我を差し置いて何を?」

「ダメ、まだ秘密。ボクとご主人様の秘密」

地下に続く階段を降りた。

まさかとは思ったが、両手と首を拘束する装置をレフィーラが開く。

革のベルトで動けなくするものだ。

ショートの黒髪が揺れる。ねえ、とねだられる。尻肉を突き出した形になる。

「どうするつもりだ」

拘束する。

「ボクはっ、そのっ」眼鏡をかけた顔が真っ赤になる。「こういうのが……」

「どう秘策なんだ」

「赤い魔法使いは、ボクの姉なんだ」拘束されて苦しそうな声だった。

「とても、ボクじゃ敵わないから家を出た。森で修行した」

「あの一族なのか……」森では最強と言われている理由が分かった気がした。

「大事なのはそこじゃなくて、性癖だよ」

「こ、こう言う事か?」

「うん。お姉ちゃんはこういうのが大好きだ。でも誰にも言えない。ボクにはわかる」

尻肉が震えていた。

「だが、ここに拘束できるのか?」赤い魔法使いはプライドが高い、篭絡されるくらいならば死ぬ、とも聞いている。

「もし攻め入ってきたらお姉ちゃんを説得してみる。こんなものもあるってね」

あり得ない。性癖ごときで陥落するとは思えない。

「ボクが約束する。ここへ連れて来る」

確かに手に入ればこの上もない力だ。……それよりレフィーラが試してみたいんだろう。言っていることが嘘でも構わない。

「まあ、出来れば、な」

小さく震えながら広がる媚肉に指を入れる。一度は達している膣壁は熱く蕩けていた。

「んん、ふううっ」

興奮しているレフィーラの快感に蠢く膣口から、熱い愛液が滴る。石の床に水溜まりを作る。

「出来る……やって見せる。ご主人様の奴隷にして見せる」

「やって見ろ」固くふくらむ亀頭を濡れて開いている淫裂に当てる。肉槍を打ち込む。

「出来るっ」熱い声。拘束されているだけで興奮している。

「無理だ。いや、可能性だけはある」

「ああっ、ああああっ、ボク、溶けるっ」

「自分が拘束されたかっただけだろ」

「ち、違うっ」荒い息。舌が暴れるように覗いた。「らめえっ」

「じゃあ俺がイクまで我慢して見せろ」

「え……あ……」命令に驚いたようだった。

突き出された腰が激しく震える。

「イクな」

「んんんっ、ふうううっ、ふううううんっ」

耐えるのが無理なのは激しく痙攣する膣口で、絶え間なく波打ち始めた膣粘膜で感じる。

「ボクぅ、ボクううっ。ふうっ、ふううっ、あ、あっ」

「耐えろ」

「ボク、おかしく……なるよ?」

さらに抽送を激しくする。

「ああああんっ、あんんっ、んんっ、あああああんっ、嫌っ、イクっ、ダメっ」

「まだだ」

尻肉が赤く腫れるまで叩いた。

「こういうことだろう?」

「あふっ、ああぅ、そうですっ、ボク、もう……」拘束された両腕に力が入る。耐えようとしている。

「まだだ」

「ひっ、ひっ、あふっ、ひっ、ふああっ」涙で顔が濡れていた。涎が滴る。

「あと二分待ってみろ」

絶頂を寸前で止めているのも膣壁の痙攣で分っていた。もう限界だった。

「あああああんっ、ああああっ、イイッ、お願い、もう……」

「ダメだ」

「んんっ、あぐっ、ぐうううっ、ふっ、ふうううっ、ふううううっ」

泡立った愛液が盛んに太腿を伝う。

「イグ、イグっ、イグっ、あっ、あっ、ああっ」

がくっ、とくびれた腰の力が抜けた。気絶したようだった。透明の蜜液が迸る。

窒息しないように拘束を解いた。

確かにレフィーラには効果が覿面だが、これが赤の魔術師に効くとは思えない。

こんな醜態を晒すわけがない。

「こうすることはできます。私の魔力でどこまで出来るかは未知数ですけど」

ラルフィが見ていた。

「悪魔でさえ赤の魔術師の前では子ども扱いですからね。ただ、恐れないで下さいね。恐れれば赤の魔術師には勝ち目はありません」

「勝てるなんて思ってないよ。見逃して欲しいだけだ」

勝てなくても。並び立つ? いや。まるで修行が足りない。レフィーラは身体を張って何かを教えてくれていたのかも知れない。あのくらい自分を壊さなければ。同時に作り上げなければ。

階段を上がると、フィーナを連れて地下に降りた。

何度も行為を重ねた。息を切らせているフィーナを拘束して続けていた。

「んあっ、はっ、ご主人、もう昼だ。思案に耽るのならば、一緒に、幾らでも協力する」

「悪魔なら千年でもこうしているだろう?」

「我が思索の役に立つのならばどうにでも使って欲しい、それは、そうなんだが。あああっ、はあああっ」

「痛みにも弱いようだな」

乗馬用鞭でフィーナの尻肉を叩く。腰が跳ねた。

ぐっ、と吸い付く膣壁が震える。締め付ける。

「か、かはっ、ぐっ、熱いっ、い、イイっ」

緑色の長い髪が床に届きそうだった。

「このくらいの鞭でどうですか? ご主人様」ラルフィが悦楽に満ちた顔で長い革の鞭を振るった。空気を切るパシッという音が地下に木霊する。

「フィーナはこれだけで達すると思います」

「ぐ、愚弄するなっ。淫魔がっ」

「威勢のいい口の割にはだらしない下半身ね。床がぐちょぐちょよ」

その通りに淫汁が滴り飛び散っていた。

「ご主人が愛おしいからだ。何が恥ずかしい。んんっ」

「……イラつくわね。気位ばかりは高いけれど万の軍勢を怖がったのは貴女が最初なのよ」

「ああ。んんっ。ご主人、どうか責め立てないで」

呼吸を整えたフィーナがラルフィを睨んだ。

「賢明であろうとすれば逃げるのも選択肢だろうに。ご主人は戦いに明け暮れる日々ではなく、んっっ、あっ、そこはっ。自身と戦い高める日々を送ろうと……している」

「そんな事を言って年老いて死んだ詩人と暮らした事もあるの。残った詩編は一緒に葬ってあるわよ。霊感の無い人でしたね。今思えば」

幼くも見える外見で、ラルフィは言った。

「実際の戦いを経なければ誰も勇者にはなれない。これが事実よ。水を差してごめんなさいね」

ラルフィが指を鳴らす。それだけで詠唱になるようだった。使い慣れた、『誘惑』。

「感覚魔法も入っています。フィーナは獣になります」

「貴様っ、だから淫魔だとっ。ああっ。ご主人、嬉しい、嬉しいのだが、あああああああっ、狂う、狂ってしまうっ」

「大人しく寵愛を受けて下さいね。貴女が狂えば次を調達するだけですから」

「んあっ。ご主人っ、何も考えられなくっ」ぐるっ、とフィーナは白目を剥いた。

荒い息だけが続く。尻肉が震える。

次々に駒を手に入れ、使い尽くす。その案は振り払った。

結果としてそうなるのは……否定しない。

女勇者、姫騎士、美姫、戦姫。

『淫蕩』、『邪淫』、『淫乱』、『背徳』、『姦淫』魔導書から覚えている限りの魔法を列挙する。試してみるか。

どうせ卑しい魔法使いだ。

甘い声を上げているフィーナに抽送を続ける。「おっ、おああああっ、あああああっ」舌を突き出して半ば狂ったように声を上げている。

絶え間なく達していた。

指先を噛み切って、血で紋章を描く。『淫乱』を組み込んだ。

「ご主人っ、我はっ、今度こそ狂うぞっ、やめて、お願いっ」

「フィーナなら耐えられる」

「確実におかしくなるっ。我は、我はまだご主人の力で居たいっ」

「ならば耐えてくれ。こんな弱い魔法に屈するフィーナじゃない」

その夜は震えているフィーナを抱き締めて寝た。

「恨むぞ。ご主人。こんなに、我はっ。我はっ。今や隷奴ではないかっ」

「大丈夫だ。フィーナ。紋章なら消せる。効果を確かめるのは一晩だけだ」

眠れないフィーナの震えを抑えて、身体を抱き締めていた。

「何かしていなければ狂うっ。ご主人。苛めてくれ。もう限界だ」

ゆっくりとフィーナの身体に触れる。焦れているだろうがあまり刺激すると本当におかしくなる。

早朝、フィーナの紋章を消した。身体からは力が抜けていた。

「うあ、あ」背に触れたときにフィーナが震える。「消さないで。ご主人。もう、奴隷でいい」切なそうに潤んだ瞳で見上げた。

「そうはいかないだろ」

「心まで書き換わってしまったのだぞ。ご主人。…………台無しになってもいい。フィーナはもう居ないと思って欲しい」震える声だった。

「治るさ。俺が治す。勝手なことをしておいて、ごめんな」

そう言い訳にもなっていない言葉をかけて、フィーナがどこまで、一時的にしても魔力を失っているか見ようと思っていた。もし効果があるのなら、赤の魔法使いに使っても全くの無意味でもないのだろう。

フィラスにとっては、自分の実力通りに下らない者として赤の魔法使いが無視してくれる、というのが最良の展開だったが。

フィーナには悪いが、幾重にも重ね、隠した呪印、紋、肉への印はたとえ自分が描いても効果がある。それだけで小躍りしたい気分だった。フィーナで実験したのは最悪だが。大体、どうやってそんなものを赤の魔法使いに描くのか。むしろ卑屈に逃げ回ったほうがよほど意味がある。

最強の魔法使いを想定していつまでも時間を無駄にするのも三人に、マリィを入れて四人に申し訳ない。来たら、とその後を想定しておくに留める。赤の魔法使いの最強の術が破壊するものは諦める。敵意も諦める。そのうえで平謝りしてお引き取り願うのが筋だが、さらに踏み込んで来るようなら、考えたくもないが万策を尽くす。既に幾つかは実現できている。

魔法対抗力は世界最高だろう。だからこそただの落とし穴を使う。

張り巡らせた迷宮に落とす。

どんな仕掛けであれ全部破壊するだろうが、呼び出した、あるいは勝手に主している魔物と戦ってくれれば時間は稼げる。

後は逃げる。どこまでも逃げる。それでいい。淫らな紋章だの調教だのは万一万々一の行幸があれば、だ。そもそも自分が崇敬している相手に何も出来るはずがない。

最終目標だ。卑しい魔法使いに届く相手ではない。

そこまで思いを告げて、今朝踏み込んで来た正規兵の報告を聞く。

「まるで赤の魔法使いを待っているみたいですねぇ」

「ボクの姉だよ? ボクが対等に勝負して見せる」

「ご主人、ご主人! いや、落ち着かなければ。ご主人……我は戦力外と思ってくれ」

「フィーナ。大丈夫? ボクが相手するよ。今日の正規兵は」

「頼む。今はただ……ご主人の指先の感覚しか思い出せない。あれは熱かった」

「狡いな。ボクもっ」

「止めておけ。立ち直るのに数日はかかる。我は今は魔法使いではない」

正規兵は驚くほど正確に測地を始めた。森の奥に慣れている。犠牲を出しても士気に乱れは無かった。

このままでは拠点が明らかになるのは時間の問題だった。

地図が刻々と作られていく。

「ご主人様、勝手に動いて宜しいでしょうか?」焦れたラルフィが動いた。

「『混乱』、『記憶喪失』」生贄の必要な魔法を詠唱する。地下でイノシシが死んでいるだろう。術の強化には人間が必要だが、代用に罠にかかった獣を使った。

諍いを始めた兵士を見て、ふぅ、とラルフィが安堵する。

「これで重ねて贄を与えられます。地下に行って参ります。あれを絶命させるには悪魔以上の召喚が必要ですから。以上というのは堕神、外なるものを含みます」

「ど、どんな? ものだ?」ラルフィの真剣な表情に飲まれる。

「ご主人様の教科書、いいえ、魔導書には含まれていません。いずれお教えします。ニャルラトホテプ、クトゥグア、クトゥルフ、バエル、パイモン、アスモダイ、あらゆるデミウルゴス、高等なキメラ。幾らでも」

圧倒された。ラルフィには及ばない。

「キメラから呼んで、ここを壊されない程度に留めておきます」

「召喚魔法はボクの専門だぞ?」

「では一緒にどうぞ。間違えれば命はないので控えに居て下さい」

「いざという時に役に立たなくて済まない。ご主人」フィーナがテーブルに長い緑の髪を垂らして倒れていた。

「これでも負けるのか」赤の魔法使いを思い浮かべていた。

「そう思えばそうです。ご主人。んっっ。覚醒しないと」

「悪かったよ。フィーナ」

絶叫に、外を見る。兵士の群れに、見たこともない魔物が襲い掛かっていた。

「ふふっ。ご主人。どうですか? 戦況は」

「間違いなく勝つ。相手は全滅する」

「そうですか。では我は……いま眠れというのは死に匹敵しますね。ですが、眠い」

「フィーナ……」

「蘇らせてみてください。我は毫も、夢にも主人を恨んでなど居ません」

「おい、何故だ?」力のない身体を揺さぶる。

「我は魔法生物にして、魔法無しには生きる術なし。ご理解頂けたでしょうか。ご主人」

「じゃ抵抗しろっ、俺なんかに従うなっ。訳も分からないでやったことで……」

「ふふ。私が今さら惜しいですか?」

惜しいなんてものじゃない。死んだら自分が持たない。

自分が?

結局、自分の事しか考えられないのが俺か?

「自問してる場合じゃない。起きないと許さないっ」

「もう命令からは自由なようです。ご主人。楽しかった。この上なく楽しかった」

フィーナの目が閉じる。呼吸音が止まったように思えた。

微笑んでいるフィーナの顔には涙が一筋流れていた。

そんな、馬鹿な。

戯れで刻んだ刻印が命を奪うのなら。

何故抵抗しなかった。いや、抵抗出来なかったのだろう。自分を呪った。

しん、と部屋が静まり返る。

「ラルフィ! レフィーラ! 聞こえてたらフィーナを助けてくれ!」全力で叫んだ。

戦況は頭から飛んでいた。

「エルフがそう簡単に死にますか?」ラルフィが窓から入って来た。

「何でもいいから助けてくれっ」

「背中に生命樹で如何でしょう? あまり過激な魔法を試すのは止めて下さいね」

このままでは自分が壊れそうだった。自分、自分、結局卑しい魔法使いだ。

「前線は壊滅しました。ふん。ボク頑張ったよ?」レフィーラが二階に戻ってくる。

「そうか」

「もっと褒めてよぅ。結構大変だったんだから。キメラの制御」

「……そうだな」

「もう。いいよ。後で褒めてくれれば。フィーナのことで頭がいっぱいなんでしょ?」

魔境。踏み入れば死ぬ場所。本当にそんな場所が自分の生活に相応しいのか?

冒険者の誰が険を冒すことに臆する?

自分が小物だと心の奥から痛感する。

「呼んだのは誰だ。叩き潰す」

一階から声が響いた。

槍を抜け鎌を抜け落とし穴にはひっかかったが昇ってくる。やがて二階にかつかつと足音が響いた。

「ここか。ウチの精鋭をぶっ殺した自称魔法使いのバカが棲んでるのは」

ドアを足で破って赤の魔法使いが踏み込んで来る。

「……つっ、勝負」構えたレフィーラが赤の魔法使いの片手で吹き飛ばされる。手の振りだけで詠唱を終えていた。

「話にならないわ」ラルフィが手を広げる。容赦なくラルフィも壁をぶち抜いて殴り飛ばされた。

「お前か。強欲変態対人恐怖症クズゴミ寄生虫は」部屋にはフィラスしか残っていない。

額で殺されそうに頭を近づけられる。

思っていた通り、美麗だった。そして死の予感しかなかった。

深窓で憂いているのも似合いそうな顔だったけれど、牙を剥きだしてフィラスに向き合っていた。どこまでも深紅だ。赤が視界を圧倒する。

「案外フェアな勝負が好きなんだぜ。あたしは」

「誰にも手を出すな。殺すのは俺だけにしてくれ」

「ははははっはっはっはっはっはっ、いや笑い足りねえ。はははははははははははははははっ、いやこれでも足りねえ。紙幅全部笑ってやる。なんだその死ぬのが前提みたいなゴミらしいセリフはよ。ああ笑い足りねえ。震えるならそれらしいセリフ練れよ。ああ、あたしはこんな酷い台詞は言わないか」

何かを言っていい相手だとは思えない。

「黙るのか? 最後だってのに」

「お、」

「お?」

「お前を最初に見た時からずっと魅せられて他の何も見えなかったんだよ!」ああ、ダメだ。「……それだけだ」魔法を目指したのも魔境を作ろうとしたのも全部その為だ。憧れていた。最強の魔法使いに。

「へえ、それに免じてこっから四百字くらい戦ってやろうか?」

「いいよ。俺は、死んだ。以上だ」

「じゃ死ね。四文字で済んだな」

不意に耳が聞こえず目が見えず何も感じなくなる。圧倒的な赤以外は感じない。

死んだのだ。

そう確信できた。死後の世界なんか知りはしない。暗転した。

祭壇で祈る声が聞こえる。

「どうかフィラス様を今世に。全身全霊で懇願致します」青い髪のラルフィ。

「ボクは役目を果たせなかった。ねえ、ボクはどうなってもいいからお願いだから蘇って」レフィーラ。眼鏡は外していない。

「我が主人よ。力の足りぬ日だった。だから全霊で懇請する。甦れ」緑の髪のフィーナ。

「マリィは何もできませんでした。どうかお許しを」金髪のマリィ。

「いやちょっと蹴っただけだよ。仮死状態って知らねえか? この世に甦りなんかないぞ」……深紅。赤の魔法使いが現れていた。

俺は――俺だったものは祭壇から立ち上がる。

「フィラス!」ラルフィがレフィーラがフィーナが、マリィが駆け寄る。

「ああ。俺は生きてるのかな」

四人が身体に縋る。赤の魔法使いは手を振って出ていった。

「敵でさえなかったぜ!」と言い残した。

「どれだけ死んでた?」仮死状態? 死んでいたんだろう?

「三日だよ。ボク数えたもん。お姉ちゃんはしばらく来ないって。安心して」

いや、いつかは。卑しい魔法使いとして勝負する。

勝負にさえならなかった今回は、一生反省する。

「魔境は? 無事か?」

「何ともない。ご主人。一度死んだ者が支配する魔境。響きがいいではないか」

ただ一度の物理攻撃で死んだ。

一生残る悔恨だ。

「続けるぞ。すぐに。どうせまた兵が来る」

「少しは感慨に浸らせろご主人」

「そんな時間はどこにもないんだよ! 俺は明日死ぬかもしれない」

「これはネクロマンシーではないので、何とも言いかねます。礼は……赤の魔法使いに」

「また殺しに来るだけだろうが」生き返らせて殺すのか。

蘇った。死は近い。敵はいま去っていった。また来るだろう。

理想の魔境を作り出すまでは長くかかりそうだった。

覚悟を決めろ。仮死だか死だか知らないが生まれ変われ。

罠なんかでは赤の魔法使いを倒すことは無理だったのに何を入念に準備していた。恥じろ。

「本国の王家の篭絡を始める。ラルフィ。頼んだ。森の罠は手を入れてくれ。フィーナ。ラルフィと組んで王家を手に入れる。街は窮屈だろうが頼む。レフィーラ」

「ここはどうするんだご主人。街でも目に付くぞ」

「目の当たりに見た。あれが王宮で光に当たって忙しく動いている者の力だ。隠遁していては絶対に敵わない」

「力を付けるのが先だろう。ご主人。我が力を貸す」

「何もかも急いで行かなければ結果は出ない」

と言っても赤の魔法使いは雨のように降らせた隕石の下敷きにしても死にそうにない。

そもそも倒せない。

強さが別世界だ。

「焦りすぎです。ご主人様。赤の魔法使いの仇敵にでも成りたいのですか?」

「そうじゃない」語気が荒いのは止めようがない。

「では知りうる限り最強の者に相談しましょう」

「そんな者居るのか?」

「白銀の女帝。世界を統べる者に」

確かに浮足立っていた。慌てていた。反省すべきだ。

残された時間で、じっくりと。相反するが仕方がない。

面会の約束は意外に早く取れた。

遠征の間の小事は無視した。小事に関わりすぎた。

王宮に通されたのは初めてだった。

「魔術顧問、というのが今の私の仮の姿です」

女王然とした魔法使いは隙の無い凛とした姿だった。

「まあ、すぐに淵の街に帰りますが。これも一時的政治の擾乱です」

白銀の長い髪が歩みと共に揺れる。

「して、何がお望み? 強くなりたい? ならば努力しなさい。多少のチートは用意できますが」

「これ以上、負けるわけにはいかない」

宝玉を転がしたような笑い声が響いた。

「無理でしょう。負けるのが怖いような者に伝える言葉はありません。失敗しなさい。数限りなく。寿命がネックですが所詮は運命だと思って」

「俺は……」

「寿命には勝てません。足掻いて戦い続けて下さい。他に言う事はありません。折角ですから、精一杯の『祝福』を。これ以上出来ることはありません」

肩を落として王宮を出た。

白銀の最強の顔、涼やかな声。決して愚弄しているわけではない言葉。

いつまでも残るような香しい佇まい。

当たり前だがどれも自分にはない。

「はぁ」庭園でベンチに腰を降ろして、残された時間を考えた。

「ねえ、ねえっ! ボクが話つけてきたよっ!」レフィーラが隣に座る。

「話って……赤い魔女?」

「もう、そればっかりだよね。でも、そう。もう興味ないって。どうでもいいって。ボク、不干渉の約束を取り付けて来たよっ」

信じられなかった。王国に不浄の場所を残すと言っているようなものだ。

滅ぼす気になればいつでも滅ぼせるというのに。

「この先が楽しみなんだって」レフィーラが笑う。

気まぐれか。本気ではないだろう。足掻く姿を見たいのだろうか。

「兵は時々派遣するから気を付けろってさ」

「オモチャかよ。俺は。死なない程度に弄ぶつもりか。いや、本人が遊ぶには値しないってことだ」

魔境か。精々死ぬまでの僅かな――どの程度かは不明だが――時間をそこで過ごせってことだろう。

「これで、も、もう心配ないよねっ。ボクたち」

ショートヘアを撫でる。「凄い約束を取り付けてきたよ。素晴らしい」

実際そうだ。とても自分ではそんな交渉は出来ない。単に呆れてこれ以上関わりたくないのかも知れないが。

「えへっ」髪を撫でられたレフィーラが微笑む。

憂いのない生活が送れそうだった。しばらくの間だとしても。

王都から帰途を急いだ。

魔境は兵士の死体で陰惨さを増していた。第二拠点二階へと上がる。

「ボクはこういうのがとっても久しぶりな気がする」

ソファーに座っていたフィラスにレフィーラが抱き付く。

「ここも元気で良かったっ」下履きに手を入れると、肉槍を器用に取り出す。

「慰労をしたらどうだ。ご主人も気苦労が多かったのだぞ」フィーナが横目で見る。咎めはしない。

「これが歓迎の気持ちなのっ」

竿を舌で舐め上げる。固くふくらむ亀頭を口に含んだ。鈴口を丁寧に舐める。

「ん、んふっ、美味しい」

亀頭から漏れ出る液も頬を赤らめて舐め取る。

「こ、こんな事も出来るよっ」ぐっ、と口が根元まで吸い込んだ。「んぐ、ぐっ、げほっ」喉の奥まで屹立が当たる。涙を目に溜めながら、レフィーラは喉奥で屹立を刺激し続ける。

「どこで覚えたんだよ」

「やり方はラルフィさんから……気持ちいい?」

「ああ」

時折咳き込みながらレフィーラの奉仕が続いた。「んぶっ、ごほっ、んぶっ、んんっ」

まるで喉奥で感じているように、表情が蕩けていく。

「ご主人様がイキそうになると、それだけでボクも頭が真っ白になるんだ」

「イクぞ」「んんっ、んん、ご、ごきゅっ、ごきゅっ、んん、ごくっ」

最後まで飲み干したレフィーラがさらに尿道から残りを吸い出す。

「んんんん、じゅっ、れろっ、ふっ、んん」

レフィーラのショートの髪を撫でる。顔を上げたレフィーラが眼鏡を直す。上気した顔だった。潤んだ瞳がとろんと見つめてくる。

フィーナは見張りに屋根の上に上がったようだった。

廃墟作りと、仮の第三拠点を作っているのはラルフィだ。

「き、今日は、ボクにたっぷり、ね?」

「いいよ。少しはのんびりできそうだ」

罠だけで対応するのは無理だった。もう最強の魔法使いを気にしなくていいようだったが、強者が全て無視してくれるわけではない。だが、結果として宮廷と交渉は出来た。次があるとすればまた交渉を考えるべきだろう。

「また考え事? ちょっとはボクたちに任せてよ」

「赤い魔法使いの件は任せっきりだったけどな。今度来たらバラバラにされるかもな。二度も復活されたら気分が悪いだろう」

「絶対、来させないから」決然とレフィーラが言う。

「ああ、考えすぎないようにするよ」

「ボクが忘れさせてあげる」レフィーラがフィラスの身体に巻き付くように抱く。

「……ああ」窓の外が気になった。気配があればフィーナが知らせるだろうが……。

臆病になっているのかも知れない。

魔境の王らしい振る舞いはとても今は出来ない。いや。今後も。

「今日はなんか冷たいよ。フィラス」レフィーラが寂しそうに、フィラスを気遣うように腰を腕で囲む。

「旅の疲れかな」

「じゃ、じゃあ強壮の実と肉でスープ作ってくるから。待っててね」レフィーラが廊下に出る。

短いスカートを翻して調理場に向かった。

気を使って貰ってばかりだ。四人が居ない日々を考えられない。

魔王然と振舞うのは無理だとして、いざという時の決断力、行動力くらいは磨いておかなければならない。

そういえばいつの間にレフィーラは肩を出した服にしたのだろう。森は一年を通してそれほど温度も湿度も変わらない。肌寒いくらいが標準だ。

朝晩は暖炉を焚く日もある。

服装として綺麗だとは思うが。

戻ってきたら聞こう。そう思った時に、屋根の上でからん、と乾いた木の音がした。

窓辺に走る。木槌で一度、木の板を叩く。

「小規模の兵の集団です」器用に窓を伝ってフィーナが部屋に戻る。

「警戒とこちらへの牽制が主目的かと。ご主人、如何する?」

「こちらの場所は……赤の魔法使いが喋っていれば知れ渡っているな」

演技でなければ兵士たちは道に迷っているようだった。

殺してしまうかどうかさえ、決断がつかない。蛮勇を振るえない惨めな者になった。

見て取ったか、「放置しておくか? ご主人。どうせ害にはならない」そうフィーナが言う。

フィーナは窓に肘をついて、兵士を眺めていた。

「あれらにもかけがえのない生があり、家族もいる。おおかたそんな事を考えているのだろう。ご主人」

「……そうだな」

窮地に追い込まれ半殺しにあってからそんな事を考えるようになった。究極の魔法使いになる。その夢こそ捨ててはいないけれども。

「恐ろしくない魔境に意味はあるのか? ご主人」

すっ、と窓に背を向けて振り向いたフィーナが緑の瞳で見詰める。

「宿でも始めるか?」面白くもない冗談だったが、フィーナが小さく笑う。

「向いているかも知れないな。我は大勢の相手は御免だが。ラルフィならば何人でも『相手』するだろうな。いや、下卑た話で済まない」

脚を高く上げてフィラスの肩にかけると、引き寄せる。

「我も大概だが、相手はご主人だけだ」

フィーナは下着をつけていない。引き寄せられると自然に媚肉に指が触れる。濡れていた。

「あの兵の相手をしないのなら、時間はあるだろう? ご主人」

唇を舐めて、フィラスに長いキスをした。

「屋根の上でずっと火照っていた。見張りはやはり寂しいものだな」

どたどたと廊下を走る音がする。

「はーい出来ましたよご主人様! 特製の精力たっぷりの『強壮』の実と肉入りスープです! ボクこれでも料理は練習したんだから」

ふん、と詰まらなそうにフィーナが隣室を睨む。

「先約があったなら一緒にでもいいぞ。我は。レフィーラとはその、若干趣味が合うからな」

ご主人様? とレフィーラが探していた。

「ここだ。すぐ行く」

隣室に入る。フィーナが続いた。

「……なんかしてたでしょ!」料理をテーブルに置くと、レフィーラが怪しむように半目で見る。

「ご主人とキスしていただけだ。何か問題でもあるのか?」

「見張りはどうしたんだよっ」

「見逃すことにした。よって我は非番だ。愛を確かめて何が悪い」

「ご主人様は疲れてるの! だからボクがスープを作ってきたの!」

「そうか。ご苦労。では召し上がれ。ご主人」

「作ったのはボク!」

いつもよりちょっと多めにしたから。レフィーラの表現は控えめ過ぎた。大量の『強壮』の実が入っていた。隠し味というか『感覚』の木の実も細かく砕いて入っている。食べていて身体が熱い。

「俺に何をさせようと言うんだ?」

「あのほら疲れてるみたいだからっ」

「こんなには要らない」森を走り回れそうだった。

レフィーラはお仕置きで両手両足を広げた枷に固定した。「こんなっ、恥ずかしいっ、ボク」地下の空気はいつもどこか淫蕩だ。両手と首だけを固定したフィーナが「な、何故我もっ」と抗議しているが本気で抗議はしていないので続ける。

大の字になっているレフィーラの媚肉が既に小さく震えていた。透明の蜜液が溢れている。

「お仕置きにはなってないな」快感に蠢く膣口を指で掻きまわす。

「やっ、やあっ、ああっ、あんんん」

そのまま屹立をゆっくりと入れる。濡れ蕩けた膣壁はすんなりと受け入れる。

「あっ、あうっ、はっ、イイッ」

固定した手足が軋む。きつく膣壁が収縮した。軽く達したようだった。

放置されているフィーナも、太腿を透明の蜜液が伝っていた。

「いきなり入れるぞ」

「待って、うっ、あああっ、ああああっ」

激しく抽送を続ける。

「いつもより、激しいな……ご主人」

「誰かの特製スープのせいだ」

仕返しにレフィーラには『感覚』の実を食べさせた。レフィーラの口から涎が零れる。

何もしていないのに細かく震えていた。まださっきの絶頂の余韻が残っている。

真っ赤に顔を染めているが、次第に視線が定まらなくなってくる。

「ご主人様ぁ……ボクっ。ボクもう我慢ができないっ」

「お盛んですね。地下にバジリスクを閉じ込めたところです」小柄なサキュバス、ラルフィが土に汚れた顔を見せる。

このところずっと地下に籠ってダンジョンを仕上げていた。

「いつもすまない」フィラスはラルフィを慰労するつもりで言った。軽い言葉だったが。

「半分は趣味ですから。お構いなく。レフィーラを放っておくと後で泣き言を言われそうですね」ラルフィは意地の悪い半眼でレフィーラを見る。

「所詮は私は卑しい淫魔ですから。どうぞ。これを」

何かをレフィーラの秘所に押し込んだ。

「何っ、これっ。ああっ、ひゃふっ、イヤあっ」潜り込んでいく感覚にレフィーラがショートの髪を振り乱す。確実に膣壁を奥に向かって進む。硬く膨れ上がる。

「無害な淫虫です。暴れまわった後は自然に出ていきますよ。フィーナさんは?」

「蟲などに用はない。つくづく下劣な女だな。貴様は」フィーナが嫌悪を露わにする。

「ええそうですとも。サキュバスですから。この虫は私のペットですよ」

気にする様子もなくラルフィは微笑む。

ペットの淫虫からは危険な能力は殺してある。狂うほど性感を上げるとか、そういうことだ。狂うほどではないが性感は耐えられないほどには上がる。

勿論、そんな措置はしていない危険なものも召喚できる。元々はシビレバチのように失神させて卵を産み付けるのが習性なのだ。

托卵された者は十日程度続く快楽の絶頂のまま死ぬ。自慰を止められない。人によっては快楽は数年続く。産まれた無数の蟲が子宮から濡れ蕩けた膣壁まで快楽を与える。

あえてこの虫を求め森に入る者だっている。一瞬の途切れもなく絶頂が襲うのだ。死と引き換えだろうと手に入れたい者はいる。大抵は快楽のあまりに食事も摂れず餓死する。

どんな快楽が訪れるのかはラルフィも知っている。全身の痙攣が止まらなかった。視線は定まらず、いっそ死んでしまおうかとさえ思った。

だが魔物として――味わうだけ味わって蟲を無害なものに変えた。

(この蟲は、私と同じものよ)

ラルフィは声には出さずにただ微笑する。

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卑しい魔法使い 歌川裕樹 @HirokiUtagawa

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