イーブレイバー ~働かざる者たちの黙示録~
五五五
プロローグ
――トニー兄さんは僕の最高の憧れだ。
「ははははっ、レイバーにはかなわないな。それ、もういっちょ!」
兄さんは毎日のように遊んでくれた。
ガネットの家に両親はいない。
父さんは僕が生まれてすぐに、どこか遠くの国に研究者として行ったきり、ずっと帰ってこなかった。
行方不明の父さんを探して、母さんも旅に出てしまった。
だから、大切なことはぜんぶ、兄さんから学んだ。
「ダメだよ、兄さん。ボクには無理だよ……」
「そんなことはないさ。レイバーなら何でもできる! だって、兄さんの自慢の弟だからな」
――いつも笑顔で、強くて、やさしくて真面目な兄さん。
「レイバー、いいか」
「え、なに?」
「〈働く〉って言葉は、働くことでしか味わえない充実感を知るためにあるんだ」
「充実感って……兄さんの話は難しくてボクには分からないよ」
笑みを浮かべて、彼はレイバーの頭を手でクシャクシャにする。
「いいかい、レイバー。お前のために働くだけで、俺は十分満たされている。でも、勇者って仕事は、みんなの期待に応えることが大事なんだよ。いつも憧れられる存在、それが勇者だ」
――俺は勇者として働き、大切な価値観を全力で守る。自分の物語をつかむ!
十四才で勇者幼年学校・星飛沫〈ギルロス〉を首席で卒業し、周囲の期待を一身に受け、故郷を旅立つ兄さん。
僕は村の入口で、どんどん遠くに行ってしまう兄に、いつまでも手を振り続けた。
「ボク泣かないよ。ボクも強くなって、兄さんが憧れる勇者になるんだ!」
兄がいなくなって四年後、僕にもついに旅立ちの瞬間が訪れようとしていた――
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