センスが無くてかなり落ち込んでいる俺の従妹を、異世界でエンスタ映えさせてやりたいッ!!

あさかん

プロローグ「そりゃ映えねえわ」


 家の畑で採れた野菜を軽トラに積んだ俺は、叔父さん夫婦の家へと運ぶ。


 俺がこちらの世界日本で他人と付き合いがあると言えば、この一家だけだ。元々人付き合いが億劫な性格でもあるし、実の両親でさえ『せっかく一流大学に入れてやったのに、大企業に入った途端すぐ辞めちまいやがったバカ息子』呼ばわりするので最近は距離を置いている。


 それに比べ、ここの家族は人が良い。


 俺のパーソナルスペースにいちいち入ってこないし、会社を辞めた時も『政人まさとに合わねえなら、そりゃ仕方ねえよ!』とガッハッハと叔父さんが豪快に笑うだけだった。


 なにより、俺の作った野菜を旨い旨いと喜んでくれる。


 だから今日もこのように野菜を持ってきてやったのさ。



「あらあら、いつも悪いわねー」


「まあ、独り身の俺じゃ食いきれないからな」


 ダンボール一杯の野菜をドンと渡してもビクともしない叔母さんはかなりの逞しさだ。


 俺はキョロキョロと辺りを見回す。


 いつもこの家にやってくるとパタパタと駆け寄ってくるやんちゃ娘の姿が見えない。


「あれ?志乃しのは居ねえの」


「あー、あの子ねぇ……珍しくいっちょ前に部屋で何か悩みこんでいるみたいなのよ。政ちゃんちょっと覗いてあげてくれない?どうせご飯も食べてくでしょ」


 そりゃもちろん。


 飯の対価と言われれば断ることは出来ない。この世は常に等価交換でなりたっているのだからな。


 あいつも今年から女子高生だ、生意気にも悩みのひとつでも覚えたか。 


 俺は二階へ駆け上がると、ノックも無しに志乃の部屋へ突入する。


 

 すると、奴は勉強机でスマホを両手に持ちシクシクと泣いていた。


「なんだ、お前泣いてんのか?」


 声を掛けると、ビクッと身体を震わせ振り返る志乃。


「まーさー兄ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 全然シクシクしていなかった。ガン泣きだった。


「どうした、どうした、おい」


「一緒にいる女子グループの子たちに『アンタ全然エンスタ映えしてないわー』って馬鹿にされちゃったよーーーーーーー!!」


 エンスタ映え。


 今や女子高生のステータスのひとつ。


 Entertainmentエンターテインメント Standスタンド Telegramテリグラム、通称エンスタは写真や動画のUPに特化した芸能人や若者を中心に大流行しているSNSだ。そして他人の目を引くような良いショットのことを『エンスタ映え』と言い、若者たちはそのSNSで人気を得るべく、常にエンスタ映えをする被写体を探しているのだ。


 他人のことなどまるで興味が無い俺にとっては、そんなもの奇行にしか思えないのだが……


 つまり、それを馬鹿にされたということはこいつにそのセンスが無いというわけだ。


「どれ、見せてみろ」


 志乃は嫌々ながらも、俺にスマホを差し出す。



 なんだこりゃ!!


 最初に目が付いたのは近所の公園にうろついている野良犬の写真だった。


「ブン太だよぅ」


 いや、野良犬なのは違いねえから。


 エンスタのセンスどころかネーミングセンスまで皆無だった。


「ち、ちなみに次のこの写真は?」


「あー、これはだるま食堂の肉野菜炒め定食だね」


 せめて、カフェのスィーツとかにしろよ!


 しかも、めっちゃブレてるし。


 指先でスクロールするも、次から次へと現れるセンスの欠片もない写真の数々。



 被写体にしろ、場所にしろ、撮り方にしろ、誉めるところが一つも見つからなかった。




「……………そりゃ、映えねえわ」



 

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