第15話 理由・1
ハルトさんの様子がおかしくなったあの夜から、 少しだけど変化があった。
ハルトさんの視線が優しくなった。
時々戸惑っているのか瞳が揺れている時があるけれど。
それと、私からハルトさんの腕を触ったりは出来るようになったのだけれど一定の距離を感じる。
その時は理由が判らなかった。
そんな事があってしばらくして、相変わらずハルトさんと鳴海先生は仲が良かった。
でも、私の胸に棘が刺さる様な事はもう無かった。
私が不安になりそうな事はハルトさんが全て教えてくれたから。
教えてくれたじゃなくて私の前で2人の事を話してくれたの方が正しいかも。
鳴海先生とは古い仲間で闇の世界を司る3つの種族の末裔である事。
そして鳴海先生は水に係わる者を守護し時には制圧する一族だと言う事。
「何で、ハルトさんじゃ駄目なんですか?」
「姫、ヴァンプの俺達は水が苦手なのだ」
「えっ? あ、なんか本で読んだ気がする。でもそれじゃ、鳴海先生は何で陸上に居るんですか?」
「飽きちゃったからかしらね。水の中も陸の上も平和な事には変わりないのだけれど、人と係わっていると楽しいから」
「なんだかハルトさんとは真逆の答えみたい」
「シュヴァリェは堅物だからね」
「シュヴァリェって意味があるのですか?」
「ナイトつまり騎士ね。愛する者を守る為のナイト、私も守って欲しいなぁ」
「水蘭のお眼鏡に敵う奴など居るのか?」
鳴海先生がハルトさんに向って思いっきり舌をだしてアッカンベーをしている。
こうしていると人もそうでない者もお婆ちゃんが言うとおり、同じ世界に生きていれば人も何も関係無い気がしていた。
「それじゃ、もう1つの種族ってどんな人なんですか?」
「…………」
「…………」
私の質問に2人は黙ってしまった。変な質問だったかなぁ?
「もう1つの種族は竜の一族だ」
「竜? 伝説の?」
「俺らだって伝説上の生き物みたいなものだろう。まぁ俺らと違い神に近い存在と言っていいかな。大昔は見かけたと聞くが今は見る事も無いな。まぁ、あいつらが出てきたら大騒ぎになるからな」
「それって大きいからですか?」
「大きさなんて関係ない。奴らの力は強大なんだ、だから一度何かあれば大騒ぎになるんだよ。こんな島なら跡形無く消し飛ぶだろうな」
「うぅ……本当に伝説みたい。それじゃ何で大上先生はハルトさんの事を嫌っているんですか?」
「それは、昔からの因縁でヴァンプと人狼は仲が悪いんだ。ただそれだけだよ」
「本当かな? それだけじゃない気がするんだけどなぁ」
その時、鳴海先生のハルトさんを見る目が寂しそうな感じが一瞬だけした。
「いろいろあったからな」
ハルトさんが学校に馴染みはじめると私の周りにも変化が見られた。
今までイジメや嫌がらせをしていた華保のグループからは、ハルトさんが来てから無視はされるけれど何もされなかった。
そしてお喋りが出来る友達が増えてきた。
友達が増えたのと同じように男の子とも話す機会が増えてきていた。
でもそれは主に鳴海先生の事だった。
最近、親しくなった友達は紺野奈々枝こんのななえちゃんに神童しんどうミコちゃんの2人、奈々枝ちゃんは背も高くってお洒落さんで長い黒髪が素敵で物怖じしないで何でもはっきり喋る女の子。
そしてミコちゃんはおっとりしているけれどいつも笑顔でショートボブの似合う可愛いらしい女の子なんだ。
2人とも私の事は気になっていたけど華保や取り巻きが怖くって話しかける事が出来なかったんだって。
そして、2人ともハルトさんの事が大好きみたい。
でもその大好きも恋愛とかじゃなくて憧れみたいな感じなのをお喋りしていると感じるの何でだろう。
そんな事が日常になりかけたある日、それは起こってしまった。
いつもの放課後、雪乃ちゃんは部活へ向い私と奈々枝ちゃんとミコちゃんの3人で2階の廊下を歩いていた。
すると他のクラスの教室から数人の男子が飛び出してきた。
「やっと、捕まえた。なぁなぁ月城と鳴海先生って付き合っているのか?」
「ただの友達だよ」
私は後ずさりをしながら答える。
奈々枝ちゃんとミコちゃんは怖がって近づいてこれないみたいだった。
「そんな筈ないだろ、あんなに仲がいいのに」
「私に聞いてもそれ以上の事は知らない。直接聞いてみて」
「直接聞けないから、お前みたいな女に聞いてるんだろ!」
そう言いながら男子生徒が私に向って歩きながら私の肩を小突いた。
私は後ずさりしていたので、小突かれた拍子に躓く様に勢い良く開けられて2重になった廊下の窓ガラスに背中をぶつけた。
何が起きたのか判らなかった。
背中にぶつかった窓ガラスがガタンと音を立てて下にずれていく。
そして体が空中に放りだされた。
日差しが弱まった青い空と薄いオレンジ色の雲が見える。
浮遊感が無くなり背中に衝撃を受けた瞬間、背中に温かい物が流れている感覚が伝わった。
そして奈々枝ちゃんとミコちゃんが何かを叫びながら私を見ていたけれどその声は聞こえなかった。
ぼんやりする意識の中で私を呼ぶ声が聞こえる。
そしてハルトさんの苦痛に歪む顔が見えた。
「あれ? どうしたのハルトさん。そんな顔をして。そんな顔をしないで」
すると胸の辺りから何かが抜けると口の中から何かがあふれ出した。
手で触れると生暖かい、顔の前に翳した手は真っ赤だった。
「なんで、血が出てるんだろう」
体から力が抜ける。
ハルトさんを見ると右手に刀の様な持っていた。そこで意識が途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます