第11話 ss日曜日(初登校前日)

俺は姫の通う水乃瀬高校に来ていた。

理由は至極簡単だった。

この高校には結界が張られていたからだ。


通常、結界を張ると言うことは何か邪悪な者から守る為か結界の中にあるものを外には漏らさないようにする為だ。そして、どちらか調べる為に俺はあえて先日結界に触れてみた。

すると難なく結界の中に入れそこで姫の友達・氷室雪乃に出会い、そして彼女以外の気配や匂いにも気が付いた。



確信を持って校内を歩き回っていた。

日曜日と言う事もあり生徒も居ない、それでもどこからか見られている見られていると言うかこちらの出方を伺っているのだろう。

とりあえず気配のする理事長室に向う。

すると奴はいた。

一つ目の巨人が? 

怯えながら棍棒の様な物を持って……


「お前はサイクロプスなのか?」


「は、はい」


「本当に?」


巨人とは言いがたい体格に拍子抜けしてしまった。

一応これでも下級ではあるがその昔は神と言われた者の成れの果てだった。


「お前が結界を張れる訳ないな」


「はぁ~」


「それじゃ、あの婆さんが一枚も二枚も咬んでいるのだ」


「はぁ~」


なぜ、日曜日にも係わらずここに居たのかを尋ねると数日前に急に現れた大きな気配の所為でかなりの人でないものが慌てふためいていたらしい。

本題に入ろうとすると理事長に家に来て話をしてくれと懇願された。

仕方なく理事長の自宅に向う。




そこは見晴らしの良い高台の大きな屋敷だった。

何でも天目(あまのめ)鉄鋼とか言う大企業の社長も兼ねているとの事だった。


「そんな、社長さんが何でこんな島に居るんだ?」


「そ、それは。家内が……」


大きな屋敷の成金趣味の様な豪華絢爛な応接間に通される、そこで見た事のある少女に出会った。


「パパ、もう帰ってきたの……そ、その人は……だ、誰?」


「この方はパパから見て雲の上の人だよ」


「えっ? ほ、本当に?」


「ああ、失礼のないようにね」


「う、うん。判った。それじゃ私はこれで失礼します」


そう言いながらぎこちない態度で頭を下げて応接間を後にしたのは、雫を足蹴にして鍵を投げ捨てた少女だった。

その少女と入れ替わりに派手な女が現れた。


「あなた! 学校は大丈夫なのでしょうね!」


派手な衣装に、ギラギラした貴金属。

そして見るも無残な化粧。

ある意味化け物の方が可愛しく見える。


「こ、こちらは?」


「あの……気配のご本人です」


「はぁ?」


眉間に皺を寄せて人の顔をじろじろ見やがる、いい加減イライラし始めていた。


「お、お前はなんて恐ろしい事を……」


「何を言ってるんだい。こんな若造の何処にあんな大きな気配があるって言うんだい?」


「黒き悪魔、地獄の執行人と自己紹介すれば良いのかな? 若作りで申し訳ない」


普段より多くどす黒いオーラーを放つと成金趣味の応接室がビリビリと振るえ、置物の坪が割れる。

化け物より酷い女を睨みつけると腰を抜かしてしまった。

これ以上は弱い者イジメをしているどこかのお嬢様と同じ事になるので溜息をついた。


腰を抜かしてもまだ、俺に食い下がる所を見るとかなりの兵かただの馬鹿なのかどちらかなのだろう。


「わ、私は天目の末裔の……」


ただの馬鹿のようだ、判るように説明すると観念して何も言わなくなってしまった。

簡単な事だ、金で人の面を叩く様な人間にはそれ以上の金で張り倒すか金を取り上げてしまえば良い事だった。

売られた喧嘩はいくらでもお買い上げ、そして数千倍返しを座右の銘に生きてきた。

それ故に付いた2つ名が黒き悪魔、地獄の執行人なのだ。

後の話はスムーズだった。



そして最後に釘を刺すことも忘れなかった。


「甘やかして育てた責任はきちんと取るのだな、万が一これ以上何かあるようならペナルティーを与える事になる。俺の手を煩わせるな。自分の子どもが何をしてきたか知らない訳ないだろうな」


「だけどねぇ、たかだか他人の子の1人や2人。なんて事無いだろう」


少し気を許した態度を見せるとそんな事を言ってきた。

ただの馬鹿ではなくかなりの馬鹿だったようだ。

旦那の方は頭を抱えている。

お構いなしに奥様の方にお伺いを立てた。


「申し訳ない、お電話をお借りしたいのだが」


「勝手に使いな、ちゃんと電話代は払いなよ」


電話を借りて電話する。

電話先の相手は驚いていたが数分後には実行されたようだった。

応接間にある無駄に大きなテレビをつけると臨時ニュースが流れた。


『先ほど、天目鉄鋼 九州工場で大きな爆発があった模様、今の所、死傷者は確認されていません』


「たかだか他人の会社の1つや2つ。なんて事無いだろう。電話代だ」


そう言ってガタガタ震えながら脂汗を流している奥様の額に福沢諭吉を一枚貼り付けた。


「安心しな、従業員に労災を支払うような事は一切無いからな。俺は人を傷付けるのが大嫌いなんでなんでな」


そう言って豪華絢爛な屋敷を後にしたが、流石に後味が悪かった。

仕方なく後日、旦那の理事長には上からの融資の話をしておいた。

何が縁で神と言われた者があんな守銭奴みたいな者と一緒になってしまうのか。

まぁ、どこぞの大泥棒の三代目も守銭奴の女の事が大好きらしいから仕方が無いのか?


その夜はあまり考えたくなく、島を車で行くあても無くブラブラして夜遅く姫の家に戻った。





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