SRキャラで、世界の平和を守ります
御月 依水月
一章
第1話 「物語の始まり」
ソシャゲでお年玉を全て溶かした――。
(俺はもう、スマホゲームは
(この広告の女の子……可愛いな……)
春香には悪い癖がある。中学生三年のときに、受験が終わってからスマートフォンを買ってもらった。
そしてソーシャルゲームにはまってしまい、何年も貯めていたお年玉やお小遣いを全て『ガチャ』と呼ばれる運ゲーにつぎ込んだ。
春香は別に、それを後悔したことはなかった。自分のお金をどう使おうが、自分の勝手。親だって子供の所持金をいちいち把握することもない。
そう思っていたのに、まさか"あんな結末"が
(なんで、なんで俺が課金した翌月に、ゲームが終了するんだよ!)
最後まで使おうか迷っていた、当時は最強と呼ばれていたキャラクター。それを手に入れた瞬間に、ゲーム内で告知されたのは『○月×日に、本ゲームはサービスを終了します』というメッセージ。
世界を作った神は、春香がレア・キャラクターを手に入れた瞬間に、世界を捨てた。少なくとも、春香にしてみればそう思えた。
「そりゃないぜ――――」
それから数日間、春香は精神的な
親に相談できるものでもなく、原因を知らない周囲は、明らかに生気の抜けた春香に対して「学校に行け」とは言えなかった。
そのまま寝込むことはなかったものの、立ち直ったように見えた後も、口数が減ってどこか元気がなくなった。
(あの日、俺はゲームをやめたんだ――)
春香はそう思っていた。しかし、運命とは
「ハル……くん? これ……を」
春香の腕の中には、超絶美少女がぼろぼろの姿でうな垂れている。服は破け、顔や体のあちこちには傷があり、血が流れている。
「大丈夫か!? 意識はあるな……いま、救急車を呼ぶから。しっかり――」
「まって……傷は……すぐ治る。話を、時間がないのっ!」
春香にとっては初対面の相手だった。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア」
突如として響き渡る
聞こえた方向へ視線をむけると、黒い炎のようなゆらめきを
「これを……中にあるアプリを起動して、変身を……」
そういうと少女は気を失った。
「おい!」
化け物と目があった。光った
「くそっ……何なんだよ、これは!」
もうやけくそで、少女に託された携帯電話を起動する。
そこには『バトル・エクスチェンジ』という、見たことのないアプリがひとつだけインストールされていた。
『チュートリアルを開きますか?』
見ると、黒い化け物が走ってくる。
春香は運動能力が
春香を「ハルくん」と呼ぶ人物は、ひとりしかいなかった。同一人物とは思えなかったが、それでも、見捨てる選択肢がなくなるには十分な理由だった。
「チュートリアルなんて、見る時間はない!」
『ガチャを引いて、出たキャラクターに変身してください』
シンプルにそう書いてある。
赤い大きな文字で『ガチャ』とあり、春香は迷わずそれを操作する。
もっとも豪華そうなメニューを選び、こういうゲームにありがちな『初回無料』と書かれた部分をタップする。
そこには『SR確定ガチャ(初回無料)』とある。
黒い化け物はもうそこまで迫っていた。右上にあった『スキップ』というボタンを必死でタップする春香は、キャラクターが出た瞬間に見えた『変身』という表示を迷わず押す――。
「どうにでもなれ! もう!」
世界に光が満ちた。
そして春香の中からは湧き上がるような、力強さが
『剣を突き刺せ』
頭の中には、聞き覚えのない女性の声が
「はっ!」
右手には、知らないうちに剣を握っていた。
「ッガアアアアアアア」
自分がどう行動すればいいのか、
春香が目の前を直視すれば、化け物が噛みつこうと開いた口には、自分が突き出した剣が刺さっていた。
血が
「やってくれた……のね。ハルくん……」
どうしてこうなった。
胸のあたりが重く、足の付け根がすーすーとして
自分の声が裏声のように高く感じられ、露出した腕を見れば
「俺、女になっているのか?」
視線をさまよわせれば、窓ガラスに映る自分が目に入った。銀色の髪、日本人とは思えない
「美しい……」
ただそれしか言葉が出てこなかった。現実でここまで美しい人物を、春香は写真ですら見たことがなかった。
「はっ!」
そんなことを考えている場合ではないと思い直す。
どうしてこうなったのか、春香はその日の一日を思い返した――。
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