ケツ割り箸から始まる恋もある……の?

@titanfang

第1話


━━それは、一夜の過ちでした。

まさか、そんなことしちゃうなんて


━━それは、一夜の過ちでした。

まさか、そんなとこで俺は……




本当は、内心気が進まなかったんです。

仕方なく……ってほどじゃないんだけど、まぁ、その…お付き合いというか?

桃子とは短大時代からの仲だし、いつも色々相談に乗ってくれるし、お互い就職してからも時々お茶しに行ったりするくらいだから、頼み込まれたら仕方ないなーって。


本当は、内心気が進まなかったんですよ。

いやまぁ、下心が無かったと言やぁ、嘘になるけどさ?

合コンとか婚活、とか?そういうのってなんかこう…崖っ淵っぽいじゃん。

何としても結婚、とかガッついてるのしか来ないだろうし、そんな重たいのとか来られてもなぁ……っていうか、さ?


「「「かんぱーい」」」

「「「カンパーイ」」」


そんな感じに和やかにはじまった、かな……うん、確かそうだったと思う。

こっちは私と桃子と美奈ちゃんと。

えっと、そう、多分私、意外と緊張してた。

そんなに人付き合い苦手な方じゃないつもりだったんだけど、ね。

何を話していいのか、こういうとき結構困っちゃうよ。普段の窓口業務みたいに言うこと決まってるわけじゃないし。


そんな感じに和やかにはじまったんだっ…け。確かそうだったと思う。

その時にはもう、吉川先輩は完全に一人に狙いを定めた猛禽類の眼差しをしてたから、色々と流石だなとは思ったよ。

困ったように曖昧に微笑む姿は、確かにちょっとキュッとは来るけど、流石にキュンまでは来なかった。…その時は、まだ。


ただ、間が持たなくて。こんな時どんな話ししたらいいんだろ?


ただ、間が持たなくて。もう少し面白いことでも言えたりしたら良かったのかな?


気づいたら、もう三杯目がカラで。


「なんか面白いことやんなよー!」とか言い出したのは、桃子ちゃん…だったっけ?


「よーし!!じゃあうちのおとーさん直伝の、一発芸やっちゃうぜー!」

そう叫んでいきなり椅子の上に立ち上がると、カチャカチャとベルトを緩めて半ケツを出した。ちょっと待てって!誰か止めろよ!引っ込みつかなくなるだろ!?


流石に、全部下ろしたら社会的にというか法的に死ぬ…という分別くらいは…いや、ごめんウソ。分別なんて残ってたら最初からそんなんやってない。だってほら、宴会なんて親戚の集まる正月とか法事とかそういうのしか無かったし、そういう場で大人たちがどうしてたとかいう記憶は…うん、そういうのしか見た事なかったんだよ。


尻に食い込むように引き絞られた下着の隙間に挟まっているのは、さっきまで彼女がポテトサラダをつまんでいた割り箸。否応無く視線はそこに集まるから、思わず息も荒くなる。


ヤバイよ!マジでやるの!?ほらみんなドン引きしてない?もうやめようよ?引っ込みつかないの?流石にそんなの人としてないよね?ありえないよね!?…でも、

「イャーーーーッ!!」


パキン、と音高く割れた細い木片は、尻に食い込んだ下着の隙間から転げ落ちた。唖然とする先輩。笑い転げる彼女の声とか悲鳴とかはなんか遠くて、俺は前屈みのまま少し震えていた。興奮してた?いや、興奮してたさ。だって、尻で、割り箸だぜ?ヤバイよ、ヤバすぎる。


……最低、最低だよ。もう何もかもどうでも良くなった。なんか冷めちゃった。

こんな事するようなヤツと付き合おうなんて物好きいるわけないし。もういいや、呑もう。呑んで忘れよ。そう思っておかわり頼んだの良くなかったよね。記憶無くすまで呑むとか、一生の不覚…。


「……あっ、君。おしり、大丈夫…だった?」

「!!!!!」

翌朝、二日酔いで最悪に気持ち悪いまま駅に向かう途中、偶然出くわした君はすごく気まずそうな顔をしていた。そうだよな、昨日の今日だから仕方ない。あまり思い出したくもないよね、そんな事。


「ごめん!もう忘れて!!何も見てない!いいね!?」

思わぬところで声をかけられて、全身が大気圏突入並みに熱くなった。昨日の光景が蘇って、恥ずかしさに心臓が口から飛び出すところだったよ!

咄嗟に私は、彼を突き放して逃げようとして…

「…あっ、」


「…あっ、」

俺の手の中から転げ落ちたのは、昨日拾って後生大事に握ってた、あの割り箸。

「ウソ、信じらんない!なんでそんなの持ち歩いてるわけ!?」

「…だ、だって、仕方ないだろ!

俺、君のそういうとこに、グッと来ちまったんだから!」

「何それバカじゃないの!?変態!!」

「…そ、そうだよ!変態だよ!悪いかよ!す、好きなんだよ!!」

彼女は両手で顔を覆い、そこで思い直したように慌ててその手を自分の尻へとやった。

そう、昨日あんな思い切ったことをやらかした、キュッと締まった小さなおしりに。


━━ケツ割り箸からはじまる恋もある。

そんなこと、ミリほども思っていませんでした。


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