夏夢

@utajapan

第1話 勘違い

汗が額を伝う。

ジリジリと焼き付ける日射し。

周囲の音をかき消すように鳴くセミ達。

風はない。しかし、視線の先の蜃気楼はゆらゆらとわずかに揺れている。

ふと上を見上げると、無限に思えるほど大きな青空が広がっている。その青は深い深い青だ。そんな青空に眩い太陽と、大きな入道雲が一つ。


夏が来た。


気づくと何もない田んぼ道を歩いていた。見覚えのある道、通学路だ。あぁ、今日は登校日ってやつだ。

なんで夏休みっていう休日にわざわざ学校に行かなきゃならないんだ。学校側の気が知れん。学校に行くのは夏休みが終わったあとでいいじゃないか。

ていうか、なんでこういう日に限って自転車が壊れてんだよ。暑すぎる。溶ける。

なんで夏ってこんなに暑いんだろう。

そんなことを思いつつ歩いているといつもの無人駅に到着。電車が来るまで一休み。

駅から今歩いて来た道が見える。一面、田んぼだらけ。奥には山が連なっている。俺の家は…見えないか。

ほんと何もないよな。この町。でも、好きなんだよね。

あ、電車来た。

電車の中にも誰もいない。無人電車。

電車に揺られながら景色を眺めていた。もう農作業をしている人たちがいる。こんな暑さのなか農家の人たちは大変だな。ま、俺の親もだけど。

一つ目の駅に着いた。あれ、誰もいない。普段なら同じ学校の奴らとかここで乗ってくるんだけどな。

それから数分後に二つ目の駅に着いた。

ここではおじさん一人が乗車。

三つ目の駅では、小学生、低学年の子達が乗車。麦わら帽子に虫あみと、虫かご。いいな、小学校は夏休みに登校日とかなくて。

それから四、五、ときて俺の降りる北川駅まできた。同じ学校の生徒は一人も乗ってこなかった。

今日、登校日だよね…?

さすがに電車でこんだけ来ると、少しだけ田舎感が削ぎ落とされる。コンビニとかあるし。ま、駅には誰もいないけど。(笑)

さて、こっから歩きだ。15分くらいこの暑さに耐えねば…頑張るぞ!


15分後ようやく学校に到着。

夏休み前持ち帰らなかった上履きに履き替えて階段を登り、1-2の教室まで来た。

あれ、誰もいなくない?

ちょっと重たい扉を横にずらして開けた。

やっぱり誰もいな…

窓際に一人の女子生徒の姿があった。

ん、見たことない後ろ姿…。誰だ?

俺は教室の入り口から恐る恐る彼女に聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで

「おはよ〜ッス」

と言った。

すると、彼女は、

「あ、おはようっ」

と返してきた。

俺は席に着いた。誰なんだ、あの子…

んー。ちょっと顔を…

ゆーっくり彼女の方に目だけを向ける。

彼女は窓から外を見てる。

くそ、顔が見えない。身長はあんまり高くなく、髪は茶色がかった黒色で、肩くらいまでの長さだ。

いたっけ、こんな奴。

とか思ってたら彼女が振り向いた。

あ、ガッツリ目合っちゃった…。

俺は速攻で目をそらした。

やべぇ、どうしよ。完全に目、合ったよね。うん。気まず…!! ってかなんで誰もいねぇんだよ!あぁ、なにこれ。

「君、なんで学校に来たの? もしかして、今日登校日って勘違いしてない?(笑)」

っと不意に彼女が言った。

「え?今日、登校日じゃないの?!」

俺は返した。

「登校日は明日だよっ!」

と彼女。

「マジすか…。」

いや、マジすかぁぁ?!嘘だろ。恥ずかしっ!もう俺着席してるんですけど!

彼女は笑っている。

そりゃあ笑うよ。ただの夏休みの一日にわざわざ学校まで来て、授業もないのに朝から着席してるんだもん。頭おかしいだろ。

あー、帰るか。

俺は教室の出口の方に向かおうとしたが、疑問に思ったので聞いた。

「じゃあなんで君はこんな朝からここにいるの?」

彼女はちょっと考えてから言った。

「私も登校日と間違えちゃったの(笑)」

いや、お前もかいっ!

「そ、そうなんだ、奇遇だね(笑)」

「そーだね(笑)あ、私もそろそろ帰るんだけど駅まで一緒に帰らない?」

え、今日初めて会ったのに?でも、なんか断りづらいな…。

「あー駅まで?え?まーいいけど…。」

「よし、じゃあ帰ろう〜。」

なぜか、彼女と駅まで一緒に帰ることになった。










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