第12話 首はねの国の女王様
「到着です!!ここがクロッケー場、そしてお城です!!」
ハートの女王がいるという城。白い壁と赤い屋根が連なってできている建物に、赤インクを垂らしたような色のバラが似合っている。
「あら、お客様?不法侵入なら首切りだけど。」
ふいに声がした。
城と同じカラーリングの豪華なドレス。それでいて動きやすそう。ツリ目の奥の瞳は、こちらを捉えていた。
「すみません。君がハートの女王ですか?」
「…不法侵入なのか、と聞いているの。答えないのは、NO、と解釈していいかしら?」
噛み合わない会話に、合わせようとする様子も見せず、腰にあった剣に手を伸ばす。
「え、落ち着いてください。まって、ストップ!」
こちらに構わず振り下ろされる剣を慌てて避ける。間一髪だった伏木さんの髪が少量、短くなって宙を舞った。
「あら?あなたはアリスね?ご無礼を失礼。私は、ハートの女王。」
女王は初々しく頭を下げた。
「はぁ。」
伏木さんは興味なさそうに接する。
「その態度、さすが主人公というところですわね。」
皮肉交じりにも聞こえる言葉を、伏木さんは黙って聞いていた。
「ところで。」
女王が話を転換させる。
「私はこの夢を終わらせたいのです。」
「この夢を終わらせる方法なら…」
「主人公がいなくなったら、物語は終わりを迎えますわ。」
伏木さんの言葉を遮り、女王は剣を構え直した。
「違う。狂人を殺すことでこの世界は終わる。不思議が無くなった世界になったら、この世界は消える。」
「その狂人が、あなたなのではないですか?」
「違う、違う…。」
その様子を俺は見ていることしかできなかった。
「ご主人様。原作の、不思議の国のアリスで、この場面でもチェシャ猫が出てくるんです。」
エイプリルが言った。
バグは直しておいた。
ドードー鳥が言いたかったことが、分かった気がした。
「この場面を転換できるキャラクターは、もういないんです。」
淡々と、こちらを見ずに言った。その言葉に重なる感情は分からない。
「じゃあ、俺が…。」
くっと、エイプリルは服の裾を掴んだ。そのまま、ふるふる、と首を振る。
「ねぇ、カヅキさん。この世界は、何の為に作られたんでしょうか。」
土佐川 悠を中心とした人物を集めるためのプログラム。それが精神的な関係の話か、物理的な距離の話かは、分からないけれど。
ドードー鳥の少年が、作ったプログラム。それを土佐川 悠の妹…エイプリルに聞かれることを避けていた。
「白ウサギに、会わせるため…?」
「でも、お兄ちゃんは私に会うことを認めませんでした。」
じゃあ、分からない。
わかんねぇよ…。
「アリス。あなたは、この世界に自ら飛び込んだわね。長くて、先の見えない穴に、自分から。それがマトモだとは思えないわ。」
「違う。私は悠を…。」
「好きな人の後を追ったのでしょう?相手のことを考えもせずに。あなたは冷静だったのかしら?追われる人のことを、考えていたのかしら?」
「違う、違う…。」
「何も違わないわ。ねぇ、終わりにしましょう?最後に、彼に伝えたいことはある?」
「…もっと生きてほしいよ…悠。」
「それを彼女に伝えたかったのでしょう?悠。」
白い剣と赤い血を、ただ見ていた。城ともバラとも、同じ色合いの筈なのに、感想は別物だと思う。
足元に、短くなったバラが一輪、落ちていた。剣を振り回した時に切れたのだろう。
棘が刺さるのを気にせずに、その花を拾い上げた。
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