第7話 ゴスロリの国のキャタピラー
「ここは…?」
何事もなかったように、次の晩もワンダーランドに招かれた。
ただ、場所は知らない場所。いつもは前回の続きからなのに。
目の前には巨大キノコ。その上にゴスロリ調の服を着た女の子がチョコン、と座っている。
「あなたは誰?」
大人びた声で聞いてきた。
「ハッターです。マッド・ハッター。」
「ふぅん。」
そう反応すると、しばらく沈黙が流れた。…名乗らないのかよ。
「ご主人様!この状況から察するに、彼女はキャタピラーかと思われます!!」
キャタピラ…?あの戦車のタイヤみたいな部分のこと?
「和訳するとアオムシ。タイヤじゃない。」
伏木さんに心読まれたかな。
「君はアオムシなの?」
「知らないわよ。」
あ、そうですか。
そして、再び沈黙が流れる。
「長居は無用みたい。先に進みましょう。」
沈黙を破ったのは伏木さんだった。
「あら?どうしたら長居してくれるのかしら?退屈なのよ。」
引き留めるように、キャタピラは聞いた。
「私たちがあなたに用があれば長居する。」
「どんな用があればいいのかしら?」
「あなたが狂人だと言うのなら、用ができるかな。」
「難しいことを言うのね。」
そうして、3度目の沈黙が訪れた。
しかし、今度はキャタピラが自ら破る。
「あなたたちは、なぜ狂人なんて求めているの?」
「それがこの夢を終わらせる条件だから。」
「この夢を終わらせたいの?」
そりゃ、こんな意味の分からない夢を毎晩見なくてはいけないのは疲れる。眠っていても精神が休まらなくて、寝起きの気分はいつも最悪。早く終わらせたい。聞くまでもないことだろう。
「分からないわね。私、この世界が好きなのよ。」
キャタピラは続けた。
「この世界は、私がどれだけ静かな空気を作っても、だれも迷惑がったりしないわ。現実だと、みんな居辛くなって私から離れて行くのに。おかげで常に気を張っていないといけないわ。でも、この世界は違うじゃない?」
まぁ、たしかに、キャタピラみたいな性格の子がクラスにいても絡みづらいだろうな。
…まぁ、俺の場合はどんな性格の相手でも自ら絡みに行けないんだけど。
「ちょっとだけ、分かります。」
俺の隣でボソッと呟いたのは、意外にもエイプリルだった。
「でもですね、現実世界の、そうやって気を遣いながら生きてるのも含めて、自分なんです!自分の望むものがこの世界にあったとして、生きたいように生きられたとしても、それは‘素’って呼べるモノじゃないんですよ!!」
高い声で放たれた力説は、俺にはよく分からなかった。
「よく分からないわね。」
キャタピラにも同じだったらしい。
「けれど、面白いわね。」
その考えも、よく分からなかった。
「ありがとう、良い話が聞けたわ。引き留めて悪かったわね。道中気を付けて。」
「伏木さんには、エイプリルの言っていること、分かりましたか?」
「知らない。ついでに言うと、アオムシが何を言っていたかも理解できない。」
ただ、それだけ答えて伏木さんは懐中時計を見た。
「バカウサギ。次の話は知っている?」
「うぅ…この辺りのあらすじはボンヤリとしか覚えていないのです…!ですが、もうそろそろ、あの有名なチェシャ猫が出てきてもおかしくないかと!!」
そんな話をする内に、家が見えてきた。白ウサギのログハウスよりも少し小さく、メルヘンな見た目をした家だった。
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