ゆりかの憂鬱

第55話 高円寺ゆりかでございます。3


 先日、自分が前世で遊んでいた乙女ゲームの悪役令嬢『高円寺ゆりか』だということに気付きました。

この世に生まれてから12年、まさに青天の霹靂!


 いえね、おかしいと思うこともあったんですよ、皆さま。

だって現実離れしたようなお金持ちのお家に生まれて、家族や親しい人間はほぼ美形のハイスペックばかり。

前世そこそこ裕福なエリートサラリーマン家庭で育ち、そこそこな見た目とそこそこの学歴、そこそこの夫、そこそこの人生で人から羨ましがられたこともあった自分が霞んで見えるんですもの。

正直この作られたようなあまりの高スペックに、自分すらも引いていたけど、それも納得。

作られた設定の世界にいたのだから。


 ただ一つおかしな事は、前世の夫の『真島司』がこの世界に存在していること。

つまりこの世界に昔、前世の自分である『真島ゆりか』が存在していたこと。


 貴也君の話だとパラレルワールド的な世界に生まれ変わったのではないかという話でした。


 こんなあり得ない話ある?

どうしてこんなことに?

目が覚めたら、再び病院のベッドで真島ゆりかに戻らないかしら?


 でも――いくら考えても答えは出ない。


 「不思議な夢を見たのよ」なんて、見舞いに来てくれたコウやナオに話してるところを想像して、毎晩寝るのに、そんな日は一向にやって来ない。

そんな気配さえ感じない。


 むしろ貴也君と話せば話す程、ここは現実だとつきつけられる。


 これは現実なんだ。

そう思ったら、私、色々愕然としました。


 だって…… 私、どうしようもなく育っています!


 『高円寺ゆりか』はそれなりに高スペックだけど、『真島ゆりか』の素のままので生きてきた中身は残念極まりない。


 小さい頃は子供に戻った新鮮さから、やんちゃを沢山して、お嬢様らしくない振舞いもわんさか。

中身はアラフォーだったから、ひねたものの見方ばかりして小生意気だったような……これは今もかしら?

しかも色々やらかして皆に醜態を晒したり、迷惑をかけたり、許婚以外の人にもときめいたり……。


 ……これってダメな悪役令嬢に向かってますよね?

イケメン高スペックなメイン攻略対象者の許婚失格ですよね?

間違いなく公開断罪のフラグ立ってますよね?


 自分で自分の行動が恐ろしくて、ガクガクブルブルです。


 だから決めたんです!!

私、心を入れ替えます!


 勉強は以前からしてたけど、もっともっと頑張ります!

運動もして体力つけます!

お嬢様としての教養ももっと身につけます!

宗一郎君にも、ときめだけに留めるよう頑張ります!

将来起こるであろう公開断罪に備えて、汚れなき潔白な人生を送ります!


 きっと現れるであろうヒロインとも対立しないように。

悠希君から突きつけられるであろう許婚の破棄にも備えて、結婚だけに生きずに、ちゃんと地に足を着けて自立できる人間になるように。


 悠希君が他の人の手を取ることになろうとも……その先の人生が幸せになるように––––

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