ハイスペック子持ち主婦が転生した先は悪役令嬢だった

一乃

許婚ができました

第1話 プロローグ ―前世―

 生まれた時から記憶があった。


 前世はアラフォーの主婦だった。

子供は高校生の男の子2人。

数年前に病気になり、ついに病院のベットで息尽きた。


 若い頃は取り立てて美人という程でもないけど、容姿は悪くもなかったと思う。

ご近所さんたちからはお世辞でもいつの間にか綺麗になってーなんてよく言われてた。

上の下?中の上くらい?


 サラリーマン家庭だけど父は大手総合商社の海外駐在員でそれなりに裕福だったから、帰国子女枠で私立小学校に通っていた。

頭も悪くなかったので最終学歴もそこそこの大学だった。


 就職先は大手金融機関の総合職だった。

結婚相手となった夫は同じ職場の同僚で、夫の海外転勤を機に退職して赴任先についていったため、英語と中国語が日常会話レベルで話せた。

それに小さい頃、スペイン語圏で暮らしていたため、三ヶ国語話せるようになった。


 結婚後は出産子育てに専念して、日々奮闘した。

不慣れだった料理や家事ができるようになった。

夫の海外駐在員時代はホームパーティをよく開いたから、パーティ料理を習って、みんなによく振る舞った。

子供が小さい頃は手作りおやつにキャラ弁もよく作った。


 専業主婦の仕事に誇りを持って励んでもいたが、たまに夫の読む経済新聞や経済雑誌を見て、どんどん忘れていく知識に焦ったこともある。

子供の小学生時代、知識を忘れていくことが怖くて、日本に帰国した途端にパートで金融機関に働いて、資格取得に忙しんだ時期もあった。

向上心はあった。


 でも、子供が中学生になった頃、転機が訪れる。

病気だと診断された。

仕事も勉強も辞め治療に専念した。


 独身時代は海外旅行が好きで、ヨーロッパやアメリカはもちろん、インドやカンボジアのような途上国もめぐっていた。

観劇鑑賞や美術館巡りも好きだった。


 病気になってからはそれも夢のよう。

身体が疲れるので、もっぱら読書や子供の習い事に付き合いピアノを弾くことが楽しみとなった。

男子高生が弾くピアノには我が子ながらうっとりした。

負けず嫌いな性格なせいか、息子に張り合いショパンの幻想曲まで一生懸命練習した。


 読書は現代、古典小説も好きだが、漫画とラノベが特に大好きで電子書籍で読み漁ってたのは、家族には言えない。

さらには乙ゲーにまで手を出していたのは、最大の秘密。

おばさんなのに…。

いや、おばさんだからか!


 結婚に夢なんてない。

この言葉はあながち間違いではない。

結婚は墓場…とまでは言わないが、結婚は修行。

そう、まるで次から次へと激しく流れ落ちてくる水にうたれる滝行のようである。

現実の加齢臭のする旦那より2次元の素敵な王子様のがいいに決まってる!

妄想の世界は平和である。


 人生やり残したことはたくさんあった。

けれど、そこそこ綺麗な容姿で、能力もあり、若くして2人の子供に恵まれ、きちんと家庭を築いていたためハイスペックな女性で、幸せな人生を歩んでいるように周囲に思われていた。


 そんな人生が40代前半で終わった。


 次に目を覚ましたときには、自分は赤子になっていた。

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