最後の魔女
人夢木瞬
最後の魔女
最後の魔女が死んだ。
下校途中、駅のホームで電車に撥ねられて死んだ。
彼女の名前は夜千代といった。僕のクラスメイトの一人だったが、ろくに会話もしたことはなかった。僕だけじゃない。クラスのみんなが彼女と話をしているところを見たことがない。その理由は彼女が魔女だからなのだろう。
魔女は生涯に一度だけ魔法が扱える。より正確に言うのであれば生涯を終えた後にようやく、一度だけ魔法を使うことが許されるのだそうだ。それ以外は他の人間とまるで変わらない。睡眠も食事も必要ならば、喜怒哀楽だって確かに存在する。もっとも彼女の場合、感情の起伏は薄かったのだけれども。少なくとも、自分の心を表に晒すことはあまりなかったと記憶している。
たったそれだけ。たったそれだけのことで、僕らは彼女に関わろうとしなかった。腫れ物というよりは神聖なものに触れようとしない心理だった。けれども理由がどうであれ、誰もが彼女に関わろうとしなかったという結果に変わりはない。
彼女は何を思って死んだのだろうか。
息苦しい世界から逃げ出したかったのだろうか。それとも魔法で何か叶えたいことがあったのだろうか。もしかすると彼女は望んで死んだのではなく、誰かに殺されたのかもしれない。
だが、僕がそんなことを考えても無駄なのだろう。僕は彼女じゃなければ、彼女の考えも分からない。ただの一人のクラスメイトに過ぎないのだ。一ヶ月もしないうちにこんな悩みなど忘れてしまうかもしれないほどには他人なのだ。
最期の魔法は何を叶えたのだろうか。
あまり面白くもない話だ。
最後の魔女 人夢木瞬 @hakanagi
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