九月一日
いなほ
「死にたい」という言葉
一歩踏み出しても
また足が竦む
もう一歩踏み出したら
震えが止まらなくて
不規則な鼓動が、あふれそうな感情を急き立てて
こわい
上靴に何かが入っていないか
こわい
上から何かが降ってこないか
こわい
何も見えない振りをするんじゃないか
痛む足を引きずって歩いても
真っ白い粉だらけでも
誰も僕を見ることはない
幾度も繰り返される事象に
僕は回れ右で走り出し
逃げ出したくなるけど
体は凍り付いたままだ
逃げ出したって
誰が受け止めてくれる?
誰が助けてくれる?
差し伸べられる手は
ちょうど僕の目の前で
引っ込められて
誰もが見えないふりをして
本当は目を背けてる
一億二千分の一の悲劇なんて
戦うことも
声を上げることも
逃げることも
できない
たった一つの
途切れそうな命のことなんて
通り過ぎちゃえば
思い出すことだってないんでしょ?
「死にたい」
この言葉は真実じゃない
死にたいんじゃない
死にたいわけじゃない
ただ
ただ
僕にはもうどうすることもできないんだ
声を出すことも
泣くことすらもできないんだ
「死にたい」
その言葉にあるのは
居場所のない
声にならない
思いだけ
本当は
「助けて」
と叫んでいる
声にならない声で
形にならない行動で
心のなかで叫んでいる
歯を食い縛り叫んでいる
違う
違う
違う
僕は「菌」じゃない
「ゴミ」でもない
僕は人間だ
ただの人間だ
戦いたくても戦えない
声を上げたくても上げられない
逃げ出したくても逃げ出せない
助けてほしいのに助けてって言えない
一億二千分の一の
たった一つだけの
命だ
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