2019/04/15 「スクリプトキディ」

 自分のPCにいくつかのツールをインストールした。

 まず通信元を欺瞞するための匿名通信ソフト。インターネット上にある目的のサーバーと直接接続するのではなく、インターネット上に無数に設けられた中継サーバーを経由して通信を行うようにすることで、サーバーのアクセスログに残るのは中継したサーバーのアドレスになるようになる。

 中継サーバーは原則として3つ以上介することになっているから、中継サーバーもぼくの本来のIPアドレスと通信先の両方を同時に知ることはできない。

 本来は国家によるインターネット上の検閲が行われている国で、自由に・安全にインターネットを利用できるようにするために開発され、それに賛同する有志によって中継サーバーは運用されているのだが、ぼくみたいに安全な先進国の連中が後ろ暗い通信を秘匿するのにも使われる。

 次に入れたのがポートスキャナで、任意のサーバーへ特殊なパケットを送り込み、サーバーから送り返されてきたパケットの内容から、そこで動作しているOSやそこで動作させているプログラムやそのバージョンを調べるのに使う。

ほかにインストールしたのが、一連の脆弱性攻撃ツール。本来は企業などが自社のコンピューターシステムに脆弱性、すなわちハッカーに攻撃される隙がないかを実際にハッキングを行なって確かめるためのツールらしい。

本来の目的はともかくとして実際にハッキングを行うツールであり、悪意を持った用途にも使用できる。

驚いたことに、こういったツール群は全てインターネット上から無料でダウンロードすることができた。ネットからダウンロードしてきたそれらを実際に自分のPCへインストールして使えるようにするのは少々骨が折れるが、そのための情報もインターネット上に多くあるし、買ってきた雑誌にも詳しく掲載されていた。

ただ操作方法には少々癖が強い部分もある。GUIで、すなわちマウスでクリックしたりタッチパネルでタッチして操作できるようには基本的になっていない。そこでどうやって操作を行うかというと、CUIと呼ばれる文字列(Character)の入力のみを受け付ける画面へ、コマンドという予め決められた文字列(だいたい単語か略語)を入力することによってそれに対応する機能を呼び出す。

ハッキングものの映画なんかでよく出てくる、真っ黒な画面に白い文字を打っている画面があるが、実際にあんな形で自分のPCを操作して、ハッキングを行う。慣れればべつに操作方法は難しくない。授業であれだけプログラムを書かされていれば、画面に表示される英数字の文字列にそこまで抵抗もなくなるというもの。

 ソフトウェアのインストールが一通り終わった。

雑誌に掲載されている一つの単語がふと目に入った。

「スクリプトキディ」

 簡易的なプログラムのことをスクリプトという。厳密には違うが・・・

 この場合、台本とかそっちの意味の方が強いのかもしれない。

 キディとは英語で子供のこと。

自分で考えて書いたプログラムではなく、人の書いたプログラムを実行してハッキングを行うことしかできないガキのことをこういうそうだ。

 「ぼくのことじゃん」

 卑屈な笑みが顔に浮かぶのを感じた。

 

 

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