お題系

始末の顛末

(一)


「のう、人斬り伊之助。始末書は書いたのか?」

「書いたぞ。腹を切る覚悟は出来ておる」

「どのような始末書にしたのじゃ」

斯様かように書いたわ」


それがし主様ぬしさまの御指図通りに始末致し候。不届き者は一太刀にて切り捨て候えば、首尾を問うに及ばずの儀、申し上げたてまつる』


「おい、伊之助。これのどこが始末書じゃ。お主の悔いや反省なぞ何も書かれておらぬではないか」

「阿呆。だから始末書と言うたろうが」

「は?」

わしは確かに始末したのじゃ。それをつらつら書いただけよ」

「ぬう。それならば、さっさと殿に奏上すればよかろう」

「殿がおればな」

「なにい!?」

「儂にめいを下したのは殿じゃ」

「して?」

「殿の命は、儂を斬れじゃ」

「う……」

「儂は配下の者として命を忠実に果たし、殿を始末したまでよ」




(二)


「おかみはん、旦はんが逝って寂しなりおしたなあ」

「そうね。なんでんかんでん始末しはる人やったからねえ。こないもったいないことなんでしよりますのん、ちゃっちゃっと始末しなはれって、あのうっさい声が聞こえなくなって……」

「せやけど、おかみはん。旦はん、なんや始末書を遺しはったぁ聞いたんやけど」

「ああ、これやね」


『きっちり始末するのがうちの家訓や。何か残るようやったら、それは始末がまだ足らんいうことや。残さんと、最後の最後まできっちり始末しなはれ!』


「うわ、こないな始末書でっか!」

「そうなの。まあ、そこまでやらんでもええやんかと思うんやけど……仏壇、墓、遺品……そんな使いもしきらんもん残したらあかん言うて、何一つ残さへんかったの」

「死んだらもう分からんでっしゃろ。こっそりしつらえたらええやないでっか」

「あたしもそう思うてたんやけどね」

「あかんのでっか?」

「そこに……」

「は?」

「どうしても、わいの幽霊だけは始末しきらん言うてうなってるの。ずっと」



【 了 】



+++++++++


 自主企画『始末書を書こう!!』参加作品。


見出し:始末書で済むと思うなよ!

紹介文:いや、実際のところ始末書書くのは難しいですよ。ええ。なんでそんなん書かなあかんの、あほらしって思ってますからねえ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る