異世界とか、召喚とか、姫魔法使いとか、そういうのいいから寝かせて!
@ns_ky_20151225
一、俺はサラマンダー。マジな話
これは夢だ、と今でも思う。でもそうじゃない。
これは現実。もうひとつの現実だ。
俺の目の前二十メートルほどの茂みに、ここの人々がゴブリンと呼ぶ人型の怪物が十体ほどいる。矮小で、腐ったような緑色の肌は疣だらけ。牙をむき出し、唸り声や叫び声を上げて威嚇してくるが、どいつも自分が一番に飛び出るつもりはないようだ。
それを言うならこっちも同じ。革鎧をつけ、立派な剣と盾を持つ兵士が五人いるが、相手の威嚇に応じて剣と盾を打ち付けて音を立てるばかりだ。
そして、もう一人。俺の真後ろにいるのがこの戦場に似つかわしくない姫魔法使い。
近所の公園にでも行くような軽装、短い金髪、長身。ついでに言うなら栄養状態はかなりいいようで、要所要所はちゃんとふくらみ、くびれている。正確な年齢は知らないが、俺と同じくらいだろうと思っている。ちょっと好みでもある。
「我が下僕、サラマンダーよ、あの醜悪な怪物どもを灰にするのです」
姫の言葉を聞くや否や、俺はかかとで軽く地面を蹴り、ふわりと浮かんだ。召喚主である姫から発せられた明確な命令には逆らえない。それがここのルールらしい。ルールを破る方法は見当もつかない。
ゴブリンの群れまでの距離を瞬時に詰める。怪物どもは引こうとするが、遅い。転倒した鈍臭い奴を捕まえた。
火の精霊、サラマンダーである俺の全身は固まりかけた溶岩のように赤黒く、血管は溶けた鉄のように光っている。両手の鉤爪をゴブリンの体に食い込ませると、そいつは悲鳴を上げた。
こいつには恨みはないし、ゴブリンという生き物がどういうものなのか、この世界でどういう役割を果たしているのかなんてさっぱり分からない。俺に命令した姫が正しいのかどうかも分からない。
けれど、こうするしかない。言われた通りするしかない。召喚されるというのはそういう事だ。
ほかのゴブリンどもは石を投げてきたが、この程度であれば当たったところで痛くも痒くもない。
兵士たちはじっと様子を見ている。サラマンダーで事が済むなら自分たちが出ていって怪我をするのは損だとでも考えているのだろう。あるいは姫のそばにいる事が最優先なのかもしれない。
俺は十本の指に力を込める。鉤爪を十本全部食い込ませたのでサラマンダーの力を使えるようになった。
ゴブリンが意識を失い、輝き、熱を発し始める。俺には捕まえた動物の生命力を熱エネルギーに変えて操る能力がある。誰に教えられたわけでもないが、この世界にサラマンダーとして召喚された時、すでに知っていた。それもここのルールなんだろう。
ゴブリンどもは背中を向けて逃げ始めたが、もう遅い。捕まえた奴の体を握りこぶしくらいの塊に分解し、高熱の誘導弾として撃つ。全員を焼き滅ぼすのに一分とはかからなかっただろう。
「さすがですな。姫様」
戻ってくると、年長の兵士が姫をほめ称えた。
実際に戦ったのは俺だぞ、と思うが、サラマンダーの口は戦闘用なので、ここの言葉は分かっても話せないし、文字なんかさっぱりだ。
「これで、街道もしばらくは安全でしょう」
「仰るとおりです。商人たちも護衛に割く費用が助かりますし、夜の旅行もできるようになります」
姫は頷きつつ、こっちを見もしないで右手を上げる。中指にはめた指輪の赤い宝石が輝くと、俺は抵抗できない力で吸い込まれるのを感じ、意識が薄れていった。
ああ、また寝不足だ……。
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