冒険のススメ

冒険者 と 少年の夢

 僕はトト。

 今年、生まれ故郷のトラン村を出る。実は、もっと前から村を出ることは決心していた。ただ、十四歳に――大人になるのを待っていただけだ。


「本当に冒険者になるんだな?」


「うん!」


 ちょっと怖い顔をした、隣のおじさん――ダルマロックさんの念押しに対し、大きく頷く。

 もう父さんにも、母さんにも、兄さんにも、弟妹たちにも、言ってある。僕は村を出て、冒険者になるんだ、と。ただし、一番大事な秘密は、言ってない。

 チラリと右手のアザを見る。


 ――勇者の紋章――


 そう、僕の右手には、勇者の紋章が刻み込まれているんだ。だから、僕は村を出なくちゃならない。村を出て、冒険者になって、たくさんのモンスターをやっつけて、そして、勇者になる。それが僕の使命なのだ。


「……しょうがねえ、とにかく町までは俺が責任もって連れていってやる。その後のことはお前次第だからな、トト」


「うん! ありがとう、ダルマロックさん」


 よし!

 僕は、冒険者になるんだ!




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 >――――――――

 >『冒険者とは?』

 >――――――――


 不思議な職業ですね、冒険者。

 リアルに想像すると「そんな職業って成り立つの?」という疑問すら出てきてしまいそうですが……そんな冒険者について、お話ししたいと思います。



 まず、冒険者が暮らす世界について。

 冒険者の活躍する世界といえば、中世風で、剣士と魔法使いがいて、モンスターがはびこる、そんなファンタジーな世界です。


 ここで、ファンタジー世界の一般的な"お約束"を2つ。

 まず1つ目。


 「魔法」と「科学」は両立しないものとします。


 つまり、ファンタジー世界には魔法がある代わりに、科学文明は発達しません。

 逆にいえば、もしも科学文明が発達したら、その世界から魔法は消え無くなってしまうでしょう。


 そして2つ目。


 「冒険者」と「モンスター」はワンセットであるものとします。


 つまり、ファンタジー世界にはモンスターがいるから、冒険者という職業が成り立っています。

 逆にいえば、モンスターがいなくなったら、冒険者という職業もなくなってしまいます。

 ちなみに、これの応用が「勇者」と「魔王」のワンセットな関係ですね。


 この2つを"お約束"とした上で、ファンタジー世界における冒険者についてお話ししてみたいな、と思います。



 >――――――――――――――――――

 >『村の少年は、なぜ冒険者を夢見る?』

 >――――――――――――――――――


 今回のテーマは、なぜ人は冒険者を志すのか?、ということ。


 モンスターと戦う仕事って、ファンタジー世界でもトップクラスに危険な職業でしょう。兵士(軍人)になるよりも、もっとずっと危険なんじゃないでしょうか。

 しかも、危険なわりに、稼ぎは少ないのが普通です。他の職業なら、もっと安全に、もっといっぱい稼げるのです。


 他の仕事に就けない事情のある人々――犯罪者とか、逃亡者とか、奴隷とか、孤児とか、流民とか――が、仕方なく冒険者になる、というのならともかく、普通の人が冒険者になりたがるのは、いったい何故なのでしょう?


 その答えは、ズバリ、「憧れる!」からです。


 あたかも、私たちが「アイドルになりたい」「プロ野球選手になりたい」「お笑い芸人になりたい」「漫画家になりたい」と思うのと同じなのです。

 ファンタジー世界の人々にとって、成功した冒険者というのは、ものすごい憧れの存在なのです。裸一貫からスタートして、圧倒的な強さと、圧倒的な名声と、圧倒的な財産を手に入れた、本当のスターなのです。


 ああ、憧れる。

 自分も、なりたい。

 あんな風な、冒険者に。

 だから人は目指すのです……あの、憧れの「冒険者」を!



 もちろん、現実は厳しいでしょう。

 どんな業界でも、輝いて見える人は、ごくごく一部でしかなく、その他の大多数は挫折して消えていくのです。


 それでも、アイドルに憧れて、上京する人が絶えないように。

 それでも、プロ野球選手に憧れて、野球を始める人が絶えないように。

 ファンタジー世界においても、冒険者に憧れて村を飛び出す人は、決して絶えることがないのです。





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