神待ちJK、源氏名セツナ

「は、はじめまして……」

 おじさんと称すべく上客が成仏した兎上は、しかしてそのリピート率の高さから、ライトヘルスの新人嬢ではランキングのトップに躍り出てしまっていた。だから兎上がアマハラに到着してすぐに訪れたのは、予約予約予約のオンパレードに、待ちわびた客からのラブコールだった。


 かくて兎上の目の前に立っているのは、体躯にして数倍はあろうかという化物。見た目の比喩とすれば端的にオークだとかそう訳すのが正しいのだろうが、クトノ曰く、これでれっきとした神様だというのだから驚きである。


「なあひよりん。死んでくのん相手にするんもええけど、ながーくやるんやったら、やっぱり神様相手にせなあかんで」


 そう告げたクトノが連れてきたのが眼前の彼――、もとい近所の千年杉に住み着いていた森の神らしい。まぐわう為に人型を模してきたとは言うが、ならばせめてイケメンになってくれるとか、そういうご配慮を頂きたかったものだと兎上は思う。


「ゴフッ……ちいさいときからずっとみてたよ……ひよりちゃん……いや、ここじゃセツナちゃんか……」


 おいおいそれってストーカーじゃねえかと内心で毒づく兎上。というか近所のおっさんが「来ちゃった」みたいなノリで来るんじゃねえよと苦虫を噛み潰しながらも、精一杯の笑顔を繕う兎上は、我ながら随分と順応したものだと若干落ち込む。


「そ……それはありがとうございます。セツナです。よろしくおねがいしますね、サワラノさん」


 既に隆々とそそりたっている彼のソレは、それだけで兎上の胴体ほどもあった。これが本番アリのプレイじゃなくて本当に良かったと胸をなでおろしつつ、兎上は、その撫で下ろす程度しか無い貧相な胸をサワラノのソレに押し当てる。


「ううッ……これがひよりちゃんの胸……包容力のこれっぽっちも無い胸板で、健気に包もうとする努力がそそられる……」


 こ、殺してやろうかと脳内で二度三度サワラノを殴殺する兎上ではあったが、どうやらこの胸が好きだという男も居るのらしい。いやロリコンという概念を知ってはいたが、美少女と呼ぶには余りにもかけ離れた自身の外貌から、勝手に選外のレッテルを貼っていただけなのかも知れない。


「ボクの胸……んっ、気持ちいですか……サワラノさん」

 多分鏡で見たらオエッと来るであろう上目遣いで媚びる兎上。しかし仕事は仕事なのだ。この先には諭吉という代えがたい対価が待っている。そう思えばこそ無いパイでもズレるというもの。


「気持ちいいよ……ワシの神社で遊んでくれていたひよりちゃんのまな板ちっぱい……うう……生きててよかった」


 いや死ね。むしろ今すぐ死ねよってか……こんなのが神様なのか。時と共に増す殺意を押さえこみながら、懸命に奉仕する素振りを見せる兎上。幼い頃の楽しい記憶さえも汚される気分で、怒りを動力に変え全力で擦ってズって吸いまくる。


「んんっ……絡みつく舌……も、もう駄目……十日間我慢した神様ちんぽイッちゃうよ……! ひよりちゃんの眼鏡に出しちゃうよ……!!」


 つらい。クトノもサワラノも、同じ村落にある社の名前だ。まったくこんな痴愚神に囲まれて暮らしていたとは、これでは周囲の没落も頷けようというものだった。


「んっ……やっ……」

 そんな雑考すらも吹き飛ばすように飛び散る、自称神の体液。さながらエロゲのソレかとでも言うほどにぶち撒けられた白濁は、兎上の四肢を一瞬で包み込む。


「はあ……はあ……良かった……良かったよひよりちゃん。これ……少ないけど、お小遣い……とっておいてね……」


 せめて源氏名で呼べよデコ助野郎と思わんでも無かったが、目の前をひらひらと舞う諭吉を見た瞬間にどうでも良くなり、こんなに金払いがいいのならまたぜひ来て下さいと満面の笑みを浮かべ、なんだったら白濁をぺろりと舌で舐め取りながら、兎上は返したのだった。


 ――ボクも気持ちよかったです。また来てくださいね、サワラノさん、と。




 *          *


 


 「ひいひい、ひどい目にあったよ……クーちゃん」

 一仕事を終えた兎上は、湯船に浸かりやれやれといった表情で控室に戻る。その姿をニヤニヤと見守るクトノは、ほうら上客やったやろお? とイタズラげに微笑む。


「上客って! あんなん姫騎士が負けちゃうオークじゃないか!」

 喩えがいまいち分からないのかポカンとするクトノを他所に、でもまあ金払いは良かったから許すけどと兎上は続ける。


「でもさあんなお金、どこから調達してきてるのさ。神様でしょ?」

 チップも含めれば、延長三時間の手取りは今日だけで十万円。言っちゃなんだが、神様ってヤツはそんなに儲かるものなのだろうか。


「千本杉は、ひよりんも知っとるやろ? あそこは社の中でも参拝客が多いさかい。まあチップはアレやわ。お賽銭やら何やら。神様宛のポケットマネーやな」


 それを聞いた兎上は、罰当たりもいいところだと思わんでも無かったが、こっちにお金を回してくれる限りにおいては悪くもなかろうと、頷いて得心するに至る。


「ていうかさ。まさかとは思うけど、ボクがここに呼ばれた理由って、あの神様の意向とかもあるんじゃないよね」

 だけれど眼鏡をくいとさせ睨む兎上に、クトノは笑って無言を貫くだけだった。いやいや、もしそうだとしたら大問題である。なにせ大の神様が、一人の少女を玩弄したいが為に異世界に呼び寄せたというのだから。それはそれで、これからみっちりとお灸をすえ、貰えるものを貰ってからお別れする他ないだろう。


 まあこれも怪我の功名。金を出さない執着は只のストーカーだが、分を弁えた上で対価を支払ってくれるというのならそれは上客である。モア諭吉、ビバ一葉。兎上は僅か一時間で手にしたチップつきの三万円を手に、ほくほく顔を隠しようもなかったのだ。


「ほな、ひよりん。次のお客さんが待ってるで」

 そんな兎上の気持ちをお見通しだとばかりに、クトノは悪戯げな視線を向ける。ショートコースを含め、今日の予約は実に五件。うまい具合に捌ければいいけどと内心で算盤を弾き、兎上は次のお客の相手をすべく、暖簾の下を潜るのだった。

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