異世界・オブ・ザ・デッド
紀田 伎人
第1章 ゾンビになったら異世界転生していました
序章
腐臭が漂い、荒廃しきったそこはとあるダンジョンの奥地。
そこは墓地でした。
それ以外に表現が見つからないほど、墓地でした。
とあるダンジョンの奥地、その一角。魂を失ったモノたちが埋葬された冒険者の墓場。そんな場所。
見渡す限りの墓。これでもかといわんばかりの墓! 屹立し乱立し荒廃しきった墓! 地面を覆い尽し手入れすらされていない墓! そして腕!
……腕?
腐敗臭漂う墓地の地面から突き出すに相応しく、本来の肌色は完全に失われ土気色となり、肉は爛れ始め、不自然に固まった関節がまた不気味さを醸し出している、人の右腕。
簡潔にいえばよくある墓地から飛び出すタイプの腕。
あまりに自然に生えているそれがもぞもぞと動いて、ぎこちないながらも地面を掴み、今まさに土の中から這い出そうとしていました。
何も動かない中で腕だけが動いているのは中々どうして、実に不気味です。
腕があるということは、その下に本体があるというのが道理で、右腕の次には頭、次いで右肩が姿を見せ、次いで左肩、左腕そして胸から上が這い出てきました。
上半身だけ地面から出てきたそれは、緩慢な動きで下半身も地面から引きずり出します。
そして不安定な動作ながらも立ちあがった彼は、きょろきょろと辺りを見渡しています。といっても墓しかないからどの方向を見ても景色は変わらないのだけれど。
「ん゛?゛ こ゛こ゛、ど゛こ゛」
非常に聞き取りにくい、どこから出したと聞きたくなるほど不気味な声が彼の口から飛び出しました。
自己紹介、ならぬ他己紹介するならば、彼の名前は
非常に健康的な名前を持ちながら、その実ゾンビなうな元日本人でした。
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