オレ、毎日異世界になっちまうんだけど……?
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
第一話 オレ、毎日異世界になっちまうんだけど……?
オレは毎日異世界になる。
意味が分からないと思うが、オレもよくわからない。
ただ、日中会社で精いっぱい働いたオレが、帰ってきて布団で眠りにつくと──
あらふしぎ、異世界になっているのである。
異世界エンガーデン。
肥沃な大地と、砂漠、寒帯などを持つ巨大な、ひとつの大陸で構成された世界。
エンガーデンには多種多様な種族が住んでおり、ラノベチックな世界を形成している。
そんなエンガーデンに異変が起こる。
エンガーデンの中央を流れる大河、チユグラステ河が大氾濫を起こしたのだ。
これにより三つの文明が崩壊、23万人ほどの人類が死滅した。
その原因はひとつ。
オレが、飲み過ぎたことである。
今日は週末、上司との飲み会で、勧められるままビールを飲み過ぎてしまった。
オレはいま、寝下呂を吐いている。
そう──
オレは毎日、異世界になっている。
オレの体調は、異世界の
§§
早朝、二日酔いという史上最低の体調で目を覚ましたオレは、会社に向かうべく床をナメクジのように這っていた。
なぜ休日に出勤の準備をしているのか?
なぜ昼過ぎまで寝ていられないのか?
その答えはひとぉつ……!
うちは、休日出勤がデフォだからだぁっ!
いっつあぶらーく。
あー、頭が痛いー、のどが渇いたー、そんなことをのたまいながら水道までなんとか辿り着き、おいしくなーい水道水をあおる。
うん、鉄さびの味がする。
その後、なんとか起きだし、スーツを着用。バナナと缶コーヒーで10秒チャージし、家を出た。
満員電車で、汗とワキガと整髪料のにおいに翻弄され、会社へ。
会社に着きタイムカードを切ると、待っていたといわんばかりに上司の
ありがたいなぁ、涙が出ちゃうなぁと思いながら確認していく。
淡々と仕事をこなし、休憩時間もなく労働。
夕方になって、ようやく時間ができたオレは、コーヒーと大豆バーを口に詰め込むと、さらなる労働にいそしもうとした。
ふと気がつくと、恩名課長が立っていた。
「なんです?」
「ちょっと、お願いがあるんだけど……」
「仕事っすか」
「報酬は出すわ!」
「…………」
妙に力の入った表情に、オレは首をかしげる。
課長はその手に、黒い箱のようなものを持っていた。
黒い箱というか……重箱だった。
ナンデスカソレ?
「食べて」
「は?」
「味の感想聞かせて」
「なぜ?」
「いいから食べなさいよ! 彼氏に今度手料理食べさせるって約束しちゃったの!」
「……つまり」
オレは、実験台か。
「いいから食え、モルモット!」
「ごばぁ!?」
顔面に押し付けられる重箱!
痛い、痛い痛い! 歯が折れる、折れちゃう!?
「わかりました、食べます! たーべーまーすー!」
必死で大声を出し、何とか解放されたオレ。
課長は「ならお願いね!」と、ぱぁっと花が開くような笑顔になって去っていった。
そんなわけで、オレは手作り弁当(試作品)を食すことになった。
ふたを開ける。
「……おお?」
意外なことに、ラインナップは普通だった。
ド定番の卵焼き、シャケ、マッシュポテト、生姜焼き、おにぎりetc.
なんだ、美味しそうじゃないか。
オレは珍しくまともな食事にありつけることを喜び、料理へと手を伸ばした。
§§
その晩、オレが変性した異世界で、火山の大噴火が起きた。
モチュピラニア大火山は噴煙と溶岩を吐き出し続け、周辺諸国を焼き尽くした。
さらには海を侵食し、大陸の面積を1割広げた。
これによる死傷者は30万ほど。
火砕流によって一瞬で滅んだ都市もあるぐらいだった。
オレはそれから三日間、
原因は、きっとあの弁当に違いない。
オレは、今日も恨めしい顔で、出社するのだった。
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