オレ、毎日異世界になっちまうんだけど……?

雪車町地蔵

第一話 オレ、毎日異世界になっちまうんだけど……?

 オレは毎日異世界になる。

 意味が分からないと思うが、オレもよくわからない。

 ただ、日中会社で精いっぱい働いたオレが、帰ってきて布団で眠りにつくと──

 あらふしぎ、異世界になっているのである。


 異世界エンガーデン。


 肥沃な大地と、砂漠、寒帯などを持つ巨大な、ひとつの大陸で構成された世界。

 エンガーデンには多種多様な種族が住んでおり、ラノベチックな世界を形成している。

 そんなエンガーデンに異変が起こる。

 エンガーデンの中央を流れる大河、チユグラステ河が大氾濫を起こしたのだ。

 これにより三つの文明が崩壊、23万人ほどの人類が死滅した。

 その原因はひとつ。

 オレが、飲み過ぎたことである。

 今日は週末、上司との飲み会で、勧められるままビールを飲み過ぎてしまった。

 オレはいま、寝下呂を吐いている。

 そう──


 オレは毎日、異世界になっている。


 オレの体調は、異世界の趨勢すうせいを変えるのである。


§§


 早朝、二日酔いという史上最低の体調で目を覚ましたオレは、会社に向かうべく床をナメクジのように這っていた。

 なぜ休日に出勤の準備をしているのか?

 なぜ昼過ぎまで寝ていられないのか?

 その答えはひとぉつ……!

 うちは、休日出勤がデフォだからだぁっ!


 いっつあぶらーく。


 あー、頭が痛いー、のどが渇いたー、そんなことをのたまいながら水道までなんとか辿り着き、おいしくなーい水道水をあおる。

 うん、鉄さびの味がする。

 その後、なんとか起きだし、スーツを着用。バナナと缶コーヒーで10秒チャージし、家を出た。

 満員電車で、汗とワキガと整髪料のにおいに翻弄され、会社へ。

 会社に着きタイムカードを切ると、待っていたといわんばかりに上司の恩名おんな課長が、笑顔で書類の束を持ってきてくれた。

 ありがたいなぁ、涙が出ちゃうなぁと思いながら確認していく。

 淡々と仕事をこなし、休憩時間もなく労働。

 夕方になって、ようやく時間ができたオレは、コーヒーと大豆バーを口に詰め込むと、さらなる労働にいそしもうとした。


 ふと気がつくと、恩名課長が立っていた。


「なんです?」

「ちょっと、お願いがあるんだけど……」

「仕事っすか」

「報酬は出すわ!」

「…………」


 妙に力の入った表情に、オレは首をかしげる。

 課長はその手に、黒い箱のようなものを持っていた。

 黒い箱というか……重箱だった。

 ナンデスカソレ?


「食べて」

「は?」

「味の感想聞かせて」

「なぜ?」

「いいから食べなさいよ! 彼氏に今度手料理食べさせるって約束しちゃったの!」

「……つまり」


 オレは、実験台か。


「いいから食え、モルモット!」

「ごばぁ!?」


 顔面に押し付けられる重箱!

 痛い、痛い痛い! 歯が折れる、折れちゃう!?


「わかりました、食べます! たーべーまーすー!」


 必死で大声を出し、何とか解放されたオレ。

 課長は「ならお願いね!」と、ぱぁっと花が開くような笑顔になって去っていった。

 恩名おんなひとし課長──歴然とした中年男性である。

 そんなわけで、オレは手作り弁当(試作品)を食すことになった。

 ふたを開ける。


「……おお?」


 意外なことに、ラインナップは普通だった。

 ド定番の卵焼き、シャケ、マッシュポテト、生姜焼き、おにぎりetc.

 なんだ、美味しそうじゃないか。

 オレは珍しくまともな食事にありつけることを喜び、料理へと手を伸ばした。


§§


 その晩、オレが変性した異世界で、火山の大噴火が起きた。

 モチュピラニア大火山は噴煙と溶岩を吐き出し続け、周辺諸国を焼き尽くした。

 さらには海を侵食し、大陸の面積を1割広げた。

 これによる死傷者は30万ほど。

 火砕流によって一瞬で滅んだ都市もあるぐらいだった。

 オレはそれから三日間、吐瀉としゃと下痢、なによりも40℃を超える発熱に苦しむことになる。

 原因は、きっとあの弁当に違いない。

 オレは、今日も恨めしい顔で、出社するのだった。

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