右目で見たもの

白神護

右目で見たもの




「うわっ。なんか、右だけ、度、強くね?」


「え? あー、うん、まあね」


「利き目だけ、視力が落ちるってやつ?」


「あー……。まあ、それも多分あるけど……」


「?」


「なんか、変な話になるけど、いい?」


「お、なにさ、なにさー。怖い話ー? いいよ、いいよー。どんどん、話せー」


「まあ、そんなには怖くないんだけどね……」




「むかしさ、小学校の教室に、『穴』があったんだけど……」


「あな?」


「うん。こんくらいの、ビー玉くらいのあな。黒板の下の、膝の高さくらいのとこ」


「へー」


「深さはよくわかんなくて、でも、小指よりは深かった」


「へー、結構深いね」


「うん、深くて、真っ暗で――。でも、一番最初にそれ覗いたやつが、奥の方に何か見えるって言ったんだ」


「へー。……虫とか?」


「それはそれで怖いけど……。で、まあ、みんなも面白がって穴覗いたんだけど、結局誰にも何にも見えなくて、しかも最初に見えるって言ったやつが、お調子者って感じのやつだったから――」


「ああ。その子の冗談ってことになった。と?」


「うん」


「へー……。んで、Hには何が見えたのさ?」


「うーん……、見えたというか、なんというか……」


「?」


「寧ろ、見えなくなった、かな。……穴、覗いてから」


「え、どゆこと」


「何か、一気に視力が落ちたんだよね」


「え、マジ? やばいヤツじゃん」


「うん。だね。……あ、あと」


「?」


「凄いぼやけてたけど、何か、光ってるのがすぐ目の前にあったんだよね。……今まで、誰にも言ったことなかったけど――」



 小学生Hの右目は、一体、何を見たのだろうか。

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右目で見たもの 白神護 @shirakami

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