歩きスマホは危険です

@hakumei

第1話

皆さんは歩きながらスマートフォンをいじることはありますか。私はついついやってしまうのですが、友人の青木さんからこの話を聞いてからは出来るだけやらないように注意しています。



青木さんは当時中学2年生で、部活でバトミントンをやっていました。その日は練習試合が長引いてしまい(しかもその後のコーチのお説教もかなり長くて)、いつもよりだいぶ遅い時間に帰ることになったそうです。学校からの帰りには、大きな公園の脇を抜ける道を通るのですが、この日そこへ差し掛かったとき、様子がいつもと違うことに気がつきました。それもそのはず、いつもこの道を通るのはどんなに遅くても6時よりも前だったので、公園に来た人で賑わっているところしか見たことがなかったのです。しかしこの日は既に公園は閉まっていて道に人影はなく、日もすっかり暮れていて、暗く寂しげな道を照らすのはポツポツと置かれた薄暗い電灯だけでした。いつも通っている道が時間が違うだけでまるで異世界のようで戸惑いましたが、広い公園を迂回して帰るのは面倒だったので仕方なく暗い道を行くことにしました。

公園の形に沿って細かく曲がる道を歩いていると時折、ずっと先が見通せることがあります。そんな時、道の向こうはただ暗く何も見えないはずですが、その闇をじっと見ていると少しずつつ動いているようにも見えて、青木さんにはそれが何か黒くて大きなものが動いているようにも思われました。

そんなわけで前方を見ているとなんだか不気味に思えて嫌だったので、青木さんは気晴らしにスマートフォンでゲームをやりながら歩くことにしました。いつもと変わらぬスマートフォンのゲーム画面を見ていると徐々に心が落ち着いてきて、むしろ中学生にもなって暗い道が怖いなどと思っていた自分がバカみたいに思えてきます。ゲームに集中し始めると辺りの暗さはもう全く気にならなくなりました。


しかし、しばらく進んだところで今度はとある音が気になるようになりました。それは草木をかき分けるような音で、かなり遠くからガサッガサッ、と聞こえたかと思うと、意外なほど近くの茂みからガサッ、ときたりします。

そういうこともある、気にするようなことではない。自分にそう言い聞かせても、こういうことは一度気になると中々止められません。再び暗闇の怖さがじわじわと胸に広がっていくのを感じます。青木さんは慌ててイヤホンを取り出してスマートフォンにつなぎました。


イヤホンをつけようたした時、青木さんはイヤホンを買ってもらう時にお母さんとした約束を思い出しました。「危ないから歩いているときは使っちゃダメだからね。」と、確かそんなことを言われた覚えがあります。そのときは頷きながらも何が危ないのだろうという気持ちでしたが、なぜか今それを思い出したせいで、「危ない」という言葉が気になってイヤホンをつけるのは我慢することにしました。


ガサガサという音は次第に頻度を増すようで、なんとなくその距離も自分に近づいているような気もします。周りを見回すと何かまた嫌なものを見てしまいそうだったので、スマートフォンを見たまま早歩きで進みました。

もうそろそろ家の近くに着いてもいい頃なのに、と思ったその時、前方からザザァというノイズのような音が聞こえ、ハッとして立ち止まりました。目を上げるとそこはもう、道というよりも森の入り口のように草木が生い茂っています。そしてその脇に黒い人影がうずくまるようにして座っていました。

暗すぎてどこかで道を間違えたのかもしれない。でもそんなはずはない。心臓がいつになく速く打っているのがわかります。考えがまとまりません。


黒い人がうずくまっています。人、黒い、人。ノイズがーーー


ザザッ、ザァ


逃げよう。考えるよりも先にそう判断していました。振り返って走り出すと、後ろからザザッザァとノイズが付いてきます。


ザザッ


逃げ切れない。


ザザッザザッーーー


青木さんは無我夢中で手に持っていたスマートフォンを後ろに投げつけました。どこをどう操作したのか、投げられたスマートフォンが一瞬眩しい光を放ち、追いかけてくる気配が少し遠のいたのを感じました。



その後、少し行くと青木さんが知っている道に出ました。それでも安心できずに家まで全力で走ると、その日はそれ以上何も考えずに寝たそうです。


翌日になって青木さんは親にスマートフォンを失くしたと言って、GPS機能で探してもらったそうですが、ついに見つからなかったそうです。

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