第67話 手合わせなのですぅ

「アンタ等、リアナと手合わせしな」


 それはザガンから船で出発してダンガの西の港に到着してダンガを避けてパラメキ国入りしようと国境を目指している3日後の朝食の後、前振りもなくホーラが言い放った。


 アリア達は食後の休憩をしており、テツとリアナが食器類を川で洗って戻ってきたのを見計らっての発言であった。


 言われたアリア達は目をパチクリさせてお互いを見つめ合い、最後にダンテに視線を集中させる。


 所謂、意味が分からないからお前が聞け、である。


 押し出されるようにしてダンテが特に大きな反応を見せずにその場にテツと一緒に座るリアナを横目で見ながらホーラに問う。


「今日の朝の訓練は済みましたけど……鍛えるのが嫌という話ではありませんが今は移動をするべきでは?」


 ダンテの言う通りで『ホウライ』の目論見を潰す。そして、それに対抗する為に残る3か所の訓練所を目指すのが急務であった。


 ホーラもその辺りの事は重々理解していた。


「まあね、ダンテの言いたい事もアタイも理解してるさ。ただね……このまま巡って意味があるかどうかとアタイは疑問を感じ始めてるさ」

「意味はなくはないと思うんですけど……」


 ホーラの言葉に弱々しくはあるが反論するダンテであるが、思い当たる事があるのか俯き気味であった。


「そう言いつつ、ダンテも疑問を感じてるんじゃ? 土の訓練所でダンテとスゥが影響を受けたさ。確かにダンテは土の魔法を操れるようになったが……強くなったかい? スゥに至っては何が変わった?」

「そ、それは……」


 続きの言葉が出てこないダンテと下唇を噛み締めるスゥが拳を握り締める。


 確かにダンテだけに関して言えば選べる手数が増えた事は強くなったという見方も出来るが単純な強さという観点から見れば大きな変化はなかった。


 むしろ、水の加護があるからといっても土の魔法と水の魔法の力に歴然とした差があった。


 スゥなど論外で何も発現してないから変化なしで間違っていない。


「それと私達とリアナが手合わせするのにどんな理由があるの?」


 悔しい気持ちを押し殺してスゥがホーラに問いながら我関せずとお茶を静かに飲むリアナを睨むように見つめるが返された言葉はスゥが求める答えではなかった。


「知る為さ。アタイが考える推測の補完にならないといいな、と思ってはいるけどね」

「どういう意味ですか?」


 問いかけるダンテの言葉にホーラはそのままの意味だと告げる。


 困惑するアリア達を見渡すホーラは質問する。


「さて、どうするさ? やる、やらない?」

「わ、分かったよ! やってやる! まずはアタシから……」


 真っ先に名乗りを上げるレイアをチラッとだけ見たリアナは静かに立つとアリア達に顔を向ける。


「全員でどうぞ。安心してください、ちゃんと手加減はして上げますから」


 挑発的な発言にアリア達は勿論、普段おとなしいダンテですら顔色を変えて立ち上がる。


 澄ました顔をするリアナに指を突き付けてレイアが叫ぶ。


「テツ兄達ならともかく、でかい口を叩いた事を後悔させてやるっ!」







 少し拓けた場所に移動したアリア達は離れた所で本を開いて静かにこちらを見つめるリアナを睨みつけていた。


 アリア達はダンテを中心に集まり、リアナの動向を確認しながら作戦会議をしようとするがリアナが先に口を開く。


「しっかり作戦会議をして頂いて結構です。当然、こちらに注意を払わなくても何もしません。終わるまでホーラ姉様に開始を宣告しないようにお願いしております」


 そう言われてレイアが地団太するようにして苛立ちを示す。


 リアナが言うように判定役をするホーラは両腕を組んで目を瞑っているし、背後にいるテツとポプリもリアナの言葉に反応らしい反応を見せてない事から3人は話が通っている事を示していた。


「む、むかつくぅ!」

「あの子、本気で言ってる。心の色に迷いも偽りもない」

「どこまで自信があるの?」

「自信、強さの証明、アイツ強い」

「うん、僕もミュウの言う通りだと思う」


 頭にキテるアリア、レイア、スゥがダンテに言い募ろうとするが掌を広げて止める。


「聞いて。僕も初めは頭に血がのぼったけど落ち着いて考えるとホーラさん達もそれだけの口を叩く実力があると見てると思うんだ。そうじゃなかったら手合わせをさせると思えないんだ」


 そう言うダンテがリアナの情報が乏しいから気付いた事を伝えて欲しいと告げる。


 言われたアリア達は顔を見合わせ、首を捻り始める。


「……テツさんと一緒に行動した時に今、持ってる本の文字をなぞる事で魔法を発動してたみたいなの。光文字に近いかも……」

「まだ短い間しか一緒にいないから確実性はないけど、心を平静に保てる術を心得ているみたい。心の色が濁る事が少ない」

「僕と同じで魔法使い寄り気味のタイプかな?」


 アリアとスゥの意見を受けて後衛タイプと予想を立てるダンテであったが隣にいたレイアとミュウがその考えを否定するような答えを告げる。


「いや……アイツもデンと同じで歩行を使える……と思う。歩き方が普通の人とは違う」

「アイツの筋肉、早く動ける人と同じ」


 リアナは足音もさせずに普段もその歩き方をしていたのをレイアは気付いており、ミュウもリアナの肉付きからスプリンタータイプの筋肉の持ち主だと見抜いていた。


 4人の意見を纏めるダンテは頭が痛そうに抱える。


「ちょっと待って、誰の情報が間違っているの? 間違ってないとしたら完璧超人なの?」

「これは危険だけど藪を突いてみないと分からなさそうだよ。まずはセオリー通りに」


 そう言うダンテに頷いてみせるアリア達。


 リアナに向かってアリア達が身構えるのを見たリアナは微笑を浮かべて「作戦会議は済みました?」と質問してくる。


 質問されたアリア達は緊張気味に頷く。


 頷くのを確認したリアナが目を開いたホーラに「お願いします」と告げると黙って片手を上げる。


 その行動で更にアリア達は警戒度を上げる。


 そして、上げた手をホーラは振り下ろす。


「では、手合わせ開始!」


 開始と同時にアリア達は行動を開始し、リアナは余裕を感じさせる笑みを浮かべてアリア達を迎え討つ体勢になった。

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