第48話 両方の実を拾えない? 落ちた方も3秒以内ならセーフなのですぅ
市場から少し外れた店を狙い打ちするように買い物をしていくホーラ達は目立たないように歩いていたが荷物が多くなり、テツに担がせている事により、どうしても目立ち始めていた。
特に挙動不審な行動をしてる訳ではないが、背が高い方といえど、常識的に細身のテツが苦なく持てるような量の大きさではなくなってきた為であった。
周りの目が気になりだしたホーラがテツに告げる。
「さすがに目立ってきたさ。後はかさばるけど重いものじゃないし、借りる予定のソリに乗せればいいしね。テツは先に昼間の岩場にいっとくさ。後はアタイがやっとくから」
アリア達がホーラ達と合流する気であれば間違いなくいるはずだから、と告げられたテツは頷く。
「そうですね、重さは何でもないですが、これ以上持ち歩くと注目浴びますね。分かりました、遠回りしてアリア達と合流します。まだアリア達を探してるかもしれませんから」
ホーラを見つめるテツが「先走ったり、無茶はしないでくださいね?」と心配そうに言うのに眉を寄せて肩を竦める。
先日、失態を晒したばかりのホーラは分が悪いとばかりに不承不承なのを隠さずに頷く。
そんなホーラに苦笑いを浮かべるテツはこれ以上、口にしてへそを曲げられたら困ると判断したのか「先に行ってますね?」と告げ、会釈をするとホーラから離れて外に出る為に城門を目指した。
当然のように去っていく弟、テツの腹の内を理解してしまい、余計に惨めな気持ちにされ、下の子達の前では絶対に見せない仕草、口先を尖らせる。
ホーラが悔しい時にこの表情を見せる相手は雄一と後はポプリぐらいしか見られないレアな表情をしてしまうほどテツが言葉にしない気遣いが成長を感じさせると共に自分の成長が身長と共に止まってしまったような錯覚を感じる為である。
「テツのクセに生意気さ……でも、アタイはあの時から立ち上がっただけで前に進めている?」
久しぶりに誰も知ってる者がいない場所で1人になったホーラは自問自答をしてしまう。
考えに更けそうになるホーラであったが被り振る。
「考えてる場合じゃないさ。まだまだ用意するものがあるっていうのに……」
自問自答の解が出る事を嫌うホーラ。
その答えに行き着くとまた座り込んでしまうストリートチルドレンであった無力な少女に逆戻りするような恐怖からホーラは目を逸らすように次の買い物ををすべく足早に路地裏に歩を進めた。
それから、いくつかの店を巡り、布を広げて見ていたホーラの耳に店主と嬉しそうに話し込む客の会話が飛び込んでくる。
「おいおい、聞いたかよ。魔物討伐は明後日の早朝からって?」
「情報が古いな? 今はその前の晩に生贄のリアナ王女を祭壇に配置するってのが最新情報だぜ?」
客の情報の鮮度にたいして自分の情報の方が新しいと分かると自慢げに語り出す店主の内容に嬉しそうに驚きを見せる客。
それを聞いていたホーラは想像以上に時間が差し迫っており、あの時、クロで移動する事を反対しなくて良かったの内心、胸を撫で下ろす。
ホーラは布を選別してる素振りをしながら少し近づき、聞き耳を更に立てた。
「でもよ、その情報は確かか? 生贄は必要ないと言ってなかったか?」
「それがな、どうやら生贄を食べる前に倒しても時間と共に蘇る事が分かったって『あの方』が言ってるそうだ」
『あの方』という言葉にホーラは眉を寄せる。一瞬、国王の事かと思いもしたが、『あの方』と呼称する必要がない。
デングラの話でも王族の権威はガタガタになりつつあると言ってた事を思い出す。
情報を整理するホーラを余所に2人の会話は進む。
「それはそうと、何故、王国軍が最初に討伐に動くんだ? 『あの方』が動けば解決じゃ?」
「どうも、『あの方』が現れた事で若い連中が力になりたい、と意気込んで討伐隊の志願者多数集まったものだから、国王がどさくさに紛れて、それを理由に先にさせてくれ、と言ってきたのを飲んで下さったらしい」
後詰で『あの方』が来てくれるらしいから死人も出ずに終わる、と笑う店主に「違いない」と笑う客。
「さすがは、ゆ……もごもご」
「しっ! 馬鹿、事が終わるまで『あの方』が国の者以外には伏せるようにって仰ってただろ!?」
慌てて辺りを見渡し始める2人の視線が間が悪い事にホーラに集中する。
客が少ない店を選んでいた事が裏目に出た瞬間であった。
しかし、長い事、リホウから経由される仕事などで潜入などをこなしてきたホーラは慌てずに2人に花が綻ぶような笑みをしてみせる。
それに照れたのか、疑いの視線を向けた事に罪悪感を感じたのかは定かではないが頭を掻きながら視線を外す。
2人の疑いの対象から外れた事に安堵の息を内心吐く。
こういう場合、慌てて目を逸らすより、自然な笑みを見せる事で後ろめたくない、悪意がないと示すのが効果が高い。
ガラの悪い人や異性、特に女性の方に目を向けていた男性が目があった時など思わず慌てて目を逸らしたくなるだろうが、微笑を浮かべて目礼した後にソッと目を逸らすと相手の注目から外れやすい。
それでも絡んでくるのは初めから絡む気だった相手ぐらいだろう。
ホーラに対する疑惑は払拭はされた様子であったが、続きを話す気を失くした様子の客が「またな?」と告げて出ていく。
残ったホーラも気紛れで店主に話しかけられたら面倒だと思い、手早く買い物を済ませると足早に店を後にした。
店外に出たホーラは店の方に目を向けながら独り言を口にする。
「色々と余裕がなさそうさ……久しぶりだから少し練習したかったけど……」
ホーラは肩を竦め、次は貸しソリを手配する為に歩きながら『あの方』という人物について考える。
2人の敬意を払う様子と絶大の信頼を寄せる『あの方』という存在が気になり、調べる必要があると感じるホーラ。
しかし、時間が差し迫るこの状況、優先順位としては命が関わるデングラの妹と思われるリアナの救出であるが、『あの方』が少なくとも敵か味方か分からないとリアナを救っても四面楚歌になりかねない。
どっちも切り捨てるのは危険、しかし、ホーラとテツがばらけるの頂けない。
リアナを救うだけであれば、それでも問題はないのだろうが、2人が口にしてた内容を信じるならば、ホーラ、テツ、どちらの単体で向かえば最悪の可能性があるとホーラは判断する。
いくら考えても両方の実を取る術は1つしか思い付かなく、苛立たしげに髪を掻き毟るホーラ。
「……アリア達にリアナ王女救出を任せるしかない……か。凄まじく不安だけどこれしかなさそうさ」
溜息を吐くホーラの視界に貸しソリ屋の看板が目に入り、悩むのを後廻しにすると決めたようで店に入るべくホーラは真っ直ぐに向かった。
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一方、ホーラ達の帰りを待つアリア達は朝を迎え、姿が見えない相変わらずマイペースなミュウが散歩に出かけたらしいと判断して残るメンバーが頭が痛いとばかりに額に手を当てる所から始まった。
「隠れてる自覚あるのかよ!」
「ミュウだからとしか言えない」
「俺様が思うに……ミュウは馬鹿なのか?」
「デングラに言われたら可哀想、と思わなくもないの……でも否定も出来ないの」
辛辣な意見出る現場にダンテは弱った笑みと乾いた笑い声を洩らす。
「ミュウに潜入捜査は出来ないね……気配を消すのは僕達の中で一番上手いけど、ホーラさんがミュウを追いだしたのは正解だね」
諦めるように言うダンテはみんなに「食べれる内に食事を済ませておこう」告げると嘆息するアリア達は頷き、各自、保存食を齧り始める。
美味しいと言えない味気ないモノか、極端に味が濃いモノしかないのを水で流しこむ。
本当なら火を通した食事をしたいところであるが、先程の話ではないが追われる身であるアリア達が火をおこしてられない。
水筒の水が乏しくなり、みんなはダンテに水魔法で補充をお願いする。
アリア達、ミュウを除く、は生活魔法をしっかり使える。
生活魔法の水を出せるが実は飲めるが美味しくない。はっきり言うなら不味く、温いといった状況の為、湧水のような水を出せる水魔法に頼りたい、という一般的である。
しかも、ダンテの水魔法の精度は高く、その美味しさと水温が長持ちするのでアリア達は可能な限り、ダンテに詰めさせるのは道理であった。
ちなみにミュウは生活魔法の風と火種程度の火しか使えない。適性がないのではなく学習する気がないのである。
ダンテがアリア達に手渡された水筒に水を補給していると散歩に出ていたミュウが帰ってきた。
「どこに行ってたんだよ、ミュウ!」
「テツ、来た」
ミュウに詰め寄るレイアが文句を言おうとするがミュウはそれをあっさりと無視して背後を振りむいて指をさす。
出鼻を折られたレイアであったが待ち人の1人、テツと聞かされるとミュウの指差す方向に目を向ける。
同じように立ち上がったアリア達もその先を見つめると大荷物を背にするテツが手を振ってこちらに向かう姿を捉える。
アリア達は嬉しそうな顔を見合わせると声を張り上げる。
「テツ兄っ!!」
待ってられないとばかりに手を振るテツの下に走り出した。
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