第35話 がぅ、ムリ? 無理は通すモノ! ところで何の話なのですぅ?

 ホーラ達に挨拶した梓が可愛らしく頬を膨らませながら『ホウライ』に無防備に背を見せてテツに話しかける。


「もう、テツ君はウチと第一契約を済ませたから体感で喚べるって分かってたでしょ? 武器のままで漏れる力だけじゃ1割も力を振るえないですよ?」


 直撃は梓のおかげで免れたが、体力が尽きかけ、膝をつくテツの頭を御幣でツンツンとする。


 それに弱った笑みで応えるテツがゆっくりと立ち上がる。


「はっはは、忘れてました。でも出てきてくれて助かりました」

「もうっ! テツ君は本当に嘘吐きですねぇ。それでも、男の子するテツ君に加点ですよぉ。テツ君がウチを呼ばなかった事も何も悪い事ばかりではなかったですしねぇ。自分で出る為に時間がかかってる最中にけんに廻った事で1つ気付いちゃいました」


 クスッとテツを好意的に見つめる梓は背後から『ホウライ』に魔力弾で不意打ちをされるが慌てた様子を見せずに後ろ手で御幣を振って明後日に吹き飛ばす。


 あっさりと弾き飛ばされた事で驚く『ホウライ』。


 何も驚いたのは『ホウライ』だけでなく、ホーラ達も同様に驚いた。


 そんな、みんなに笑う梓は御幣を胸元で抱えるようにして得意げに言ってくる。


「これでもウチは護の剣『梓』ですしねぇ~、とはいえ、神の力をこんなにあっさり祓えたりはしません。そのカラクリはぁ~」


 梓は御幣を『ホウライ』に突き付ける。


「貴方のその体、まだモノにしてないですねぇ? 力を使う度にブレが出始めて元の体の持ち主に抵抗されてるんじゃないんですかねぇ……今の貴方は本来の力の何割使えます?」


 不敵に笑う梓に舌打ちをする『ホウライ』は僅かに震える掌を握り拳にする事で抑えつける。


「そうか! 道理で僕達の力が通用すると思った。一撃で勝負を決めないのもアリアの身を案じただけかと思ってたけど違ったんだ! つまり、梓さんの言葉通りであればヒースのお父さんから『ホウライ』を引き剥がせる!?」

「ん~、可能かも。私が『ホウライ』から土の精霊力を奪えば、均衡を狂わせてしまえば何とかなるかな?」


 梓の言葉に反応するダンテが言う可能性を未だに寝っ転がったままのティリティアが面倒そうに答える。


 離れた位置で倒れていたヒースが震える腕で身を起こしかけながら質問する。


「それは本当ですか……ティリティアさん」

「多分だけどね」

「それはそうと、いつまで寝っ転がってるさ!? アンタも戦力になるんだから戦いな!」


 コメカミに血管を浮かび上がらせるホーラがティリティアの顔を踏もうとするが、その足を掴み、必死に押し返そうとして事情を早口で伝える。


「私、サボってない。土の邪精霊獣が死ぬ間際に呪いを振り撒こうとしたのを一身に受けた私は感謝されてもいいはず!」


 そのせいで能力が封印されて、しばらく力が使えない、と言ってくるティリティアに舌打ちするホーラ。


 盾越しに『ホウライ』を見つめるスゥが質問する。


「しばらく、ってどれくらいなの?」

「んん~、2時間ぐらい?」


 絶望的な時間を告げられたホーラ達は苦虫を噛み締めたような顔をする。


 ただでさえ、真正面から戦っても勝ちを拾えないと思われる『ホウライ』を痛めつけて動けない状態に抑えつけないと勝ちはないという無茶ぶりなルール。


 しかもそれを2時間という時間を『ホウライ』との攻防を繰り広げないといけない。


 ホーラ達は迷い、ヒースは悔しげに地面を叩くなか、テツがポツリと告げる。


「これはいい情報でした。勝利条件が1つから2つに増えたんですから」


 笑みを浮かべるテツに何を言ってるんだ? と言う表情でホーラが見つめる。だが、梓が誇らしげにテツに同意する。


「さすがウチの主人! 攻める事しか考えてない。守りはウチがする、まさに共同作業!」


 何やら変なニュアンスを感じ取るホーラだが、どうでもいいとばかりに流す。


「はぁ……ただでさえ、止まる事を知らない馬鹿が加速させる馬鹿を味方に付けたさ? でも、やる以外に道がないのも事実」


 魔法銃を懐から取り出し、弾が装填されているのを確認し、残弾を確認する。


 アリア達も覚悟を決めたように身構えるのを見たレイアが弱々しい声で言う。


「み、みんな逃げろ……アタシがお父さんを説得してみせるから……」

「がぅぅ、ムリ、レイア、嘘良くない」

「そうなの、レイアにそんな器用な真似出来ないの!」


 即答でミュウに否定され、被せるようにスゥに駄目だしされるレイアに姉であるアリアが告げる。


「レイアの言葉が届くぐらいなら世界を犠牲にしてない」


 淡々というアリアの言葉に悔しそうにするレイアを辛そうに見つめるダンテが何かに気付いて声を張り上げる。


「魔力が練られ始めてる、散開!!」


 その言葉に反応するホーラ達は散開を始め、固まっていたホーラ達を吹っ飛ばそうと考えてた事が出来なくなる。


 舌打ちする『ホウライ』を囲うように立つホーラ達を睨みつけ、ダンテに掌を向けると魔力弾を放つ。


 ダンテがそれを受け流そうと水の膜を生み出したと同時にテツとヒース以外のメンバーが飛び出し、『ホウライ』との戦闘を再開する。


「一気に倒そうとしないでいいさ! 力を使わせ続けたらいいって忘れるな!」


 ホーラの指示に返事するアリア達は牽制を主で戦い始める。


 それに苛立つ『ホウライ』がアリア達の攻撃を凌ぎながら眉を寄せる。


「くぅ……このまま粘れは万が一があるか……今回は土の邪精霊獣の力を奪っただけで良しとするか……」


 未練たらしくアリアを見つめた後、掴んでいたレイアを魔法銃を構えるホーラに目掛けて投げ放つ。


 一瞬、避けようかという考えもホーラに過るが、万全じゃないレイアが受け身が取れるか分からない為、魔法銃を放り投げると両手を広げてレイアを受けようとする。


 だが、見た目以上に勢いがあるレイアと一緒にホーラは後方の壁に向かって飛ばされる。


「ちっ! 魔法で勢いを付けられてるさ!」


 飛ばされながら、ホーラは付加魔法の逆の解除魔法を行使する。


 しかし、加速は止まるが勢いまでは消せないので叩きつけられる覚悟を決めて歯を食い縛る。


「ホーラさん!」


 そう叫ぶダンテがホーラと壁の間に水牢を生み出して緩衝材代わりにする。


 水牢のおかげで衝撃を緩和されたホーラは壁に叩きつけられたが咳き込む程度に済む。


 それに安堵するアリア達を余所にテツが『ホウライ』に肉薄する。


「逃げるつもりか? 逃がさん!」


 斬り込むテツに先程までは片手だったので防戦一方であった『ホウライ』が攻勢に出る。


「お前等の相手などしてる暇がないだけだ!」


 下から掬いあげるように魔力弾をテツの腹部に叩きつけようとするが青き風が『ホウライ』の腕の動きを阻害させ、狙いをずらさせる。


「ちぃ! 厄介な奴等めっ!」


 守る事を捨てたテツが攻撃に専念し、守る事を主とする梓がテツを守る。


 お互いの動きを阻害しない2人を相手にするのは、やり難いを通り過ぎて、やり合いたくない。


「こうなれば!」


 突きを放つテツの攻撃をワザと受ける『ホウライ』。


 『ホウライ』の狙いに気付いたテツが顔を強張らせる。


「いくら、お前でもゼロ距離では防げんだろ!」


 テツの腹に掌をあて、魔力弾を放つ『ホウライ』の攻撃をモロに受けたテツは地面を舐めるように転がる。


 狙い通りにいった事で気が抜けた瞬間、テツがいた方向から栗色の髪の少年が飛び込んでくる。


 ヒースである。


 見えない剣を大上段に構えるヒースが叫ぶ。


「次は止めません、ごめんなさい! お父さん!」

「くそう!!」


 振り下ろしたヒースが持つ見えない剣は『ホウライ』が生み出したシールドで拮抗を見せるかと思ったがすぐに乾いた音と共に破壊する。


 アリア達が見守るなか、ヒースがその勢いで目を瞑って斬りかかる。


 シールドを割った事で生まれた時間で『ホウライ』は回避行動に移る。


 肩を狙っていた攻撃は移動された事で肘の位置に当たり、『ホウライ』の絶叫と共に腕が斬り落とされる。


 斬った瞬間にヒースは酷い脱力感を覚え、手にあった見えない剣も消える。


 『ホウライ』の目の前で両膝を着いてしまうヒースを血走った目で睨む『ホウライ』が掌を向ける。


「よ、よくもやってくれたな!! せめて、使い手だけでも始末する!」


 向けられた掌から今までで一番、強い力を込める『ホウライ』。


「水よ! ヒースを守って!!」


 ダンテがヒースと『ホウライ』の間に水壁を作るが作った本人ですら気休めにもならないと分かるが魔力を送り続ける。


 アリア達も間に合わないと分かりながら走り出すがテツはやっと立ったところで、ホーラは慌てて胸倉を漁るが舌打ちをして前方を見つめる。


 そこにはレイアを受け止める前に放り投げた魔法銃があり、使う事ができない。


 ヒースは恐怖から、身を守るように顔の前に両腕を翳す。


 それを待っていたかのように嗤う『ホウライ』が「死ね」という言葉と同時に魔力波を放つ。


 強い光が掌から生まれたと同時にヒースの前に1つの影が間に入る。


 放たれた魔力波を間に入った影、初老のドワーフが受け止める。


 目の前に居る者が誰か分かったヒースが悲痛の叫び声を上げる。



「爺ぃぃ!!!」

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