第34話 初めまして! 挨拶は大事なのですぅ
飛び出したテツは青いオーラを筒状、弾丸のような形に覆うと真っ直ぐに『ホウライ』に特攻をかける。
その背後に立つヒースはテツの青いオーラに引き寄せられるようにして追走する。
突撃するテツを見る『ホウライ』はテツを放置してレイアを始末しようとすると痛手を被ると判断して振り被ろうとしてた手をテツに向ける。
掌から生み出される凶悪な魔力の塊をテツは恐れもしないように雄叫びを上げながら突っ込み、ぶつかり合う。
「うおおぉぉぉ!!」
「クッ!」
予想したよりテツの特攻力が勝っていたようで、眉間に皺を寄せる『ホウライ』をテツの背後で見つめるヒースは「凄い……」と呟く。
神でもある『ホウライ』に拮抗する事もあるが、何より、先程の放たれようとする魔力にも恐れずに突っ込めるテツの覚悟にヒースは慄く。
「いや、僕を助けようとした時だって……」
躊躇せずに飛び込んで土の邪精霊獣から助けてくれたテツを思い出す。
テツと『ホウライ』の力の拮抗から生まれる衝撃波に吹っ飛ばされないように耐えながら、ヒースはテツの背を見つめる。
恐怖しない、いや、恐怖を乗り越えられるテツの秘密を知りたいと衝動に駆られるヒースであった。
ヒースがテツを見てるなかも拮抗が続けていた2人であったが、相殺させるようにお互いに距離を取る。
荒い息を吐きながら立ってるのがやっとにしか見えないテツを見つめる『ホウライ』が呻くように呟く。
「死に体のその様でそれだけの力を出すか……お前は今後、障害になり得る」
はっきりと敵と認識した『ホウライ』は何を念じるようにすると周辺に数十本の刀剣をどこからか取り寄せると宙に浮かせる。
それに目を険しくするテツにザバダックが叫ぶ。
「エルフの坊主、気を付けろ! ご主人の技の『ソードダンス』が来るぞ!」
ザバダックの言葉に目を見開いたテツに『ホウライ』は手を振り下ろす。
それが合図になったかのように一斉にテツに襲いかかる刀剣達。
「全て叩き折ってやる!!」
遅い来る刀剣達をテツは梓を乱打させるようにして砕き折っていく。
しかし、テツの処理速度を超えさせる為に『ホウライ』は刀剣を増やしていく。
徐々に増える数にテツの剣戟を縫って通り抜ける刀剣がテツを浅く切り裂き始める。
その攻撃に眉を寄せるテツを見たヒースが手伝おうと前に出ようとするがテツが叫ぶ。
「出るなっ! 『ホウライ』の目的は君だ、ヒース。詳しい事は分からないが、君を引きずり出す為に一気に増やさないんだ!」
「えっ!? でも、このままじゃ!」
ヒースが何か言おうとするがテツとて、そんな事は分かり切っていた。
だが、テツは焦らずにヒースに笑みを浮かべる。
「大丈夫さ、ほら?」
テツがそう言った瞬間、テツと『ホウライ』を挟むように土壁が生まれる。
「――ッ!」
その土壁に『ホウライ』が生み出した刀剣達が突き刺さって止まる。
意表を突かれた『ホウライ』が固まる背からホーラが叫ぶ。
「テツばかりじゃなくてアタイ等も相手にして欲しいさ!」
引き絞ったパチンコを放ち、防ごうとする『ホウライ』の手より手前で爆発して視界を防がれる。
その爆煙の中からスゥが飛び出してきて『ホウライ』に盾を叩きつけるが少し体勢を崩させる事しか出来ずに戸惑い気味な相手に拮抗するのがやっとの状況であった。
悔しげに押す力を込めるスゥの背後から突然現れたアリアが『ホウライ』の脳天をカチ割るとばかりに手加減なしのモーニングスターを放つが受け止められる。
アリアを見つめる『ホウライ』は嬉しそうに嗤う。
「お前から近寄るとは思ってなかったぞ?」
「ア、アリア、逃げろ……!」
首を締められて苦しいはずなのにレイアがアリアを案じて逃げるように言うが口をへの字にしたアリアが強い視線を『ホウライ』に向ける。
「2人共、私を馬鹿にし過ぎ。貴方はいつまでも私達を見縊っていればいい」
「ん?」
アリアの様子がおかしいと思った『ホウライ』の背後から突然に生まれる殺気に気付いたと同時に絶叫する。
またもや忍び寄ったミュウが『ホウライ』の背後から短剣2本を突き立て、そのまま下へと切り裂いた。
『ホウライ』が背後に居るミュウを殴り飛ばそうと裏拳を放つが、予想していた事もあるが、今の攻撃で動きが鈍くなっていた『ホウライ』の攻撃を受けるようなドジなミュウではなかった。
痛みとまんまとやられた怒りからか、目を血走らせる『ホウライ』がアリアとミュウを交互に睨む。
「何度も同じ手に引っ掛かる。本当に愚か」
「がうぅ!」
プルプル震える「ホウライ』が叫ぶ。
「これぐらいで対等になったつもりか! お前等、ひよっこにやられる私ではない!」
叫ぶと同時に『ホウライ』から噴き出す魔力の波動に危険を感じたミュウは距離を取り、スゥはアリアを庇うようにアリアの前で盾を構える。
叫ぶ『ホウライ』から目を逸らさないホーラがテツの名を呼ぶ。そして、姉弟の一瞬のアイコンタクトの後、2人は頷く。
テツは背後にいるヒースに告げる。
「今に目の前の土壁が消える。俺のカウントダウンを聞き逃すな!」
「えっ? えっ! あっ、はい!」
前傾姿勢になるテツが先程と同じように青いオーラで作る弾丸のようなモノを体に覆い、カウントダウンを始める。
『3』
『2』
『1』
「GO!」
テツが飛び出した瞬間、土壁が崩れる。
まるで、崩れるタイミングを知っていたかのように……いや、姉弟であり、長い間、コンビを組む相棒である2人には阿吽の呼吸を合わせるのは造作もなかった。
崩れる土壁から飛び出してくるテツに驚く『ホウライ』に肉薄するテツはレイアを掴んでない右手を梓で叩き払う。
右手ごと後方に弾き飛ばされそうになる『ホウライ』。
「ヒース、今だ!!」
「はいっ!」
テツの背後から現れたヒースが唐竹割りするように大上段から構えて見えない剣で斬りかかろうとする。
そんなヒースを『ホウライ』が口の端を上げて笑みを作ったと思った瞬間、感情を消したような顔になる。
「ヒース、俺を斬るのか?」
「――ッッ!」
ヒースが良く知る父、ノースランドが話しかけるように言ってくるのを見て、振り下ろしかけてた見えない剣を思わず止めてしまう。
「ヒース、止まったら駄目だっ!」
止まったヒースにニヤリとイヤラシイ笑みを浮かべた『ホウライ』は廻し蹴りをして吹き飛ばそうとする2人の間にダンテが水の膜を張り、威力を減殺させる。
吹き飛ばされたヒースが呻き声を上げ、動けなくなっているが死んでないのを見つめ、小馬鹿にする。
「親離れ出来てないガキで助かった」
そして、突撃した後を考えてなかったテツの無防備な背中に『ホウライ』は魔力弾を放つ。
魔力弾がテツに直撃したようで、爆発が起きる。
クックク、と嗤う『ホウライ』はホーラ達を見つめて楽しそうに肩を揺らす。
「よし、これで脅威に思える要因の2つは沈黙させた。その女1人では脅威にならん」
『ホウライ』に指を突き付けられたホーラは舌打ちするが、アリア達など、油断から手傷を負わされるのが関の山と相手にされていない。
一歩、『ホウライ』がホーラ達に近寄ろうとすると背後から少女の声がして足を止める。
「まったく、テツ君はウチがいないと駄目ですねぇ? まあ、ウチは尽くす系ですから簡単には見捨てたりはしませんけどぁ、もっと頑張って欲しいところですよ?」
この場で聞いた覚えのない声に『ホウライ』が慌てて振り返ると自分が放った魔力弾で生まれた煙の中からテツを庇うように巫女服姿の黒髪にリボンをする少女が現れる。
手にする御幣を左右に振る少女がホーラ達を見渡してペコリと頭を下げる。
「初めまして、ウチの名前は梓。テツ君の災厄を祓い清める者ですぉ」
声音は頼りなさげであるが、可愛く首を傾げ、微笑む姿は大和撫子のように1本筋が通った強さを感じさせる姿にホーラは口許を綻ばせた。
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