第26話 帰ってくるのが遅かった? オヤツなんか食べてきてないのですぅ

 ホーラは扉を閉めると扉が消えたのを見て眉を寄せるが進行方向に扉が生まれたのを見て強がるように鼻を鳴らす。


 辺りを見渡しても、その扉以外に目に付くモノがないので仕方なしに扉に向かい、押して開いた先にはニコニコ笑うマサムネがいたのでホーラは当然のようにマサムネを殴り飛ばす。


「うわぁ! って実際には殴れないから痛くないのに君の目が怖くて反射で痛がっちゃったよ!」


 そんなマサムネを無視して辺りを見渡すとそこは入ってきた場所と同じ所に見える。


 まだ文句を言っているマサムネの掴めないが胸倉を掴むようにする。


「どういう事だい、さっきと同じ場所に見えるさ? 何か本当にしたのかい?」

「ちょっと待って、苦しくないはずなのに圧迫感が凄いんだけど……」


 ホーラの目が剣呑な光を宿すのを見たマサムネが慌てる。


「分かった、分かったよ! 説明するから。まず、ここはさっきの部屋じゃない。その隣の部屋だよ。何もしてない訳じゃない。ちゃんと土の邪精霊獣の畏怖の抗体は刷り込ませ済みだよ」


 納得はいってない感じのホーラだったがマサムネを押しやるようにするとふらつくマサムネが「何なの、この子! 僕、立体映像なんだけど!」と戦慄を感じていた。


 自分以外がまだ出てこない事をマサムネに聞こうとした時、扉が開く。


 開かれた扉からはピンク色の髪のミュウが姿を現す。


 ホーラを視認すると「がう!」と手を上げて近寄ってくる。


 ミュウから少し遅れてヒース、ザバダックが出てくる。


 ヒース達がホーラが受けた説明を受けているなか、ホーラは扉を見つめ続けても現れない4人、アリア、レイア、スゥ、ダンテについてマサムネに問いかける。


「どうして、あの4人が姿を現さないさ?」

「そういえば、おかしいですね。僕より先に4人は入ったはずなんですけど?」


 ヒースの話ではレイアに至ってはホーラの次に入ったそうだが、姿を見せてないようだ。


 マサムネはホーラの質問に少し嬉しそうにする。


「1人ぐらいいたらいいな? と思ってたけど4人とは凄いね……ああ、待って! むしろ、良い事だから胸元に入れた手を何も掴まずに出してね!?」


 迷わず、胸元に仕舞っていた魔法銃を取り出そうとしたホーラに慌てて牽制するマサムネ。


 舌打ちしながら仕舞うホーラにガリガリと精神を削られるマサムネは溜息を吐くと説明を始める。


「さっき言ったよね? ここだったら土の才能があれば開花させてくれるって? しかも、ここで開花させる反応を示すというのは、その道の達人になれる素養を意味するんだ、凄い事だよ?」

「つ、つまり、素通りした僕は土の才能はない?」

「まあ、頑張れば人並みはあっても、それ以上はないかもね」


 ガッカリするヒースに「まあ、絶対ではないし、それを覆した例もある」と慰められて少し持ち直す。


「でも、他の『訓練所』に行けば……」

「まあ、ないとは言わないよ?」


 ヨシ! と気合い入れるヒースは良く理解してないミュウに背中をバンバンと叩かれる。


 それを見守るマサムネは隣で考え込むホーラに残念そうに告げる。


「残念だけど、君はどこの『訓練所』に行っても開花される事はないよ」

「それはアタイに魔法の才能が乏しいからとでも?」


 鋭く目を細めたホーラがマサムネを射抜くように見つめるが、マサムネは悲しそうな顔をして首を被り振る。


「確かに、君は魔法の才能は乏しいだろう。それは魔力感知器からの反応からでも分かる。でも、それが理由じゃない」


 魔法感知器? と眉を寄せるホーラだが、土の邪精霊獣と戦う為に色々出来る場所なのだから何があっても不思議ではないと飲み込む。


「じゃ、何故さ?」

「良く思い出して欲しい。ここは昔の人に『訓練所』と呼ばれたんだよ? あの子達のように未熟な子達なら、ともかく、あの子達よりいくつも壁を超えている君には意味がないんだよ」


 マサムネが言うには最初の壁を強制的に壊して、才能を自覚させるのが『訓練所』と呼ばれる所以だと言われ、ホーラは舌打ちする。


「才能が開花したとしても未熟なのは未熟なまま、君の足下にも及ばないよ」


 そう言うと扉の前で胡坐を掻くミュウとその隣で立ちながらアリア達の帰りを待つヒースのところに移動するマサムネ。


 その後ろ姿を見つめるホーラは苦々しく呟く。


「それでもアタイは強くならないといけないのさ……」


 強く拳をホーラは握り締めた。





 それから1時間ぐらい経った頃、最初にスゥが出てきて、少し遅れてダンテが扉から出てくる。


 帰ってきた2人をミュウとヒースが歓迎するが2人、スゥとダンテは顔を見合わせてキョトンとする。


「ほんの数分、顔を合わせてないだけで大袈裟なの?」

「そうだよ、どうしたの、ヒース?」


 そう言われたミュウは「がぅぅ?」と首を傾げて唸り、間違ってるの自分? という具合に目を白黒させ、ヒースは背後にいるマサムネにどういう事か問いかける。


 問いかけられたマサムネは悪戯成功と言わんばかりに楽しげにしながら説明をしてくる。


「入る前に説明した土の属性の力を魂に流し込むって話を覚えている? 適性がある子はそれを受けて魂の力が加速させられて、時間の感覚がおかしくなるんだ。2人は数分だと思ってるけど、実際は1時間ぐらい経ってるよ?」


 マサムネの言葉にスゥとダンテはビックリして目を大きく見開く。


 そう言われても実感が伴わない話に困っているのを見て、マサムネがダンテに近寄る。


「君が一番、分かり易い成長をしてるね。あの壁に土の初級魔法を打ってごらん?」


 えっ? と固まるダンテに「多少なら壊しても大丈夫なところだから」と気軽に言われるが土魔法が使えないんですけど、と言いたいが楽しみに見てるマサムネに言い辛い。


 後ろを振り返るとホーラに「駄目元で打ってみな」と言われて、知識ではある初級の土魔法とストーンボールを唱える。


 唱えるとどこからとなく砂が集まり、ボール状になるとそれにダンテが驚いた瞬間、壁に目掛けて発射される。


 放たれたストーンボールが目の前の壁だけでなく隣の部屋の壁まで破壊する。


 それを絶句して見守るダンテと鼻水を垂らすマサムネ。


「す、凄い! 土魔法が使えた事もだけど、魔力の上限値が上がってる!」

「は、初めて打った属性魔法であの威力とか……ま、まあ、あれぐらいなら自動修理可能範囲……なはず?」


 嬉しそうにするダンテにヒースも嬉しそうに「得意の水魔法だったら?」と言われる。


 早速とばかりに試そうとするのを必死にマサムネが止めに入る。


「お願い、待って! 得意魔法とか打たれたらさすがに修復不可能になるから!」

「あっ、ごめんなさい」


 ダンテが思い留まってくれてホッとするマサムネにスゥが問いかける。


「私にも何かあるの!?」

「うん? ああ、あるけど、説明が難しいね……訓練や戦ってたら自覚するんじゃないかな?」


 投げやりな説明にスゥは拗ねるように唇を尖らせる。


 しつこく説明を求めるスゥに困った顔をするマサムネを苦笑いして見守っていたダンテがある事に気付く。


「それはそうとしてアリアとレイアはいつ頃出てくるのかな?」

「うーん、これは長いパターンの子かもねぇ~」


 質問攻撃するスゥから逃げるようにダンテの呟きに乗るマサムネ。


 逃げられたと悔しげにするスゥに何故か謝るダンテだったが、どうして、僕が謝ってるんだろう? と首を傾げる。


「長いヤツだったら、どれくらいかかるさ?」

「記録じゃ1カ月かな?」


 先程まで浮かれ気味だったダンテ達の空気が変わる。


「さすがにそんな長くいて大丈夫なんですか? 僕達も短いと思ってたけど誤認してただけで1時間経ってたという事は……」

「うん、人間である以上、死ぬね。まして、魂が加速させられた状態で2日は常人では耐えれない」

「なんとかならないの!? 最悪、アリア達が!!」


 子供達に迫られ、タジタジになるマサムネは困った顔を背後にいるホーラに向ける。


 すると、思わず背筋が伸びるマサムネ。


 見つめた先のホーラの目が、なんとかしないと殺すさ、と言葉にするより迫力がある目力でマサムネを見ていたからであった。


「とりあえず、落ち着いて? 過去にそういう事があったから、1日以上になるようだったら強制排出される緊急処置はされてるから!」

「本当さ?」


 そう言われたマサムネはカックンカックンと首が取れそうな勢いで頷いてみせる。


 立体映像なのに、つくづく器用な事を出来るようにしてある。


「今はその言葉を信じるしかないさ」


 そう言うとホーラは壁に凭れ、目を瞑る。


 それを見ていた子供達とザバダックはその場に座り、アリア達の帰りを扉を見つめて待つ事にした。






 ふと、レイアが目を開けるとそこは見覚えのない場所で岩肌が目立つ細長い山々に囲まれた、雄一が見たら中国の奥地を思い出させる景色がそこにあった。


 肩を突然叩かれて慌てて飛び退き、前を見つめるとそこには見慣れた顔、双子のアリアがそこにいた。


「おっ、アリアもいたのか? ここどこか分かるか?」

「ん、私も気付いたらここにいた。さぁ、知らない。でも……」


 アリアが遠くを指差す先を見つめると薄らと煙が立ち昇るのが見える。


 その煙は良く見るといくつかあるが、決して火事という風には見えない。


「料理に火を使ってる? と言う事はこの先に村がある?」

「多分」


 ここに居てもしょうがないと結論に行き着き、2人は顔を見合わせると頷く。


 アリアとレイアは煙が立ち昇る先を目指して歩き出した。

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