第14話 言っても意味ない。だってオヤツはお腹の中なのですぅ

 結局、『ホウライ』の目的が分かったところで、剣であるアリアを使って何をしようとしてるのかは、狙いである当のアリアですら心当たりはないらしく、話はそれ以上進める事はできなかった。


 アリア、レイア、ヒースの間に微妙な距離感とわだかまりのようなシコリが生まれる。


 アリアは実父に対する嫌悪感からいつも以上に口数が減り、ヒースはアリアへのほのかな想い、ノースランドの体を奪った男の実の娘であり、その父親が求める存在と色んな情報を得てしまい、引く事も進む事もできずに悶々としていた。


 中でもレイアが一番大変なのかもしれない。


 実父に視野外にされてるのに姉のアリアには執心してる事実に疎外感とアリアが羨ましいようで羨ましくないような処理しきれない感情と初恋の相手のヒースには実父が原因で多大な迷惑をかけてしまい、両方から挟まれるような立場であった。


 頭を抱えたレイアが良く分からない呻き声を出しているのを眺めるスゥとダンテが溜息を吐く。


「物凄く分かり易い構図だけど、でもどこから手を付けたら無事に纏まるか分かり難い状態なの」

「一番、非がなくて、責任を感じなくていいレイアが一番ヘコんでるという、おかしい光景が出来上がってるね」


 レイアが責任を感じる気持ちは分かるが、実際の事実だけを抜き出すと実父とアリアが原因で起こっている問題であって、レイアは家族の騒動に巻き込まれ、第三者から見て当事者の1人と認識された被害者とも言える。


 頭を使う事を得意としないレイアはその事実に気付いてない様子である。


「ふぅ、でも、あの時の疑問が1つ解消されたの?」

「何の話?」


 スゥが呟いた言葉にダンテが首を傾げる。


 人差し指を立てて、軽く揺らすスゥが説明してくる。


「『ホウライ』に操られたメグさんと戦った時、どうしてアリアだけ攻撃がキャンセルされた理由なの」

「ああ、そうだね、それが理由だったんだろうね」


 ダンテもあの話を聞いた後で気付いていた事ではあったが頷く。


 しかし、アリアへの攻撃を躊躇する事実に気付かずに戦っていたら、あの時点で『ホウライ』の目的が完遂されていたかもしれないと思うと背筋が冷たいダンテであった。


「何をともあれ、世界を傷つける事に躊躇しない相手だから何をするか分からない。気を引き締めて行こう」

「本当なの。最悪、この世界を傷つけるだけでなく滅ぼすかもしれないの!」

「……しれないじゃない。必要なら躊躇せずにする。アレは私達が生まれた世界を犠牲にした」


 明後日を見ていて人の話を聞いていると思ってなかったアリアが視線を動かさずに答えてくる。


 その言葉に絶句したのはスゥとダンテだけでなく、ホーラ達全員であった。


 いち早く立ち直ったレイアがアリアの肩を掴む。


「アリア、その話、アタシは聞いてない! どういう事なんだよ」

「ごめん。言っても意味がないと思ってた。アイツは何かを得る為に私達の世界を犠牲にした。アイツの心は読めなかったけど、最後に会ったオジサンから読み取った内容では、神を呼び出す儀式、と言ってた。そして喰らったと」


 アリアの言葉から実父、ムゥは『ホウライ』という神を喰らった半神半人である事を理解する。


 徐々に俯いていくレイアがアリアに問う。


「オジサンが言ってた、アタシ達を生贄にすれば世界が救われるって言ってたのは……」


 思いつめる妹の肩を逆に優しく掴む。


「違うレイア。確かにオジサンは出来ると思ってた。でも私達が犠牲になっても遅延する事すら無理だったとシホーヌが言ってた。レイアならそう考えると思ってたから黙ってた。ごめんなさい」


 俯くレイアにアリアは弱々しく「信じて……」と呟く。


 何せ、それを教えてくれたシホーヌの所在は分からず、元の世界の様子も見る事もできず、犠牲になった場合にどうなったかも見せる事ができないのだから。


 俯き合う双子の頭に平手打ちを入れていく長女。


 良い音を鳴らして叩かれた2人は恨めしそうに叩いた姉を睨む。


「済んだ事で変える事が出来ない事でグダグダ言ってんじゃないさ? 今、出来る事で取り戻せる事に頭を捻りな?」

「ミュウ、難しい事分からない。肉食べたら骨だけ。骨を見てても肉食べれない」


 ホーラらしい気付けとミュウらしい激励を受けた2人は苦笑いから自分を失笑する笑みに変わる。


「そうだな、2人の言う通りだ。この話はいつかな?」

「うん、覚えておく」


 仲直りをする2人にホッとするスゥとダンテは御者をするテツが苦笑いしながら見ているのに気付く。


 気付かれた事に気付いたテツは柔らかく笑うとみんなに報せる。


「ナイファ国の首都のキュエレーが見えてきたよ」

「やっとさ?」


 そう言うホーラがテツの横に来て見える城門を見つめる。


 振り返り、みんなに告げる。


「ここが港までに出来る補給ポイントさ。替え馬も出来ないから速度が落ちる事を考慮して準備をしっかりするさ」


 そう言われた子供達が頷くなか、落ち込むヒースの傍にいたザバダックが手を上げる。


「ここが最後? 確か、ワシがここに来た時、大きな街がもう1つあったはずじゃが? 名は……ダンガだったかの?」


 ダンガ、という言葉をザバダックが口にした瞬間、場の空気が凍る。


 一言では言い表せられない思いを胸に仕舞い、この1年間過ごしてきたホーラ達は切なさと愛おしさに包まれ、望郷の念に駆られる。


 溜息混じりに首を横に振るホーラがザバダックを見つめる。


「爺さんと言う通りさ。でもアタイ達にも事情があるさ。悪いけど、こちらの都合を押し付けさせておくれ」

「ふむ、分かった」


 さすが年の功と言うべきか察するモノがあったようで、あっさりと引き下がる。


 それに感謝するように目礼するホーラに少し思いつめた様子のスゥが声をかけてきた。





「あの……ホーラさん。少しでも急ぎたい時に自由時間を与えるのはどうなんでしょ?」

「自由時間じゃないさ。すべき事があるから準備作業から離れたいというのを了承しただけ」


 ずっとテンションが低いままのヒースが珍しく口を開いたかと思えば、先程、ホーラに単独行動を申し出たスゥにあっさり了承したホーラに突っかかっていた。


 ヒースが焦る気持ちも分かるが、スゥがしようとしている事も察しているホーラはスゥの行動を許していた。


 苛立ちげに頭を掻くホーラがヒースの胸倉を掴み上げる。


 目を白黒させるヒースを覗き込み、凄味を利かせた声で告げる。


「いいかい? アンタの父親の事を心配で焦るのは分かるさ。だけど、もっと周りを見渡しな? アンタをみんながどうみてるかをね。心配する者、どう触れたらいいか悩む者、色々さ? ちなみにアタイは、はっ倒したいと思ってるさ?」


 掴んでた手で突き離すようにするホーラは鼻を鳴らすと積み込み作業に戻る。


 ホーラに言われて周りを見渡すと女の子達には一斉に目を逸らされ、見てなかったように振る舞い作業に戻るのを見て下唇を噛み締める。


 そんなヒースに近寄ってくる少年、ダンテはポンと肩を叩く。


「ヒース、気を確かに持って行こう。残酷な事を言うようだけど、ザバダックさんの話から既に1年経過しているんだ。もう1~2日遅れても変わらない。しっかり準備しよう」

「それでも……急ぎたい時にスゥは何を……」


 俯いて拳を握るヒースから目を背け、城のある方向に目を向ける。


「きっとカラシルの件と『ホウライ』がヒースのお父さんに乗り移った事を家族に報告じゃないかな? 行き辛いと思うよ。何せ、家出同然で飛び出してきたんだから。ヒースも知ってるでしょ? スゥが何者かは?」


 ザガンに渡ってから連絡は出来なくなるし、今が最後の機会だとダンテに言われて、本当に視野狭窄になっていた事実にヒースは打ちのめされる。


 城を見つめながら溜息を吐くダンテはぼやくように言う。


「本当は他の人に報告に行って貰った方が穏便に済むんだろうけど、ウチの女の子達は逃げるという事に納得しないからね……」







 城へと続くまだ新しいと言える城門を見つめる。


 8年前に雄一に切り裂かれた城門が完全に作り終えてからそれほどの月日は経ってない為である。


 それを見上げて深呼吸する赤髪の少女、スゥは気合いを入れるように両頬を叩く。


「うし、行くのっ!」


 そう言うとスゥは口をへの字にしながら一歩前へと足を進めた。

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