異世界サウナへようこそ
まじろ
第1話 失われし楽園
サウナ、それは熱気荒ぶる部屋の中で己を磨かんとする男の世界!無骨なスチーム式設備によるサウナの入浴には発汗作用があり、火照った身体を癒しに水風呂に浸かることによって日々の疲れを汗と共に流し落とす場所である...そう思って仕事帰りに通っていたんだがな……
平日の夕方、通いのサウナのロッカーはほとんど埋まっていた。嫌な予感と共にかけ湯を済まし、木製の重いサウナ室のドアを開けるとすし詰めになった段から溢れんばかりのタオル一枚、裸の男たち。3段造りのベンチに座る男たちはまるでこれから始まるTVショーのお笑い芸人のようだ。俺は空いてる席をきょろきょろと見渡し溜息混じりに敷きタオルを尻に忍ばせてその上に座る。はぁ、せっかくの癒しのマイタイムをなんで見知らぬおっさん達と一緒に缶密閉されたオイルサーディンのようにぎゅうぎゅうと詰め合わせにされなければならないのか。その気持ちは他の誰しもが同じ、隣の若者もオレと同じように溜息をついた。
――昨今の日本、突如としてサウナブームが湧き上がった!
バラエティ番組では
サブカル方面では『弱虫サウナ』なるサウナアニメがスタートし、腐女子を中心に大ヒット。コンビニやいたる所のショップにはそのアニメキャラを模した裸の男たちのグッズが溢れかえっていてCMや広告もそれ推しで気持ち悪くって仕方が無い。
この日も2セット目に入ったサウナ室で目に付いた若者を仮想敵と見立てるも、5分としないうちに新たに訪れた客に席を譲るためそそくさと立ち去ってしまい勝負不成立。日に3度のロウリュには多数の参加者が押し寄せ、入り口の名簿に名前を記述する予約制になってからはその時間帯の館内利用を控えている。休憩室にも質の悪い客が増えた。寝転びながら開いた週刊誌のグラビアには肝心な
――もう嫌だ。ここのサウナが仕事の帰りに唯一身体を休められて蓄えた熱気を明日の活力に変えられる場所だったのに。ブームが収まるまでしばらくはプール通いでも始めよう。
嗚呼、さらば俺の楽園。重い気分でフロントにて会計を済ませると若い女の店員がオレの会員カードをスキャンして明るい声を響かせた。
「お客様、今回で30回目のご来店です!次回特典としてこのカードをプレゼントしますのでまたのご来店をお待ちしております!」
そう告げられて会員カードの他に新たなカードを手渡される。長い期間、週に2回も通っていれば30回の来店など早いものだ。もちろん会員カードの色はゴールド。
商品は店内のキャンペーンによって替わるらしく、初回時に30ポイント貯めた時は60分ボディマッサージ無料券を貰い、前回は館内で使われているスカルプ効果があるというシャワーヘッドを頂いた。しかし今回の景品は今までとは
異世界サウナ体験招待券か。俺はカードに書かれている文字を眺めて駅に続く道を歩きながら次第に日常に戻っていく寂しさの中でぼんやりと呟いた。
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