放課後怪異譚

黒井あやし

もういいかーい


 俺の友人の伏見は変わった男だ。


 いつも狐のお面をつけていて、授業中や昼休み以外ほとんど外さない。知り合ってからずっとだ。

 最初はいわゆる『中二病』なのかと思っていたのだが、後にそうでないことがわかった。理由を知ったのは、彼と初めてまともに言葉を交わした日のこと。

 今回はその時の話をしようと思う。


***


 高校に入学して間もない頃。クラスで各委員を決めることになった。うちの学校の委員会は生徒会を含めて全部で八つ。

 俺はもともと部活に入るつもりはなく、せめて委員会は何かやらなくてはと考えていた。

 部活と委員会の両立は大変そうだったし、部活をやっている者はなかなか委員会にも入ろうとは思わないだろう、という勝手な思い込みがあったからだ。

 ちなみになんで俺が部活に入らないのかというと、単に面倒くさいからというわけではなく、入りたい部がなかったから。

 でも、生徒会や学級委員みたいな周りに気を使うものや、体育会系は嫌だった。

やるなら保健委員か美化委員。あとは図書委員とか。とにかく、そういう当たり障りのない感じの委員会に入ろうと思っていた。


 「次は美化委員だな。誰かやってくれるひと――」


 美化委員の仕事は、主に学校内の掃除や用具の補充、管理などをする。

 もともと掃除は好きな方だし、目立たず大人しい印象だったので、俺は心の中で頷くとすいっと手を挙げた。


 「お。えーと、神田。……と、伏見か。ちょうど二人だな」


 ん? 伏見?


 見回すと、窓側から二列目の、後ろの席にいる男子も手を挙げていた。

 うちの学校は、ひとつの委員会にクラスで二人ずつ選ばれる。うちは共学だけど、小中学校みたく男女ペアにしなくてはいけない決まりは特にない。

 だが、俺はなんとなく伏見とは一緒になりたくなかった。正直、苦手なタイプだった。


 でも、もう後の祭り。


 「他にやりたいやついるかー?」


 シーンと静まり返る教室。

 まるで波一つたたない湖面のようだった。


 「よし、じゃあ二人にお願いするか。良かった~すぐに決まって」


 先生はなんとも機嫌よく黒板に名前を書いている。

 自分から手を上げておいて前言撤回するのもなんだか気が引けたので、俺はしぶしぶ受け入れることにした。


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