第107話 クラスメイトたち・その3
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僕とウルティマは今から2年前に長老から使命を受けて、村を旅立つことになった。
その使命とは『 大いなる光 3つ交わる時 世界は闇に包まれる 小さき選定者 各地を巡り 7つの光を集める 厄災の時 光の七戦士が集いて 厄災を薙ぎ払う 』という大賢者カダフィが『信託の書~
僕達兄妹がこの使命を課されることになったのは、光属性の魔力を帯びて産まれてきた時から決まっていた事だった。この世界において光属性の魔力を持つことは非常に珍しい事である。小人族の中では光属性を持つものは滅多に見られない。それが双子でその両方が光属性の魔力を扱える事から、長老は僕達2人が産まれた頃から光の選定者として育てる事にしたのだった。そして、僕たちが選定者であると同時に光の七戦士に加わることができるように訓練を施した。厄災を打ち払った後の種族間のパワーバランスにおいてイニシアチブをとるためだと聞かされた。
こうして力をつけた僕達は残る5人の光の戦士を探すことになった。最初は簡単に考えていたこの使命は最初に行きついた人族の町で早くも暗礁にのりあげた。
この広い世界でならば、光属性の魔力を持ち、厄災を打ち払おうととするものなら5人くらい簡単に見つけることができると考えていた。しかし、実際はそれほど簡単な事ではなかったのだ。
今ならば光属性がこの世界で貴重な存在であることが分かるが、この時の僕はまだその事に実感が湧いてはいなかったのである。
苦労して見つけた光属性保持者を「厄災を振り払うために一緒に戦ってほしい」と誘ったところ、二つ返事で断られてしまったのだ。光属性保持者は大抵教会に属し治癒師として活躍しているので、危険な戦いには参加しないのが普通だと教えられた。危険なことをしなくてもその身分が保証され収入も高額らしい。だから光魔法を操る者は冒険者にはならないのだ。
僕たちは旅をしながら、勇敢な光属性保持者を探した。そして、光魔法を使えるものを見つけては勧誘をしたが、全員に断られ続けた。なかには預言書自体を馬鹿にするものもいた。「そんな預言は聞いたこともないわ」だとか「光の七戦士だって? くっくっく、失礼」だとか、その度にウルティマは憤って、落ち着かせるのに苦労したものだ。
僕たちが旅を続けて1年経った頃だろうか。一つの噂が僕たちの耳に入った。それは【メガラニカ王国の魔導士学園で種族問わず特別クラスの生徒を募集している】というものだった。僕はそれを聞いたとき『これだ!!』と思った。
魔導士学園の生徒ならば光属性を持つものを探すのは容易なのではないだろうか。そして、一緒に学園生活を送り信頼を得れば、一緒に世界を救ってくれるのではないだろうか。
考えれば考えるほどこれしかないと思えた。しかし、ここで一つ問題があった。それは試験内容に筆記試験があるということだった。幼少のころから光の戦士として災厄を打ち払うために訓練をしていた僕たちが万に一つも実技試験で落ちるという事はありえない。
問題は筆記試験である。僕の知識ならば、実技試験を合わせれば楽に突破できる試験でもウルティマは別だった。ウルティマは知識をため込むことよりも体を動かすことを好んだ。それゆえに、筆記試験は彼女の前に立ちはだかる巨大な壁のようだった。
そこで僕たちは筆記試験を突破するために大賢者が禁忌とした秘術【
【
その不完全さから自ら作り出した魔法を闇へと葬り去った・・・はずだった。しかし、『信託の書~
そこで、この【禁忌の術】を使いアルティマに僕の知識の一部を転送することにした。3,4回の転送ならば何も問題は起きない事は他の生物を使って、実証済みなのだ。
僕の知識の一部を転送する事に成功したウルティマは無事試験に合格する事ができた。しかし、予期せぬことに【
その男はウルティマの後ろの席で試験を受けていたシリウスという男だった・・・
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弱みを握られてしまった私たちは、特別学園を辞退することも考えた。しかし、シリウスという男は私達の話を聞いて自分こそが【光の戦士】であると主張した。そして、自分がいれば世界を救うことができると言い張った。
私たちはそれを信じ、魔導士学園に入学する事にした。本来の目的を果たすために、【光の戦士】を7人探すのだ。
しかし、入学してからシリウスは【光の戦士】を探そうとはせず、自分の都合のいいメンバーを仲間に引き入れようとしていた。そのメンバーは特別クラスではなく一般クラスのメンバー等見るからに力の無さそうな面々である。
私たちはシリウスに提案した。
「なんで特別クラスから仲間を集めないのよ。特待生になったリーンやソロモンなんかに聞いてみたほうがいいんじゃない?」
「これだから落ちこぼれは・・・あの二人には不審な点があるから、今はまだ誘わない方がいい」
シリウスに弱みを握られたために、私達はすっかり主導権を奪われてしまっていた。【光の戦士】を集めるのは本来選定者である私達の役目のはず。私は歯噛みした。
「不審な点って? それに今はまだって事はこれから誘うかもしれないのか?」
アルティマが聞いた。
「あいつらは試験官を操って不正に入学してるからな。世界を救う英雄の資格はない。いずれ私が自分の力がどれほど矮小なものかをつきつけ従順にするつもりだ。それから、光魔法の適正があるなら仲間にしてやらんでもない。荷物持ちくらいなら任せられるだろう」
「それって本当のことなの?」
私はシリウスの事がいまいち信用できなかった。自分の都合のいい仲間を集めているだけではないのだろうか。
「リーンやソロモンと一緒にいるアギラという男を知っているか? あの男は筆記試験で17点しか取っていないにも関わらずこの試験を突破している。それが不正があった何よりの証拠だ。それに、私はあなたが【記憶転送】の魔法を使っているのさえ見抜いた男なのだ。試験官に幻覚を見せて操ったかどうか調べればすぐにわかることだ。言わなくても分かると思うがな、やれやれだ」
たしかに秘術と言われた【記憶転送】の魔法を知っているばかりか、それが使われていた事を見分けるその眼力は本物である。
私はそれからアギラという男を視線で追うようになった。
異種族のものたちと仲良くするばかりか、自分の店までも持っていることを私は突き止めた。
私は不正という弱みにつけこまれ、雑用をおしつけられ、席取りもさせられた。私との立場の違いを見せつけられ良くない感情が私の心を覆った。
なんで私と同じように不正をして、実力もないアギラという男はのうのうと暮らしているのよ。私はこんな目にあってるっていうのに。私は実力もないこのアギラという男を許すことができなかった・・・・
一緒に慈善活動を行うまでは・・・
私の狭い視野で考えていたことはすべて間違いだったのだ。彼は私達とはけた違いの実力者であった。あれが全て現実という事であれば、
そして体術も訓練を積んだ私の目を持ってしてもその全てを捉える事はかなわないものだった。
私たちは本物の【光の戦士】を見つけたのだ。シリウスなどという偽物とは天と地ほどの差がある本物である。
私はアギラにとっていたこれまでの非礼を思い返し、取り返しのつかないことをしてしまった事を悟った。私は選定者として、あるまじき行為をしてしまったのだ。
さらにアギラは言った。
「もし仮に不正をしたとしても、それが魔法によるものであるなら特別クラスにいてもいいんじゃないか? 試験官を操る魔法なんてそれはそれで凄い気もするけど・・・」
私の心に絡みついた黒い呪縛がその言葉を聞いて軽くなる。
そうだ、私は確かに不正をはたらいた。しかし、言い方を変えれば、魔法を使って前もって準備して臨んだ結果なのだ。私の光魔法の実力が他のクラスのものより劣っているわけではない。
私がシリウスに従順に従う必要なんてないんだわ。
私の目ははっきりと覚めたのだ。
私たちはアギラに全てを話すことに決めた。最初に態度を悪くしていたためになかなか言い出せなかったが、私たちは夏休みに入り、決心してアギラの寮を訪れた。扉をノックして返事を待ったが、なかなか返事はない。どうやら、部屋の中に人の気配が感じられない。今日は留守であろうか。諦めかけたその時、そこへ獣人の2人が後ろを通りかかった。
「どうしたにゃ? アギラに何か用かにゃ?」
確か同じクラスのミネットという獣人である。横に歩くのはカインという同じく獣人だった。
「ええ。そうね」
「アギラは夏休みの間『ジパンニ』に合宿に行くって言ってたにゃ。だから、しばらく帰ってこないにゃ」
「そう・・・」
こんなことならもっと早く話せば良かったわ。いや、預言の日までまだ時間はあるわ。再び会った時に少しでも追いつけるために私も特訓をしなくては・・・・
私はさらなる高みを目指す決意を固めた。共に並び立つために・・・
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