第105話 一難去ってまた一難
いかにも人一人や二人くらいは殺っちゃってるような風貌の男達に足止めをされた俺は今の状況を整理するくらいには冷静であった。なぜなら進路をふさぐ男達に全くもって脅威を感じないからである。ナイフをちらつかせて威嚇している台詞も小物感満載である。
俺は思考をフル回転させ分析を開始した。双子の断片的な情報からすると、どうやら同じクラスのシリウスが関係しているようなのだ。それも俺が試験官を操って不正な行為をしたと思い込んでいるらしい。加えて、特待生として入った3人も疑われているようであった。
この3人の共通点に気付いた自分を褒めたいところである。そもそもこれに気付いたのは、俺の仲間というならカインやミネットの名前も出るはずだが、それが出なかったのだ。つまりリーン、ソロモン、ゼロに共通する何かがあると考え推理した結果、3人は特待生である事を思いだしたのだ。
そこまで考えて前の男達を見ると一人が取り出したナイフを舌を這わせ舐めんとしている。はっきり言って気持ちが悪い。ジャンキーである。どう考えても雑魚としか考えられない。俺のことを落ちこぼれだと思っているようなので、シリウスはこの程度の悪役を用意したのであろう。
となると今この状況では後ろにいる双子こそ警戒しなければいけないところである。双子の立ち位置がいまいちわからないが、シリウスと結託している可能性がある。つまりはこの状況で俺を襲ってくる可能性だってあるのだ。俺は念のため身体強化だけでなく魔法防御も無詠唱で重ね掛けした。
『
『
俺が自身を強化している時に、後ろにいた双子が予想外の行動に出た。俺の前に回りガラの悪い男達に対し戦闘態勢に入ったのだ。
あれ? どういう事だ。何かの演技か?
「天下の往来で刃物を抜くとはやられても文句はいえないぞ!!」
アルティマが吠えた。
「そうよ!! 私達を誰だと思ってるのよ!!」
相変わらずウルティマはオラついていた。
それにしてもこれはどういった訳だ? シリウスと双子は関係していないという事か? まだ油断はできない。しかし、だからといって静観しているわけにもいかない。リーン達にも危険が迫っている可能性があるのだ。俺が考え事をしている間にも事態は進んでいく。
「 光の精 霊よ 瞬速 の光矢となり て 獲物 を狩れ
「 光 の精霊よ 天翔ける 龍の如き 一閃と なれ
それぞれ魔法を詠唱しているが、どことなくおかしなリズムになっている。
「なぜだ?!!」「どういう事よ!!」
2人の魔法は詠唱を終えても発動しなかった。
もしかすると、アルティマは先の
「へっ、へっ、へっ、ブラザーの言うとおりだな。おチビちゃんよ~。邪魔だよっ!! オラーッ!!」
「ぶっ飛びやがれッ!!」
俺の前に出てた双子2人はガラの悪いやつらに蹴られ、左右に吹っ飛んだ。その吹っ飛び方は演技などではなく本当に痛そうであった。2人は倒れた上半身を起こし苦悶の表情を浮かべている。2人が致命傷ではないのを見て、俺は後で治せばいいかと安心した。
「次は
男がナイフを振りかぶる。だが、俺にはまるでスローモーションのように見えた。2本指で白刃どりするか、それとも一発で意識を刈り取るかなんて事を考える余裕すらあった。
だがそこで視界の左端がきらりと光った。次の瞬間、俺の左腕が吹き飛んだ。
「がっ!!」
モブと思って、完全に油断した。少し右に動かなければ心臓を貫かれてジ・エンドであった。俺は咄嗟に自身を強化する。
『
『
俺は久しぶりの強烈な痛みに襲われていた。だがここで意識を刈り取られるわけにはいかない。次弾を受ければ本当に終わってしまう。この痛みは初めてではないのだ。初めてであれば、片腕を失えば意識を失うことだろう。しかし、何十回と経験したことがある痛みなので、なんとかそれは免れた。俺はひとまず止血のため
俺は右に倒れながら、目の前のナイフで攻撃をしてくる男の足を払う。
「ぐぎゃーッッッ!!」
足を払ったつもりが、男の足首から下を2本とも切断してしまう。男は支えを失ってぐらりと倒れ始めた。スローに見えるその顔は断末魔の叫び声を上げ、この世のものとは思えない。足の切断面からは大量の出血が始まり、地面を赤く染め上げる。
俺はパニックである。油断していたとはいえ俺の『
やばい、やばい。殺してしまうぞ。俺は焦った。
向こうも殺そうとしてきたのだから、正当防衛ではあるのだが、出来る事なら殺しはしたくない。ましてや相手は人である。俺は倒れる男に
その時、またもやきらりとした光が俺の視界に映った。避ける事もできるが、ここは道の真ん中である。背後を確認できないが、誰かがいればやばすぎである。『
『
瞬時に俺は闇魔法で防御する。
俺の闇魔法は次弾を消し去ることに成功した。俺は魔法を使ったやつを特定すべく男たちを見回した。男たちは一定の距離を保ったまま全員呆然として、一点を見つめていた。それは敵である俺ではなく、血の池にポツリとある切断された足であった。その顔には恐怖すら浮かんでいるようにも見える。じりじりと後退する。
他の男たちは、襲いかかろうとはしてこない。どうやら戦意喪失のようである。
「あ・・・あれは・・・」
アルティマが上を見ながら驚いた声をあげる。
「そんな・・・まさか・・・」
ウルティマも空を見上げプルプルしていた。
周りを警戒しながら俺もチラリと上を見る。巨大な魔法陣から大きな光の槍の先端が現出し始めていた。
あれは確か・・・
「「 古代光魔法 『
双子がハモる。
あんなものをここに落とせば、町が吹っ飛ぶんではないだろうか。『
そこで俺はハッと気がついた。この世界の住人にはジャンキーとも思える行動に出る者達がいるという事を。これは自爆というやつか。なんのためにここまでするのか? 俺は思考をフル回転させるが、いっこうに答えに辿り着けない。
俺は魔法を止めるべく行動に出た。まずは『
「あ・・・あ・・・」
ウルティマはまだプルプルとしていた。俺が強い事にビビらしてしまったかもしれない。
「ま・・・魔力が暴走している」
アルティマが上を見ながら呟いた。
俺も上を見上げる。すると、先ほど上空にあった魔法陣は未だに消えておらず、光の巨大な槍がその姿を現した。
なんでだ? 術者の意識がなくなれば魔法の発動はとまるはずなのに・・・・ これがいわゆる死後に強まるなんとかってやつか??
わけがわからなかったが、すぐに対処しなければならない。術者を倒すという方法が無理だったのだから、あの魔法自体を何とかしなければならないのだ。
俺は右手を『
『
俺の右手から黒い鎖が出て『
「アーサー、師匠の薬を俺に飲ませろ」
俺はフードにいるアーサーに呼び掛けた。
「・・・・・・・・」
返事がない。
「アーサー・・・おい、アーサー」
右手は使う事はできないし、左腕は無くなっているので、俺は体を揺らした。
「ん・・・何ですかにゃ? おやつの時間ですかにゃ?」
今、起きたかのような声である。こんな状況でずっと寝ていたとは・・・
「アーサー、師匠の薬を俺に飲ませろ」
俺は再度同じセリフをアーサーに言った。
「どうしたんですかにゃ。って、左腕がないですにゃ!! ピンチですにゃ!! あっちに任せるにゃ!!」
アーサーは状況を理解し、時空魔法を唱える。そして、俺に薬を飲ませた。
薬を飲んだあと左腕の再生がすぐさま始まった。俺は再生が終わるやいなや、左腕を掲げて闇魔法を発動させる。
『
左手からも黒い鎖を顕現させる。その鎖も一本目と同じように光の槍へと向かった。その時、光の槍の穂先から魔法陣が出現し、光の槍を炎が包み込んだ。
何だ? 炎で強化か? でも今さら遅いぞ。そんなちゃちな炎を纏ったくらいで何も変わらない。
2本目の黒い鎖が槍に巻き付いた時、俺の2つの闇魔法が融合し、その威力を何倍にも増幅させた。そして、光の槍は最後に現れた炎とともに霧散して消えた。
なんとかなった事に俺は安堵した。
そして、この場の惨状も早急になんとかせねばならない。ここは貴族たちの住む住宅街である。この地獄絵図のような惨状はこのまま放置するわけにはいかない。俺はアーサーからもう一本薬を受け取り、足首の切断された男の口に無理やり流し込んだ。その男は意識は戻っていなかったが、足の再生を無事に行っていた。
次に地面に落ちた2つの足首と俺の片腕を『
2人の双子を見ると、2人とも右手で自分の頬をつねっているようだった。しかし、その指には力が入っているようには見えず、呆然とした顔でこちらを見ているようだった。俺は2人に『
「どれほどの・・・いや、まさかお前が探し求めていた『光の戦士』・・・」
アルティマは何かよく分からないことを口にした。
「嘘よ!! そんなの・・・・絶対、嘘よ!! それなら私は・・・」
ウルティマの声にいつもの元気がなかった。その声はだんだんと小さくなる。
2人の言葉に興味があったが、俺は我に返った。リーンの元へと急がねばならないのだ。落ちこぼれと思われている俺にここまでの刺客をさしむけてきたのだ。特待生と思われているリーンが危ないのである。
俺はリーンのいる可能性のある病院へとむかおうとした。その時、またもや数人の男達による邪魔が入ったのである。
「往来で争いがあると知らせがあって来ました。王城の近くで争いを起こすとはいい度胸ですね」
どうやら誰かが通報したようである。王城の警備兵がわざわざ来てくれたようだ。
「私は調査兵団のザックです。・・・どうやら争いは終わってるようですね。何があったか聞かせてもらえませんか?」
倒れた男達を見回したあとにザックは俺に尋ねた。
リーンの元へと急がねばならないというのに・・・・俺は焦燥感にかられた・・・・
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