第87話 アバロン湯けむり殺人事件 ~真相解明編~

~名探偵・エラリーの視点~



この2カ月の間に6件もの殺人事件が起こるとは、この宿には何か得体のしれない負の力が働いているのかもしれません。

私は5件目の事件の解決の依頼でこのアバロンに宿泊していたのです。その解決もまだだというのに、まさか次の犠牲者がでてしまうとは・・・

犯人の凶行を止めることができなかった私は自分自身を咎めました。

私が犯人を特定できていれば、この第二の殺人は防げたのではないでしょうか。


いや、待ってください。この2つの殺人事件は関連性のない事件という可能性があります。危ない所でした。

私は前の殺人事件の解決に手詰まりを感じて、無理やり2つの殺人を結び付けようとしていました。

しかし、この2つの殺人事件は全く別の犯人という可能性があります。素人がやるようなミスを危うく犯すところでした。

私だからこそ気づけたものの、三流探偵なら無理やり2つの事件を結び付けてこんがらがり、事件はここで迷宮入りしていたに違いありません。


1週間前に起きた事件では、事件発生から私が呼ばれるまで2日が経過していました。そのため初動捜査が大幅に遅れてしまい、犯人を特定できなかったのです。

しかし、今回は私の目と鼻の先で起こったのです。犯人もまさかこの名探偵エラリーが同じ宿に宿泊しているとは思わなかったでしょう。だから、犯人もまだ今なら証拠を隠せていないのではないでしょうか。

いや、きっとそうに違いありません。必ず暴いて見せます。このエラリーの名にかけて・・・


私はまず今回起きた事件の関係者から聞き取り調査をしました。


~ハリスの側近・S級薬師・ドミニクの証言~


私がハリス様と最後に一緒にいたのは食堂でした。そこで、ボディーガードのグスタフと3人で食事をとったのです。食事を終えたハリス様は部屋から妻を2人連れて混浴風呂に入られました。

私達2人は男湯へと入ったのです。そこで私達は混浴風呂から出てきた少年に出会いました。

その少年は食堂でハリス様に無礼な態度をとっていた少年でした。その少年はあろう事か私達を見るといきなり襲いかかってきたのです。不意をつかれた私達は朝まで気絶させられるという失態を犯してしまいました。

あの少年が犯人に間違いありません。ハリス様を亡き者にしたのはあいつしか考えられないのです。



~ハリスの側近・A級戦士・グスタフの証言~


あいつは何もんなんだ。俺があんなにあっさりやられるなんて考えられねぇ・・・

えっ、あいつが犯人かって?

それは間違いない。俺達に恨みを持っていたからな。俺たちをやった後、混浴風呂に戻りハリス様を殺害したんだろう。・・・いや、もしかすると、俺たちと風呂で出会ったときにはもうられた後だったのかもしれねぇ。

お、俺はあいつが恐ろしい。



私は別々に聞いた2人の証言がほぼ一致しているのを確認しました。2人の話は俄かには信じがたい話ではありますが、グスタフの怯え方を見るとあながち本当の事なのかもしれません。

しかし、まだ確定はできません。これが演技という事も考えられるのです。



~食堂のおばちゃん・ヤナの証言~


たしかにハリス様達と少年たちが何か話をしているのは見かけたわ。私達もそれを見て、はらはらしていたのよ。けど、何事もなくてほっとしたわ。だってそうでしょ。ここ最近この宿では物騒な事件ばかり起きてるんですもの。今度は私達の目の前で悲惨な事が起きるんじゃないかって思っちゃったのよ。そんな光景を見てしまったら食事も喉を通らなくなるわ。えっ、私なら大丈夫だって。やーね。失礼しちゃうわ。こう見えても最近事件が続いちゃったせいで、げっそり痩せちゃってるのよ。友達からはその調子でいけば体重が無くなっちゃうんじゃないのって、心配されちゃって・・・えっその後どうなったかって?

その後はハリス様と3人で食事をとられていたわ。貸し切り状態だったからね。

そのからは食事時も過ぎたので、ずっと誰も来なかったわ。

・・・そう言えば、あの後少年と少女が食堂に来ていた気もするけど・・・こんな情報、事件とは関係ないわよね。

えっ、いや、その少年とは違うわよ。別の少年だわ。



どうやら2人の証言は信憑性が高まったようですね。不確実な事は排除し、確実な事だけを残していく。そうすればおのずと事件の真相に突き当たります。

今のところ怪しいのは混浴風呂から出てきたという少年という事になりますね。私はその少年に事情を聞く事にしました。

その少年は一貫して容疑を否認しています。

話してみると、私にはどうしてもこの少年があの2人を簡単に倒してしまった事に疑問を持ちました。この事件は何かが隠されているのではないでしょうか。ハリスと言えばメガラニカ王国で絶大な発言力を持つ宰相の三男です。

どうやら、大事件の予感がします。私の脳細胞が歓喜しているのが分かります。

私は聞き取りを続けました。



~魔導士学園の先生・ティーエの証言~


そうですか。いつか何かやると思っていましたが・・・とうとう本性をあらわしたのですね。間違いありません。アギラ君が犯人で間違いないと思います。ここだけの話、彼は見た目は子供ですが、中身は悪魔なのです。しかし、慎重に行動してください。あなたの行動に世界の運命がかかっているのです。


この方は北の大陸を勇者ジークと縦断したという大魔法使い・ティーエですか。魔導士学園で先生をしているとは聞いた事があります。こんなところでお会いできるとは。

それにしても、アギラという少年は学園でも手をつけられたないほどの問題児のようですね。少し表現がおかしい気もしますが、北の大陸を縦断しようとする方です。人とは感性が違うのでしょう。それにしても、いよいよ、アギラという少年が犯人である可能性が高まってきましたね。

これだけの状況証拠が出そろえば、証言だけでも有罪と断ずることができるのではないでしょうか。



~魔導士学園の生徒・クロエの証言~


ア、アギラさんですか。す、すごく頼りになる方です。ま、魔導士学園の特待生なんですよ。す、すごく強くて、皆が失敗するような依頼でも、ひ、一人でこなしてしまうんです。せ、先生も、助けられたことがあるんです。せ、先生も一目置いてる存在です。

えっ、アギラさんがそんな事をするとは思いません。何かの間違いではないでしょうか。



~魔導士学園の生徒・ドロニアの証言~


・・・強いのは間違いない・・・・したかどうかは分からないわ。



~魔導士学園の生徒・ソロモンの証言~


アギラがそんなことするとは考えられないな。風呂で別れるまで、そんな素振りは一切なかったからな。

学校で?いや、周りに流されず、差別なくみんなと接しているいいやつだ。いろいろと誤解されているとも聞いているが、そんな噂は多分ガセだろう。

そういった噂があてにならないのは私が一番知っているからな。


生徒達から信頼があるようですね。問題児だが情には厚いタイプということですかね。ティーエ先生も生徒に負けたくないと思って、あんな比喩的表現を使ってしまったのでしょうか。

しかし、アギラという少年が今のところ一番怪しいことには変わりありません。


私は一番重要な人物達から最後の聞き込みをしました。



~ハリスの妻・インジシュカの証言~


混浴風呂へはハリス様が先に入られて、それからしばらくしてから私が入りました。ハリス様が貸し切りにしていらっしゃったので、混浴風呂には私とハリス様以外誰もいませんでした。

えっ、少年ですか・・・私の記憶では見てはいないと思います。はい。確かです。

その後、ハリス様は少し不機嫌になっておられて、1人になりたいからと私達に部屋に戻っているようおっしゃいました。

最近何か上手くいっていない事があったのか、よくドミニク様にあたってらっしゃったので、逆鱗に触れてはいけないと思い、素直に従いました。

その後はアンナと共に部屋へと戻りました。




~ハリスの妻・アンナの証言~


私はハリス様から用事を頼まれたので、それをしてから混浴風呂の脱衣所に向かいました。しかし、脱衣所に着くと、インジシュカに部屋に戻っておくように言われました。ハリス様のご命令だそうです。

私はインジシュカと一緒に部屋で待つことにしました。部屋で待つアスと3人でハリス様の帰りを待っていたのですが、一向に帰ってきませんでした。

明け方頃にドミニク様が血相を変えて部屋に飛び込んできました。

私達はそこでハリス様の死を知ったのです。



この2人の妻たちは『隷属の首輪』をしています。だから、ハリスに危害を加えるような事はできないでしょう。『隷属の首輪』には主人に対して服従させる効果があるのです。それは誰もが知っていることです。

何故、ハリスが1人になりたいと思ったのかが分かりませんが、その後1人になった時に殺害されたとみて間違いないでしょう。つまり、その時にアギラという少年が混浴風呂に戻り、ハリスを殺害した・・・やはり、全員の証言を聞いても結論は変わりませんでしたか。

何かあと一つ足りない気もしますが、これだけの状況証拠がそろっているのです。ほぼ間違いないでしょう。


私は事件関係者を食堂に集めました。

「今からこの恐ろしい事件の真相を皆さんにご説明します。」

私は皆を見渡しました。

皆一様に緊張した面持ちをしています。犯人であるアギラと言う少年は前かがみになって食堂から逃げようとしています。私が呼び止めようとしました。その時、少年は大きな声で叫びました。


「あれれ~。おかしいぞ。こんなところに赤い染みがあるぞ。せんせー。昨日の献立にトマトってありましたっけー。」


「ど、ど、どうしたんですか。い、いきなり。き、昨日の献立には・・・トマトは・・・なかったと思います。」

魔法使いのティーエがそれに答えました。


「あれー。じゃあ、なんでこんなところにトマトの染みがあるのかな。おかしいぞ。」


私はそこへと足を運びました。

こ、これは、私には分かります。これはトマトの染みなんかじゃありません。血痕です。そこで私の頭の中で何かがはじけました。

そうか、そうだったのか。

私は、くまなく食堂の床を調べました。そして、とうとう見つけたのです。私はすぐに皆を食堂に残し死体を確認しました。そして、私は確信しました。

全てはフェイクだったのです。

危うく騙されるところでした。なんて恐ろしい事を考えるのでしょうか。私以外が調査をしていれば、アギラという少年に無実の罪を着せるところでした。

後は証拠です。今回は事件発生から、まだ時が経っていません。犯人はまさかこの名探偵がこの宿に泊まっているとは思わなかったはず。だから犯人は証拠を処分せず、まだどこかに隠し持っている可能性があります。


私の推理が正しければ犯人はあの人で間違いありません。私はその犯人の可能性のあるものに身体検査をしました。

そして、発見したのです。

動かぬ証拠というやつを・・・・




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